鏡像


「ねえ、ちょっとやって見せてよ」

 目の前に座っている絵美子がそう言う。おれはしまった、と思ったが後の祭りだ。絵美子は確かにおれの大事な彼女だが、結婚したわけでもあるまいし、この事実に関して口を滑らせてしまったのは不覚の一言だ。

「い、いや。今は何も持っていないし。カメラがないとあれはできないよ」

 カメラでピンと来た人もいるだろうが、つまりおれはいわゆる『念写』ができるのだ。頭の中に描いたイメージをフィルムに焼き付けて写真と言う形で具現化させる、あの超能力の事だ。中にはあれは仕込みだ、と言う人もいるが、本物も必ずあるって事は、実際にやっているおれが一番よく知っている。

 そんな能力がある事が公になると、やれテレビだ雑誌だのと、ろくな事にならないのは目に見えている。だから極力ばれないようにしてきたのだ。しかし、今回は場の勢いと言うか、絵美子に対する馴れ合いのためか、つい口が滑ってしまったのだ。

 慌てて言い逃れを始める。カメラがないってのは事実で、普通はそんなものを持ち歩くのもおかしいだろう。が、絵美子は一枚上手だった。

「ケータイがあるじゃん。カメラつきの。あれを使えばできるんじゃないの?」

――それは考えた事もなかった。十分に考慮に値する意見だが、ここで採用するわけには行かない。今はあれを絵美子に披露する気はさらさらないのだから。

 けれども、結局は絵美子の押しに負けてしまう羽目になった。絵美子に押し付けられた携帯を手に、『念』を送り込む。

――果たしてこれで真っ正直に成功させるべきなのか。どうしてだかこの時のおれは迷わなかった。絵美子の無言の圧力を前にして、そのような事に考えが及ばなかった。それに、初めて行うカメラ以外での媒体に対する念写に、おれ自身も興味を惹かれたからだ。

「・・・・よし。じゃあちょっと見てみて」

 念を送り終えて、手応えを感じたおれは、絵美子に携帯を返した。けれども、カメラと違ってどこに入ったのかよく分からない。絵美子はざっと画面を探っていき――

「あっ、これかな?」

 期待に満ちた目をして画面を見る絵美子。その目が驚きに変わる。

 画面にはこの世に在らざるものの姿が映っているはずだ。ちなみに今回は女性向けにフェアリーにしてみた。とにかく、相手を信じさせるには(今回は別に信じてもらわなくても良いのだが)、現実には見られないものをモチーフにするのが一番効果的だ。

「これ?」

 絵美子が画面をこちらに向けてくれる。おれは絵美子に頷き返す。自分の携帯だから、記憶にない画像があればそれに決まっているだろうに。とにかくまあ、念写ってやつが携帯と言うデジタルな媒体にでも適用可能だって事が発覚した。絵美子には知られてしまう結果になったが、これはこれで思わぬ収穫だった。

 問題は絵美子が口を滑らせないかどうかだが・・・とりあえずはやる前に強く口止めしていたし、何より、第三者がこの突拍子もない話を信じるかどうかだ。例え信じたとしても、おれ自身が実証しなければ同じだ。元よりそんなつもりはない。

「ああ。カメラ以外でやるのは初めてだったんで、ちょっと不安だったんだけどな。上手く行ったみたいだな。これで納得したか?」

「うん。でもすごいね、これは。あっくんにこんな特技があるとは知らなかったなあ」

 『あっくん』とはおれに対する絵美子の呼び名で、おれの名前が篤志だって事による。まんまだけどな。それにしても、特技ぐらいで片付けて欲しくはないが、それぐらいに思ってくれている方が下手な事を吹いて回られないだけ助かる。

「とにかく、この事は二人だけの秘密にしておいてくれよ。まあ、今時こんな地味な能力、誰も興味ないだろうけどな」

 自分で自分の能力を貶めるセリフを吐くのも情けない気がしてくるが、絵美子を暴走させないための歯止めぐらいにはなるだろう。案の定、絵美子も考える仕草をした。

「そうねえ。テレビでやってるみたいに、行方不明の母親とかの居場所が写せるって言うのならともかく、アニメじゃあるまいし、妖精ってのもねえ」

「は、はは。そうだよな。世の中の役に立つ能力じゃないと注目されないよな」

 絵美子の痛烈な皮肉に、おれは憤りを感じながらも同調する。確かにおれの能力ではどこにいるのかも分からない人間の情報をキャッチする事はできない。それはまた念写とは別の能力になるはずだ。さすがにそこまでの力はおれにはない。

