第2回:「街で暮らす、働く魔女」の物語
文:桂令夫&藤浪智之



イラスト:佐々木亮



(→第1回記事は、こちら)


 本連載は、TRPG『駅前魔法学園!!』の「参考作品」たる小説や映像作品を題材に、共通点と相違点に注目しつつ、より実践的に解説しようというものです。
 自作シナリオを作りたいゲームマスターはもちろん、プレイヤーの皆さんにも、少なからず役に立つことでしょう。
 全3回の連載で『駅前魔法学園!!』のイメージの源泉となった作品中、特に参考にしやすい(と私どもが考える)3作品についてこれらの思考実験をおこないます。この実験が単に『駅前魔法学園!!』だけでなく、参考作品欄のあるすべてのTRPGに役立つものとなっていれば幸いです。

【「参考作品」を分析する】

 本記事では「参考作品」個々の作品と『駅前魔法学園!!』のあいだの
 (1)共通点と、
 (2)相違点、を分析し、
 (3)その作品を直接的に参考にし、
 (4)あるいは一ヒネリして、どんなシナリオを組めるかを考え、
 (5)どんなキャンペーンを組めるかを考え、
 (6)もしキャンペーン途中でなく新規キャンペーン立ち上げや単発なら、
プレイヤーたちに提示すべき「ふさわしいサンプルキャラクター」を考える

……という方法を紹介していきます。

 第2回目は『駅前魔法学園!!』と(カバーイラストからも連想させるように)重要なイメージソースと考えられ、かつ本邦でも大変有名なファンタジー作品でありながら、参考作品欄に紹介されて「いない」作品を取り上げます。

 その作品の名は『魔女の宅急便』と言います。


●『魔女の宅急便』とは
『魔女の宅急便』は、角野栄子の児童文学です。福音館書店の雑誌「母の友」に連載されたもので、もともと小さな子どもを持つ母親が語り聞かせるため、あるいは母親自身に向けての物語だったようです。
 1985年に単行本化され児童文学として好評を得、人気作になりました。
 ですが最も有名なのは、1989年公開のスタジオジブリによる劇場アニメ映画版でしょう。ちょうど今月、2014年の3月から公開された、実写映画も話題ですね。
『魔女宅(まじょたく)』という略称も、よく知られています。

「13歳になったら、別の街で一年間生活して修行しなければならない」という古いしきたりを持つ魔女の血筋の少女「キキ」が、黒猫ジジと共に見知らぬ街で暮らすことになる、というのが筋書きです。

 アニメ映画版では、故郷から離れた街で、不安と向き合い、苦労をしながらも自分の仕事を見つけていくという成長の物語の要素も強調されていました。
 美しいアニメーションによる「ほうきで空を飛ぶ」映像や、キキとだけ言葉が通じる黒猫ジジの存在も魅力でした。「魔女」といえば、この作品のキキをイメージする人も多いことでしょう。
 見知らぬ都会で新しい生活をはじめる少女や若者というメタファーも盛りこまれているようで、下宿したり社会人に成り立ての時期に観て、キキの不安と希望に共感した方もいるのではないでしょうか。

 原作にあたる小説もその後シリーズ化され、14歳以降になったキキの物語が語られています。福音館書店から全6巻が刊行され、2009年に完結しました。その後、福音館書店から文庫化(福音館文庫。B6判に近いサイズです)されたほか、現在は角川書店からも、大人向けに本文挿絵のない形の文庫版(こちらは一般的な文庫本サイズです)が、実写映画版にあわせた形で、全巻が刊行されています。

 発表順番でいうと、
(1)原作小説・1巻
(2)劇場アニメ映画版
(3)原作小説2〜6巻
(4)実写映画版

……という順番になります。

 発表順に追っていくとわかりますが、アニメ映画は、原作小説の第1巻を元に作られているものの、多くの独自要素が加わっています。
 たとえば「落ちこんだりすること(主人公の挫折)」があったり、一時的に魔法を失ってしまうのは、アニメ版で加えられた要素です。原作小説にあった「コリコの街で、夏に吹く突風」による海水浴場でのちょっとした事件が、アニメ版では、クライマックスの飛行船をめぐる一大スペクタルシーンとなりました。
 そのいっぽう、原作小説は、第1巻は連作短編集の形式で、キキがコリコの街で過ごす一年間が描かれており、アニメ映画版にないエピソードも多数あります。そして、アニメ版をはさんで、その後十数年に渡って書き続けられ、キキは作中で成長し、恋をして結婚する姿も描かれています。
 面白いのは、原作小説2巻以降に、アニメ劇場版への「返歌」ともとれるべき要素があることで、アニメ映画版とは別の理由で「空を飛べなくなるキキ」のエピソードや「魔法とは何か」という問いかけが、別の形で加わっています。
 原作小説が存在することも、意外とご存じない方もいたのではないでしょうか。現在は、手に取りやすい角川文庫版もありますので、この機会にどうぞ。


