不思議な帽子

「フンッ!」

「グギャァァァァ!」

 ガラインの一撃が正確にモンスターの頭頂部を捉える。『ドラゴンキラー』と銘打たれたその剣は、その名に恥じない切れ味を発揮し、モンスターを両断した。『開き』になったモンスターの体が左右に分かれて倒れていく。

 ズン、という轟音とともに戦闘は終わった。

「ふう、手ごわい相手だったが、俺にかかればイチコロだな!相手が悪かったとあきらめてくれよ」

「なーに言っちゃってるのよ。私が魔法で弱らせてあげてたから、こいつはあんたの一撃を回避できなかったんじゃないのさ。ねえ?」

「まあ、そうだな。そうでなかったら少なくとも、ガライン、いくらお前でも一撃、というわけにも行かなかっただろうな」

 緑色のローブを羽織った若い女魔法使いの意見に、似たような明るい緑色の法衣を身に纏った男が同調した。この男だけは他の連中よりも歳をくっているようで、言葉にも重みが感じられる。その言葉を聞くと、血気に逸っていたガラインという戦士も、反論できないようだった。

「さあさあ、そんなことよりもお宝お宝♪」

 そんな会話などどこ吹く風と、最後の一人であるこれも若い男が、絶命したモンスターの周辺を探っていた。盗賊、と呼ばれる彼らは、こういった時にはものすごく鼻が利く。他の面々も、それはよく知っていて『またやってるよ』ってなものだった。

「おっ、こいつは何か持ってるぞ」

「ん?ホントだ。珍しいな。こいつが何か持ってるのは初めてだな」

「どうせガラクタか何かでしょ?こいつら、光り物には目がないんだから。さっきだって私を集中攻撃してくるんだもの」

 女魔法使いのレミがそんな愚痴をこぼす。確かにこのモンスターは鳥のような外見(見る人が見れば翼竜だというだろうが)に相応しく、レミがつけているイアリングや、杖についている宝珠に向かって飛来してきたきらいがある。そのおかげで、ガラインたちのほうにモンスターの注意が向かず、楽に撃退できたという面もあるのだが。

「で、何が入ってんの?光り物が好きだってのなら、その系統のものかもしれないわね」

 モンスターに負けないほど光り物好きのレミが盗賊――名はリュートという――に擦り寄ってきた。リュートも盗賊という職業柄、売って金になる光り物には興味はあったが、その物自体をどうのこうのしたいとは思わない。リュートは慎重にその1フィートほどの大きさはある宝箱を探り始めた。盗賊の本領発揮だ。

「ふーん。罠がかかっちゃいるが、大したもんじゃねえな。ちょっと待ってろ」

 リュートは懐から七つ道具を取り出すと、一本のピックを取り出し、鍵穴と思しき穴にそれを押し込んだ。一歩後じさったレミだったが、箱からは目を離さない。相当に中のものに興味があるようだ。

 がちゃりという音がしたかと思うと、宝箱の蓋がわずかに浮き上がった。リュートが会心の笑みを浮かべる。

「ふん、簡単なもんだな。さて、中身は何かな?っておい!」

「いただきー!」

 リュートから箱を掠め取ったレミが、あっという間にリュートの間合いから離脱していった。この辺りの早業振りにはさすがの盗賊のリュートも敵わない。

「どれ・・・あ、これって・・・何?」

 どうやらお目当ての光り物ではなかったらしく、レミは拍子抜けしていた。

「帽子、か何かのように見えるが。見たこともない物じゃな」

 後ろから覗き込んでいた残りの一人、僧侶のダランが正直な感想を述べた。パーティの中で一番の古株である彼が見た事がないと言う一品は、他のメンバーの興味を強く引いたようだ。