「さ、気が済んだみたいだし、それじゃあ帰ろうか」


 帰宅したおれは、先ほどの絵美子の前で行った念写の事を思い出していた。今までは念写とはカメラのフィルムに焼きこむものだとばかり思っていた。おれの頭の中のイメージでは、おれの手から熱のようなものが放射されて、それでフィルムにイメージを刻み付ける、そんな感じだったのだ。

 しかし、今日やったのは携帯のメモリー部分に対してだから、フィルムとは全然違って、磁気(?)的なものだ。メカニズムが全然違っても念写ができる、と言うのは大きな発見だった。

「って事はもちろん、デジカメなんかでもできるはずだよな。今の時代に対応した念写ってとこか」

 しかし、だからそれがどうしたって辺りが正直な感想だ。カメラを持っていなくても、携帯は持っているだろうから、いついかなる時も念写ができる、それは確かにそうだが、今までに生きてきて、どうしても念写をしなければならない、なんて場面にお目に掛かった記憶はまずない(強いて言えば今日のはそうだ)。

 しかし、念写と言うものに対して、一つの凝り固まった枠が外れたのは確かだった。他の媒体にも応用できるのではなかろうか、おれはそう考え始めていた。

 例えばビデオカメラなんかはどうだろうか。正直なところ、動きを頭の中で想像しつつ、それを媒体に焼き付ける自信はあまりなかったが。ここにはビデオカメラはないので実験でき――ん?

「これってビデオテープでも同じじゃないのか?そう考えたらDVDでもできそうな気がしてきたぞ。ふうむ・・・一度やってみるか」

 動画にできる自信があるかどうかはともかくとして、おれは使い古しのビデオテープを棚から取り出し、カメラと同じようにそれに向かって念を送り込んでみた。いや、まるっきり同じではない。動きのある映像を意識して、テープに『映像』を刻みつけていく。

「・・・・・よし。さて、どうなっているか。見てのお楽しみだな」

 結果からすると、ある程度の成功を見てはいた。画面にはおれがイメージした通り、車が走っているような映像が流れた。しかし、それは2秒ほどの間でしかなかった。念が足りないのか、コツが掴みきれていないのか、動画と言うには少しお粗末なものではあった。しかし、念写と言うものがビデオテープのような媒体に適用可能なのは判明した。デジカメなんかより、こちらの方が大きな一歩に違いない。何せ、動きのある映像を創造する事ができるのだから。

「すっげえな。絵美子のおかげで、新しい能力に目覚めた気分だぜ。今なら何でもできそうな気がする」

 しかし、それ以上の発見はないまま、その日はもう休む事にした。風呂に入るとき、ふと脱衣所にある鏡に目が留まった。鏡にはもちろんおれの姿が映っている。

「そう言えば、鏡だって立派に映像を映し出している媒体なんだよな・・・もしかしてこれにも写せるんじゃないのか?」

 昨日まではそんな事を想像した事すらなかったが、応用が利くと分かった今では、そんなくだらない事が頭に浮かんでくる。

 しかし、くだらないかどうかはやってみないと結論が出せない。おれは目の前にある鏡に向かって意識を集中し始めた。

「――どうだ?」

 今回は何か行動を起こさなくとも、目の前にある鏡を見るだけで結果を知る事ができる。おれは目を開けて鏡に映っている映像を確かめた。

「お、おお。これは・・・」

 鏡には『金髪の女性』の姿が映っていた。それはおれが今頭の中でイメージしていたものと同じ。どうやら成功したようだ。どういう理屈か分からないが、おれの念写は鏡にも応用可能なものらしい。

 ところが、驚いたのはそれだけではなかった。鏡の中の『彼女』は静止画ではなく、おれの動きにあわせて全く同じ、いや、左右対称の、つまり鏡そのままの動きを示したのだ。

「これはすげえ。まるでおれが女になったみたいだ。うん?」

 『髪をかき上げる動作が見たい』と思ったおれは、自分自身で髪をかき上げる動作をした。当然、おれには鏡の女性のような長い髪はないので、何にも触れない――はずだったのだが。そこに何かの手触りを感じて、おれの動きが突然停止した。