●『魔女宅』と『駅まほ』の共通点
  さて、それでは今回も『駅前魔法学園!!』との共通点から見ていきましょう。

(A)「ひとつの街」が舞台である
(B)「魔法が認知されている世界」である


 また、魔女宅や『駅まほ』に限ったことではなく多くの「魔法使いが主人公のドラマ」がそうでありますが、
(C)主人公が「ふつうの人間にはできない魔法で活躍したり、街のピンチや人々の悩みを解決する」話である

……ということも挙げられます。

(A)は、たいへん重要な共通点です。
 ひとつの街が舞台というだけでなく「街のさまざまな場所」や「さまざまな人」とふれあうという形式のドラマであり、街の人々との日常的で等身大の事件がテーマになることも共通です。
『魔女宅』でも『駅まほ』でも、依頼人となるのは、商店街のパン屋や花屋であり、普通の子どもや主婦であり、街の身近な場所が舞台となります。

(B)も大きな特徴です。
『魔女宅』の世界は「魔法と科学が共存している世界」でもあり「ホウキで空を飛びながらラジオを聞く魔女」や「飛行機と並んで飛行する魔女のホウキ(こちらはアニメ版)」といったビジュアルは、『駅まほ』にも通じる情景といえましょう。
 そもそも現代(あるいは現代に似た世界)を舞台にした児童文学ファンタジーのなかでも「魔法が認知されている世界」のほうが少数派なのです。
「魔法が日常にある世界」を映像化して見せてくれる『魔女宅』は、あなたが『駅前魔法学園!!』の世界をイメージするうえでも、大きな助けとなってくれることでしょう。

(C)も重要です。
「魔法でしか解決できないものがある」というのは「主人公の能力でしか解決できない」と言いかえるなら、(多くのヒーローもの、異能者ものがそうであるように)その設定自体は、珍しいものではありません。
 ですが、それが(A)(B)と組み合わさったとき「日常的な世界における『魔法』の特異性」「等身大の人物だけど『魔法』という特殊能力の持ち主」という独特の情景が生まれます。
『魔女宅』の主人公は、絶大な魔法能力で世界の運命を左右する英雄でもなければ、街で大きな権力を持つ特権階級でもありません。街にある小さな「店」の個人経営者です。しかしそのいっぽう「その人物しかできない『魔法』の使い手」であり、そのことを隠していないという立場です。

「ふつうの街の一員であるけど、やはりどこか“特別な”存在である『魔法』使い」という独特の距離感がそこにあります。

『魔女宅』の序盤の「街の人々から遠巻きに見られる主人公」や、「一部の人々からは過剰に尊敬される」様子、『魔法』という特殊能力を恐れたり誤解する住人や、それらを乗りこえて信頼ができていく過程――などは『駅まほ』世界のプレイヤーキャラクターである「街の魔法使い」たちの、街の人々との距離感を実感できる助けになるのではないでしょうか。


●『魔女宅』と『駅まほ』の相違点
  さて、相違点のほうを見ていきましょう。
 共通点が多い一方、じつは、かなり大きな相違点が存在します。

『魔女の宅急便』のほうは……

(ア)「敵」がおらず、戦闘もない
(イ)舞台の世界は「どことなく昔」で、「科学」はローテクである(携帯電話もネットもない)
(ウ)魔法は学習するのでなく、先天的(遺伝)で、親から受け継ぐものである


 この三点については、かなり重要な相違点でもあります。
『駅まほ』でいうなら設定の根底に関わるほどの。
 それでは、ひとつずつ見ていきましょう。

 まず(ア)「敵がおらず、戦闘もない」ことが、最大の相違点です。
 TRPG『駅前魔法学園!!』参考作品欄に、やはり『魔女の宅急便』が挙げられていない理由も、おそらくここにあるのでしょう。

 この点を解説する前に(イ)に注目してみましょう。
 どことなく無国籍で、古き良き世界の『魔女宅』の舞台。いつの時代を描いているのかは明記されていませんが、原作小説では、列車があり、ラジオがあり、汽船があり、グライダーがあるがわかります。そして(これは、実はとてもうまいと思うのですが)「飛行機」が存在するかどうかは明確になっていません。

 アニメ映画版では、それを踏まえているのか、飛行船と飛行機が存在するものの、それはどこか「古き良き時代の産物」として登場し、一般的でもなければ、高性能でもないように描かれています。
 そして、どちらの世界でも、携帯電話とインターネットは存在しません(アニメ映画が公開された1989年には一般的ではなかったからだともいえますが)。
 この設定が「古き良き時代」を感じさせ、名作劇場的な懐かしい雰囲気があるものも『魔女宅』の人気でしょう。

