THAAD サードと読む。Terminal High Altitude Area Defenseの頭文字を取った造語。直訳すれば「終末高々度地域防空」


解説                     総合索引

 米国が配備を進めている、移動式弾道ミサイル防衛システムの名称。
 海外に展開する米軍、および重要地域に飛来する
短・中距離弾道ミサイルを、大気圏上層または大気圏外で迎撃する
d.
 
 当初は、Theater High Altitude Area Defense system(戦域高々度地域防空システム)と呼ばれていたが、Terminal High Altitude Area Defense system(終末高々度地域防空システム)に変更された。

 弾道ミサイルを、高高度・遠距離において破壊するTHAADは、万一、迎撃に失敗しても、次弾を発射する機会があり、弾道ミサイルの破片などが落下する可能性も少ない。上層をTHAAD、低層をPAC−3が担当する層状防空により、高い確率で弾道ミサイルを迎撃可能である。

 2017年 現在、米陸軍は6個 高射隊の配備しており、その内、2個 高射隊をグアム、韓国に展開している。将来的には9個 高射隊を配備する計画だ。
 また、アラブ首長国連邦にも導入されており、日本、サウジアラビア、カタール、クウェート等も、導入を検討中である。

 THAADシステムの構成を以下に挙げる。

  • THAADミサイル

     THAADシステムの中核。弾道ミサイルを、高高度で迎撃する全長6.17m、弾体直径0.37mの地対空ミサイル
    最大速度は毎秒2500m(音速の7倍)以上である。
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     THAADミサイルの構造は大きく3つに区分される。

     前部はKV(Kill Vehicle:迎撃体)と呼ばれ、炸薬は内蔵しておらず、運動エネルギーにより目標を破壊する。

     先端部分はサファイア製センサー窓に、シュラウドと呼ばれる覆いが取り付けられ、大気圏内では空気抵抗を減少させ、空力過熱からセンサー窓を保護している。所定の高度に達すると、シュラウドは投棄される。センサーは画像赤外線素子を使用している。
     センサー後方は慣性航法装置GPSを内蔵する誘導・制御装置だ。
     この後方はDACS(Divert and Attitude Control System 進路変更・姿勢制御システム)の噴射口が中央部に4ヶ所、後部に6ヶ所あり、ミサイルおよびKVの姿勢・機動制御をおこなう。


     中間部分はKVとブースターを連結し、インターステージと呼ばれる。

     ミサイル後部は固体推進剤ロケット・モーターで、首振り式ノズルを装着するTVC(Thrust Vector Control推力偏向制御)方式である。ロケット・モーター後部には発射後展開されるフレアと呼ばれるパネルが装着されており、ミサイルを空力学的に安定させる。


    ミサイルはグラファイト・エポキシ製のキャニスターに密封されており、10年間 保管可能だ。

  • 発射機

     THAADミサイルを運搬、発射する装輪式トラック。限定的ながら、不整地も走行可能な機動力を有する。

     米陸軍が使用するM-1120HEMTT-LHS(重高機動戦術トラック、貨物取扱い装置付き)改良型に、THAADミサイル・キャニスターを8基搭載可能なパレットが取り付けられており、2基のシリンダーにより発射位置に起こされる。発射機はTFCCにより制御され、再装填は搭載するクレーンにより30分以内に完了する。
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  • レーダー・セット

     THAADシステムの目となる、X(10GHz帯)バンド、フェーズド・アレイ・レーダー、制式名称はAN/TPY-2。 25344個の半導体素子で構成され、1000km以上の探知距離を有する。

     弾道ミサイル発射の探知、発射・弾着地点の予測、追尾、弾頭とオトリ等の識別、効果判定の他、発射されたTHAADミサイル追跡および、中間飛行経路のアップデートもおこなう多機能レーダーである。

     レーダーの運用には、THAADシステムの一部として機能する終末配備(Terminal-Based)モードのほか、レーダー・セットのみで、弾道ミサイルの脅威に、さらされている地域に展開し、ネットワークを通じて、イージスBMDGMD(地上配備型中距離弾道ミサイル防衛)等の弾道ミサイル防衛システムに目標情報伝達を行う前方配備(Forward-Based)モードがあり、2016年現在、イスラエル、トルコ、中東及び日本(2セット)にも展開中である。
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     レーダー・セットは、レーダー本体、電源装置、冷却装置、電子装置、統制装置などで構成され、トレーラーで牽引される。



  • TFCC(THAAD Fire Control and Communications:THAAD射撃統制・通信 )

     THAADシステムの頭脳、および中枢神経。

     TFCCは、TOS(Tactical Operations Station:戦術運用ステーション ) 、LCS(Launch Control Station:発射統制ステーション)等で構成され、レーダー制御、射撃統制、指揮、通信、情報評価をおこない、上級司令部や他の防空システムとも連携する。
     
     この他、各種支援車両が加わる。


 THAADミサイルは発射直前、レーダーからの情報に基づき、飛行経路および目標位置情報を受け取り発射される。以後は必要に応じてアップデートを行うだけで良いため、複数の目標に対処可能だ。