「な、何だコレは・・・!?」



「こう言う事か・・・こいつはすげえや!」

 ようやく元の姿に戻ったおれだったが、まだ心臓が激しく動悸していた。

 簡単に纏めると、自分自身が映っている状態で鏡に向かって念写をすると、そこに念写された対象物におれの姿までも変化してしまう、って事らしい。どんな理屈か全然理解不能だが、無理に説明をつけるとするならば、鏡と言う物が目の前にある光景を左右対称に映す、って事から、鏡の映像を変化させると辻褄を合わせるために、現実の光景が変化させられてしまう、って事なのだろうか?それにしてもよく分からない。

 とにかく、おれの姿を変身させる事が分かったのは、念写と言うものの新たな使い道を感じさせる出来事だった。元に戻りたい時は、おれ自身の姿をしっかりとイメージして――ここで問題なのは、きちんと左右対称でイメージする事だ。普段鏡を見ている光景を思い浮かべるのが一番いい――鏡に念写してやれば、おれの姿に戻る事ができる。

 面白いのは、鏡の前からフレームアウトしても元に戻らないって事だ。鏡の方の機能で変身しているわけではないので、ある意味当然なのかもしれないが、場所を選ばずに変身ができると言うのはこの能力の使い方の幅が広がると言うものだ。

「よし、じゃああのグラビアアイドルにでもなってみるかな♪」



「なるほど・・・そう言う事か」

 変身をしてみて、分かったのはきちんと姿をイメージしないと、やはり変身は上手く行かない。逆に言えばやろうと思えば理想的な姿に改造する事もできるわけだ。

 そんな事よりも問題は上手く変身できているように見えても、実は『外見しか変身できていない』事だ。服を脱げばその下は・・・つまり、そこまできちんと織り込んで想像していなければ、変身も上手く行かないと言う事だ。

「――あ、そうか・・・」

 ここまで思考してようやく一つの問題に行き当たる。どう上手く想像しようが、本物を知らなければ完璧な変身なんて不可能だって事だ。さっき、グラビアアイドルにもなってみたが、実物を隅から隅まで観察していなければ、正しく想像する事なんてできない。つまり、よほど見知った人物でなければ、完璧な変身なんて不可能、だって事だ。

「いきなり裸を見せてくれ、たってな・・・会えもしない人物にはどうしようもないよなあ・・・よし、まずは手近なところから・・・」

 と言うわけで、彼女である絵美子を上手く話を持っていって、体を観察する事に(要するに普通に夜を共にしただけなんだけど)成功した。

 絵美子の肢体の隅から隅までをしっかりと記憶していく。念写ができる事に関係あるのかどうかは知らないが、おれはこの種の能力に長けているようだ。胸の大きさや形、アソコの形状、更には毛の生え方や黒子の位置に至るまで、全てを脳みそに刻み付けていく。もしかして、これもおれ自身の記憶に対する念写なのかも知れない。とにかく、これでデータのインプットは完了した。もちろん、怪しまれない程度に絵美子のお相手はさせてもらったが。



 絵美子と別れて帰宅したおれは、早速変身を試みた。さっき、穴の開くほど観察した絵美子の姿をしっかりとイメージしつつ、目の前の鏡に意識を集中する。最後に奔流のようなエネルギーを放射すると、変身は完了した。

「おお、やったか・・・!」

 鏡には紛う事なき絵美子の姿が映っていた。試しに色々な表情を浮かべてみるが、間違いなく絵美子がするものと同じ表情ができる。

 後で気が付くのだが、この時には重要な勘違いをおれはしていた。おれが完璧な変身だと思っていたのは、『鏡の中の絵美子』に対してなのだ。鏡の中に絵美子の映像を送り込むために、変化したおれの肉体って奴は左右対称の鏡像と言う事になる。それ故、他人から見ればかなりの違和感を覚えるに違いない。

 しかし、この時にはそんな事は頭になく、おれは完璧なる変身に酔い痴れていた。普段見ない絵美子のあらゆる姿を鑑賞し、楽しんでいた。

「よしよし、服を脱いでも完璧だな。黒子の位置も・・・・ん?」

 太ももの内側にある黒子の位置を確認したおれ。ここでようやくおれは、全てが左右反対である事に考えが到達した。興奮が一気に冷め、冷水をかけられたような気分になる。

「そ、そうか――変身する時は左右逆に想像しなきゃならないのか・・ええい、えらく難しいじゃないか!」

 問題はそれだけではなかった。体のどこに触ってみても、触れられたと言う感じしかせず、さっき絵美子が見せていた気持ちよさなどが微塵も湧き上がってこなかったのだ。

 それは股間に指を突っ込もうが、乳首を痛いほどに引っ張ろうが同じ事で、この肉体が女の体として機能していないのは火を見るよりも明らかだった。

「おいおい、これじゃあ楽しみも半減じゃないか。もしかして、内部の構造までしっかりとイメージしていないといけないって言うんじゃないだろうな?あるいは感じる部分がどこで、どのように感じるとかまで想像しないといけないのか・・・」