 しかし、TRPGプレイヤーのみなさんなら、この背景設定のもうひとつの意味に気がつくのではないでしょうか。
 ぶっちゃけ「空を飛んで宅急便をやる主人公が活躍できるため」です。
 もし『魔女宅』の世界で、航空機が一般的であり、高性能のヘリコプターが街で日常的に使われていたら、主人公の仕事の多くが代用されてしまうでしょう。携帯電話と現代的な宅配流通が(それこそ、クロネコヤマトの宅急便が)あれば、別の意味でやはり活躍の場がなくなります。
 もし、『魔女宅TRPG』なるものがデザインされるとしたら、デザイナーはやはりその舞台をローテクな世界に設定し、宅配便業者や航空機の存在の有無には、かなり慎重になることでしょう。
 かように、科学が高度に発展、あるいは一般化した世界では「科学でなく、魔法でしかできないこと」が少なくなってしまうのです。
 2010年代の現代日本を舞台にした『駅前魔法学園!!』で“常闇”という「魔法でないと対抗できない敵」が設定されたのは、逆説的にいえば「魔法使いを活躍させるため」の舞台装置であるといえます。

【付記:2014年3月に公開された実写映画版では、同じくローテクな世界であるのに加え、コリコの街は「群島になってる島のひとつにある港町」という設定になっていました。近隣との往き来も、本数の少ない連絡船を待たねばならない不便な場所という設定で、すなわち「空を飛べる主人公」に活躍の機会があるというわけです】

 さて。この相違点ですが、相違点として改めて意識するならば、逆に『駅前魔法学園!!』のドラマを発想するヒントになります。
 各局面で「科学にはできないが、魔法にはできること」と「科学でも魔法でもできること」が何なのかを考えてみることは、あなたの『駅まほ』を見直すきっかけになるでしょう。“常闇”と戦う以外の「魔法にだけできること」を見つけられれば、それは大きな発見となります。

 たとえば、先ほど「現代的な宅配便があれば仕事がなくなる」と書きましたが、実際はそうでないかもしれません。
 現代でも(いえ、現代であればこそ)“人の手による”“特別な”サービスというのは需要があります。むしろ『駅まほ』の世界の宅配便産業には、子ども向けや特別なイベント用に「空飛ぶ魔女宅配サービス」部門があるかもしれません。
 そのいっぽう、携帯電話やインターネット、SNSなどの存在により、『魔女宅』の世界では想像もしなかった出来事が起こるでしょう。
 そこでどんな事件やトラブルが起きるのか……と考えると、それだけでもシナリオができそうです。

(ウ)も大きな相違点です。
 すなわち「魔法」が学習できず、不安定な部分もあって理論化もできない。魔法が血筋による世襲であり、その結果、主人公は「孤独」である(魔女の数は少なく「ひとつの街にひとり」と決まっている)……これらの設定はいっけん「魔法学校もの」という『駅まほ』とはまるで相反する要素です。
 共通点で「魔法が世界に認知されている」と挙げましたが、『魔女宅』において、魔法の使い手が「かなり少数派」であることは、注意するべきでしょう。
 ですが、それを踏まえた上で『魔女宅』を改めて見るならば、『駅まほ』と共通する部分も多く見つかります。
 実は『駅まほ』の世界でも「魔法」には未知の部分もあり、先天的にまったく魔法の能力がない人間もいる、と設定されています。
 教育機関があるものの、完全に理論化できてないらしく、その授業風景も「ゼミや担任教師によって様々で、いっけん魔法と無関係にみえる授業も多々ある」とルールブックにも説明されています。
 すなわち『魔女宅』の世界に対して、『駅まほ』の魔法使いは、あるていど多数存在し、魔法教育もいくぶん洗練されているだけであって、本質的な部分において「魔法は不思議である」という点は共通しているともいえます。
『魔女宅』の作品のなかでは、しばしば「魔法とは何か」という問いかけがあり、魔法使いの主人公が悩み、魔法と向きあう場面があります。
 そんな「魔法使いの悩み」には、『駅まほ』の魔法使いたちにも共感できるところがあることでしょう。「成長途上」の魔法使いという点でも大いに共通しているはずです。

 また、もっと気楽に考えるなら、『魔女宅』世界の魔法と、『駅まほ』世界の魔法は別に競合するものではありません。

『駅まほ』のなかのマギカスタイル(魔法体系)のひとつ「魔女術」の参考として考える、というなら、たいへん役に立つといえます。
『魔女宅』の「魔女はひとりで別の街で修行する」しきたりや、「ひとつの街にひとりの魔女」という設定は、『駅まほ』にも馴染みそうです。
 PCたち魔法学園生徒とは別に、そんな「街にひとりだけいる、伝統的な魔女」が存在するというのは、なかなか魅力的ではないでしょうか。

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