「ふーん。それだったら、売れば高く買い取ってくれそうな気もするわね。大きな町の道具屋だったら情報は持ってるだろうし」

「ああ、ギルドに持って行っても分かりそうだな。まあそれは金にはならないだろうが」

「あるいは特殊な力を持った魔法の品かも知れんな。どうだ、何か感じないか?」

 ダランにいわれて、レミはその帽子のようなものを手に取った。赤い色をしているそれは、布製であることは間違いなく、それを持つレミの腕にも、何の負担もかかっていないようであった。

「そういわれてみれば確かに何かの力を感じるわね。私の今の髪飾りよりも上のものかしら?」

 レミの頭には銀製の髪飾りが装着されている。要所要所ではミスリルを用いているらしく、見た目よりははるかに軽量だ。その髪飾りより、この帽子が防御力が上だというのだろうか?

「どう見たって帽子よりは髪飾り方が防具にはなりそうだけどな。けど、こればっかりは魔法の世界のことだから、素人の俺にはさっぱり分からないよ」

 ガラインが正直な意見を述べる。歴戦の戦士である彼だが、こと魔法の品の話になるとまるで役には立たなかった。

「まあ、さっき話に出たように、ギルドなり商店なりで鑑定してもらうのが一番確実だろうな。私が見たところ、呪いなどの呪力は感じられはしないが」

「え?そうなの?だったら装備してみればいいんじゃない。ダメだったら脱げばいいだけの話なんだし」

「おお、それがいいぜ。さっきはああ言ったが、実のところ、ギルドには戻りたくないんだ。最近は余りいい噂を聞かないからな。それにここからギルドのある街っていえば相当に遠いし」

「そういえばそうだな。バネッサから出発してここまでが五日ほど。今向かっているアーガイル王国まではまだ十日以上はかかるだろうな。たかが帽子だけのことで今さら戻るのも何だし、ここで解決してくれるとありがたいな」

「でしょ?だったら実践あるのみよ。よーし、早速かぶってみるわね」

 髪飾りを素早く外したレミは、長く垂れ下がった髪はそのままで、その赤い帽子を被ってしまった。その直後――

 レミの全身から直視できないほどの強い光が発せられたのだ。思わずレミから目を逸らしてしまう一同。光っていたのは数秒間だけだったが、その間はレミの姿は視認できなかった。

「な、何だったんだ、今のは?」

「明らかに魔法による光だ。我々に対する攻撃ではないようだったが・・・レミは・・・?」

 その言葉で一同がレミに注目する。そのレミ本人はというと、特に何の異常もないように見える。すでに光も発しておらず、レミ本人の体にもその光によるダメージらしきものは見当たらなかった。

 ホッとする一同だったが、変化は外見ではなかったのだ。

「お、おい。大丈夫なのか、レミ?」

「ん?ああ、もちろん。・・・そうか、この娘の名はレミというのか。くふふ、いい名前だなあ」

 レミは自分の胸元を見下ろしながらそう答えた。明らかに様子がおかしい。まるで自分が自分でないかのようなものの言い方をしている。その気配をいち早く察知したダランが、電光石火の早業で印を構えた。

「悪霊よ、退散せよ!はぁっ!!」

 気合とともに振り下ろされたダランの腕から、青い光が発せられる。が、レミはそれを避けようともしない。仮にレミが回避しようとしても間に合わなかっただろう。それほどダランの動きは迅速だった。ともかく、光は瞬時にレミの体に到達し、レミの全身を覆った。レミの体全体を、浄化の力が覆い尽くす。

「何のまねだ、これは?仲間に対してすることか?」

 しかし、レミには何の痛痒も与えていないようだった。平然とした表情で浄化の光を受けるレミ。程なく光は霧散し、ダランの攻撃は失敗に終わった。

「ふうん、あんたは僧侶か。でもお生憎だな。俺は悪霊なんて類のものじゃあない。ある意味では完全にこいつと同化しているのさ。生身の人間にはそんな力は通用しないだろ?」

 そんなセリフを吐くレミの様子はどう見ても尋常ではなかった。しかし、取り憑かれたといった雰囲気ではなく、生来からこんな人間だったと思わせるものを持っている。しかし、それは彼らの知るレミではなかった。