 うーむ、それにしても奥が深い話だ。でもまあ、感じるかどうかはともかく、外見だけは化けられる事が分かった。この状況を利用すれば色々な事はできそうだ。明日は休みだし、ちょっと試してみようか。


「ありがとうございましたー」

 意気揚々と店を後にしたおれは、店で買ったものを早速身に着けてみる事にした。同じデパートにある婦人用のトイレに入る。そんなおれの行動に誰も怪しむものはいない。それもそのはず、今のおれはれっきとした女性なのだから。

 個室に入り込んだおれは、素早く服を脱いだ。今着ていたのは女物の服であったが、冬物であり、今の季節に合わないものだ。写真で想像して変身したために、その服しか調達できなかったためだ。そこには下着だけの姿の絵美子がいるはずだったが・・・そうではなく、服の下には生まれたままの姿の絵美子の姿があった。

 要するに下着までもしっかり織り込んで想像できていなかったわけだ。おれは手早く買ったばかりの女性用下着を身に着け、夏物の服に着替えた。ノースリーブのシャツがひんやりとしていて心地よい。男であればちょっと躊躇してしまう身なりだが、絵美子になっている今は、全然気にならない。

「よし、それらしくなったな。では早速街へ繰り出すとするか!」



 なるほど。容姿が一定レベル以上にある女は得だ。本人が何もしなくとも、周囲の男が放ってはおかない。もちろん、その容姿を保つためには涙ぐましい努力があるのかも知れないが、念写するだけでそれを手に入れられるおれにとっては関係のない話だ。

 おれは声をかけてきた男の中で、金を持ってそうな奴にあれこれと小物を買わせ、女物のグッズを次々と入手していった。もちろん、物ぐらいでこのおれが落ちるわけもない。用が済んだ男は情け容赦なく振ってしまい、次の男を目指すのだ。

「これだけあればしばらく困らないだろうな。さて帰るか」

 意気揚々と自宅マンションまで辿り着いたおれだが、マンションの入口付近に見知った顔があった。今のおれと同じ顔――絵美子だ!

(ま、まずい!今、あいつと鉢合わせると、ちょっと切り抜けられないぞ)

 角のところでしばらく立ち止まって絵美子の様子を窺うが、絵美子はまだまだあきらめそうにない。昨日の件といい、なかなか執念深い女なのだ。

 途方に暮れてしまったおれだが、おれも負けてはいない。すぐに打開策を見出した。

「ふふふ。昨日までのおれとは一味違うぜ!ええっと・・・あったあった」

 おれは男に買ってもらったショルダーバッグの中から、化粧用のコンパクトを取り出し、それを開いた。そこには当然、おれが変身している絵美子の顔が映っている。

「よし・・・これに向かって念を送って・・・」

 鏡に向かって念を送る。集中を解いて再び目を開けると、鏡には見目麗しい女性の姿が映っていた。どこの誰とも分からない人物――おれの頭の中で勝手に創造した女性だ。

 コンパクトに向かってイメージしただけに、顔だけの変身となる。体型などは絵美子のもののままだ。しかし、今はそれで十分だった。おれは当たり前の顔をして、マンションのエントランスを通り過ぎる。おれの通るのを待っているのであろう絵美子も、おれの姿を認めるものの、すぐに顔を背けてしまった。同姓であると言う事から、すぐに興味を失ってしまったようだ。


 自室に戻ったおれは、道路側にあるリビングの部屋の明かりに気を遣いながら、とりあえず着替える事にした。

「おっと、体が絵美子のままだったな。元に戻るか」

 鏡に目を映すと、見知らぬ女性の姿が映っている。体は絵美子のものだが、顔が違うだけで(だけでって事もないが)まるで別の印象を受ける。

 ふと思いついたおれは、鏡に向かって別の女性の姿を思い浮かべる。慣れたもので、程なくおれの姿は見慣れた女性タレントの姿に変化した。

「ん?何か違和感が・・・」

 間違いなく、そこに映るのは癒し系と評判の中村さつきの顔だ。鏡に映る姿に、本来のそのタレントの雰囲気を感じなかったおれは、鏡の前から数歩下がり、上半身が全て映る位置まで下がった。