【補足】

 THAADミサイルが、ホワイト・サンズ、ミサイル射場での飛翔試験において、発射直後に実施していた、らせん機動を、THAAD Energy Management System maneuver(THAADエネルギー管理システム機動)と呼ぶ。 (c) Weapons School  All rights reserved.
 本機動の目的を、一部書籍では、飛行方向を決める、または、赤外線センサーの目標を捉えるためとしているが、これは誤りである。

 飛行方向を決めるには、発射後、機体軸周りにロール機動を実施すれば良く、右の写真の様な、らせん機動を行う必要はない。このような機動は、飛翔エネルギーの浪費である。

 また、THAADミサイルに搭載される画像赤外線センサーには、センサー窓を空力加熱から保護するシュラウドが取り付けられており、これが投棄される高度約40kmまでは、画像赤外線センサーは目標を捉えることはできない。

 らせん機動の目的は、THAADミサイ試験に使用されるホワイト・サンズ・ミサイル射場の空域制限により、発射直後の加速段階で、飛翔エネルギーを消費させることにあり、本来は必要のない機動である。

 これは、ミサイル防衛局の報道でも"That maneuver was required strictly because of space limitations at White Sands"「(らせん)機動はホワイト・サンズ(射場)の空域制限により厳密に要求された」と明記されている。
THAAD Equipment Arrives in Hawaiiより引用。

 所定の高度に到達すると、シュラウドは投棄され、KVも切り離される。以後は搭載する赤外線センサーにより自律して目標を捜索、DACSにより飛翔経路を補正しながら目標に体当たりする。

 THAADシステムには、基本形態のTHAAD 1.0のほか、早期警戒衛星イージスBMDなど、他のセンサーからも目標情報を受け取り、オトリ識別能力を向上させた
THAAD 2.0がある。さらに、ミサイル本体を改良し迎撃範囲を拡げたTHAAD Follow-On(次世代)の開発も検討されている。

 THAADシステム運用上の制約は以下の通り。

  • 高度40km以上での運用を前提としており、これ以下の高度を飛行する航空機、ヘリコプター、巡航ミサイル、無人機などには対処できない。このためパトリオットやホークなどの防空手段と組合せて配備する必要がある。

  • THAADシステムの空輸にはC-5、C-17などの大型輸送機を必要とする。

  • レーダーの捜索範囲は水平方向に約120度と限定される。


                                                              
2017年 3月19日 改訂


性能・諸元

THAADミサイル
全  長:6.17m
弾体直径:0.37m(インターステージ部分)
重  量:600kg
最大速度:2500m/秒
(音速の7倍)以上
最大射程:200km以上
最大射高:150km以上
最低射高:約40km
メーカー:ロッキード・マーチン社他


参考文献

検証 日本弾着 石川潤一、岡部いさく、熊勢伸之 扶桑社
THAAD、遂に迎撃試験に成功 岩狭源晴 雑誌 軍事研究1999年12月号 
Back in the melting pot  Mark Hewish Jane's INTERNATIONAL DEFENSE REVIEW 2002年3月号
BOEING社ホームページ
Department of Defense Fiscal Year(FY ) 2017 President's Budget Submission February 2016 Missile Defense Agency Defense-Wide Justification Book Volume 2a of 2 Research,Development,Test&Evaluation,Defense-Wide
Environmental Assessment Theater High Altitude Area Defense (THAAD) Pacific Test Flights 20 December 2002 U.S. Army Space and Missile Defense Command
Field Manual No. 3-01.11 Air Defense Artillery Reference Handbook U.S Army
Jane's ホームページ
Jane's LAND-BASED AIR DEFENCE 2001-2002 Jane's Information Group
Jane's STRATEGIC WEAPON SYSTEMS ISSUE THIRTY-SEVEN Jane's Information Group
Lockheed Martin社ホームページ
Lockheed Martin Corporation "Integrating Air & Missile Defense" RUSI Missile Defense Conference April 12-13,2016
Missile Defense Agency Missile Defense Agency Cost Estimating Scott M Vickers Director, Cost Estimating and Analysis Missile ホームページ
Missile Defense Agency stimates Overview Missile Defense Agency
MODERN U.S.MILITARY VEHIECLES Fred W.Crisman MBI Publishing Company
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Terminal High Altitude Area Defense (THAAD) Program Presented to:13th Annual AUSA Tactical Missile Conference Presented by:COL William L.Lamb,PM Missile Defense Agency/THAAD Project Office 25-26 April 2011
THAAD Equipment Arrives in Hawaii 18 October 2006 Missile Defense Agency
THE MISSILE DEFENSE PROGRAM  2009-2010 Missile Defense Agency
Theatre High-Altitude Area Defense Missile Systems(THAAD) Parts Standardization and Management Committee Conference 4 November 2009 THAAD DMSMS Program
thaad TEAMホームページ
Vice Admiral J.D.Syring,USN Director,Missile Defense Agency Before the House Armed Service Committee Subcommittee on Strategic Forces Thursday, April 14,2016

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