「あの帽子か!?」

「正解だ。これには俺――ルインの魂が封じられていたのさ。で、これを被ったこいつの肉体を支配したってわけだ。今の俺は、この女の体を支配した大魔道師ルインさまってワケさ!」

「大魔道師だと?ルインなんて名前、聞いたことはないが。お前、実はそれほどでもないのではないか?」

「な、何をいうんだ!?この俺が『大したことない』だと?」

 右の拳を振り上げながら反論するレミ。普段のレミが見せなかった癖だ。これはどうやらルインという男の持っている癖らしい。

「俺がこの呪法を成功させるのにどれだけ苦労したか分かってるのか?魂を他のものに移すってのは、お前らが考えているよりも遥かに高度な魔法なんだぞ!」

「そうやって取り乱す辺りが怪しいよなあ。一流の人間だったら、そんなに落ち着かないわけはないだろうぜ」

 リュートまでがルインを挑発しにかかる。どうやら、レミよりも更に扱いやすい人間だというのが一同の一致した見解のようだ。

「くそ、見てろよ。そりゃあ!」

 気合とともにレミが杖を振り下ろすと、杖の先端から一抱えはあろうかという炎の塊が飛び出し、数メートル先にある大きな木を直撃した。轟音を立てて崩れ落ちる木。レミが得意としていたファイアーボールの魔法だ。しかし、今のは彼らの知るそれからすると数段威力が勝っているようであった。

「どうだ!俺の魔力は相当なものだろう?」

「ふむ・・・確かに普段のレミよりは上のようだな。ところで・・・」

 ガラインが話しかけている隙に、リュートがレミの背後を取っていた。レミが気付いた時にはすでにリュートの手がレミの頭上の帽子を捉えていた。

「あ、てめえ!」

「こいつを取るとどうなるんだ?」

「や、やめろ!」

 リュートが手を動かすと、何の抵抗もなく帽子はレミの頭から外れ、レミから分離した。レミの金髪がふわりと舞い上がる。すると、レミの体は力を失って崩れ落ちた。

「おっと!」

 素早くリュートがレミの体を支えてやる。地面にレミを寝かせると、一同の見守る中、数十秒ほどするとレミは目を開けた。

「う、う・・・ん」

「お、気が付いたか?」

「あ、れ。わ、私・・・?」

「どうやらレミに戻ったようだな」

「??」

 ダランがレミの相手をしている間に、リュートはレミに悟られないように帽子をバックパックの中に詰め込んでいた。

(こいつはいざって時に使えるかもしれんからな。ルインいったか、あいつは間抜けだが、実力はレミより上のようだ。強敵が現れたら、あいつにお出まし願うとするぜ)

 レミは記憶が混乱しているのか、どうして今自分が倒れていたのか分からず、帽子についても忘れているようだった。

「ごめん、迷惑かけたね。もう大丈夫よ。さあ、旅を続けましょうか」

「そうだな。目指す王国は遠いんだ。日暮れまでもう少し距離を稼いでおかないとな!」

「よし、行くとしようか」

 旅を再開した一行。その末尾を歩いているレミは、不思議な笑みを浮かべていた。

(ふふふふ。俺の演技もなかなかのもんだな。誰も気付かなかったようだぜ。こいつの記憶を戴いてるから簡単なもんなんだがな。まあしばらくはこいつに成り済まして、王国まで連れて行ってもらおうか。その後で何をするかはそこで考えるとするぜ)



(おわり)


あとがき

何かあとがきなんて久しぶりな気がします(笑
不思議な帽子と言うともちろん例のアレです。
ネタがかなりtiraさんのマントに似ちゃってますが、
それもある程度意識してやっている事なので仕方ないです(爆
小ネタ集って事でご了解頂けると助かります。
って事で続きもあるかもしれませんが、その時にはまたよろしくです。