「何か体とアンバランスだな。頭が小さい割に、ちょっとガタイが良すぎるような気がする。やっぱり中村さつきと絵美子じゃあ、体の大きさが全然違うんだ。って言うか、テレビで見る印象と全然違うよな。彼女、もっと大きい人だと思ってたんだけど・・・」

 テレビで見る限り、周りのタレントと比べても小さい印象は受けていなかった。それでやってみればこんな・・・?なるほど、テレビの嘘って奴だな。

「ちょっと待てよ。これって大きさなんかもおれの想像次第って事じゃないのか?一回り大きい顔をイメージすれば・・・・、お、おお!」

 絵美子の体に合わせて、少し顔の大きさを膨らませてイメージすると、見事に体と顔のバランスが取れ、先ほどまでの違和感はきれいさっぱり吹っ飛んでしまっていた。そこにはテレビで見たままの中村さつきが存在していた。やんわりと微笑むと、さすが癒し系、おれの心も和まされる。

 そうやってしばらくの間、癒し系タレントの顔で色々遊ばせてもらった。しかし、女の体になっての入浴と言うのもまた感慨深いものがある。ただ風呂に入るって言うだけなのに、どうしてこんなにウキウキと楽しめるのだろうか。自分の体ではないものが眼下に展開されている――よくよく考えれば、それはよく知る絵美子のものなのだが――そんな光景に、健康な成人男性であるおれが興奮しないはずはなかった。

 ところが、である。興奮しているはずなのに、体がちっとも反応していかないのはどうしたわけだろうか。おれの元の体であればもうとっくに戦闘態勢が整っている状態に違いない。しかし、今のおれの体は何の反応も示しはしなかった。おれが興奮していないわけではない。現に今も心拍数はいつも以上のものがあるはずだ。それなのに、反応を始めてもいいはずの体が何も感じていない。

「何だ?体が女だから、女の体なんか見ても興奮しねえって事なのか?いや、しかし、それにしても・・・」

 そこでようやくおれは一つの仮説に行き当たる。それを確かめるべく、おれは股間に手を伸ばし、その平らな丘にある溝をすっと撫でてみた。

「んふ・・・くすぐったいだけだ。やはりそうか。おれの体は見た目だけで中身が伴ってないんだった。うむう・・」

 導き出されたのは昨夜と同じ、おれが女の肉体の感度を織り込んで変身していなければ変化は見た目だけにとどまると言う事だ。

「けど、いくら感じるようになったからって、それは嘘物の感覚なんだよな。本当の女の感じ方と同じかどうかなんて分からない。いや、まず間違っているだろう。どうにかならないものか・・・」

 考えども結論が出るはずもなく、おれは風呂から上がり、興奮して紅潮した顔とは裏腹に、何のリアクションも示さない己の肉体を、むなしく見詰めるだけだった。




 それからおれは、日ごとにイメージを膨らましていき、女のように達する事もできるようになっていた。しかし、相変わらずそれが本物とどう違うのか、どう同じなのかも見えないままだった。

 おれは完全に女になる事はほぼあきらめてしまっていた。しかし、感度を自分で調整できると言う事実が新しい遊びを生み出していたのだ。

 おれは毎晩別の女の(ほとんどAV女優の物を参考にだが)姿に変身をし、股間だけはおれのもののまま、と言う状態になり、鏡の前でその女体をオカズにしながら、おれのモノを女の小さな手で刺激してやるのだ。もちろん、同時に胸を弄るのも忘れない。感度を調整できるので、胸だけで達する事もできるが、そこは両方楽しみたいじゃないか。感度は適当に落としておいてやって、胸でまず盛り上げるのだ。そして最後は股間でフィニッシュと。細い指に降り掛かった白い白濁液を見詰める瞬間が、今のおれの一番のゴチソウだ。

(おわり)



あとがき

念写・・・いい響きですね。
超能力って奴は胡散臭さと憧れの塊のような気がします。
TSFって奴も同じ。
みんな憧れつつも、不可能なのは承知しているわけです。
それだからこそ楽しめるのかもしれません。
実際に体験してしまうと、パニックになってしまいそうですよね。
もちろん、最初は楽しめるかもしれませんが(笑)

何かオチがジョーカーさんのアレに似ていますが、
内容も被ってますかね(汗)
ま、好きな作家さんの好きな作品にはどうしても影響を受けちゃいますね。
本題は不完全なTSFの方なので。

って言うか、最後になって今思い出しました。
これってテクマクマヤコン・・・(笑)
気付くの遅すぎ(爆)

それではまたの機会にお会いしましょう。