グレイルクエストとは
〜ピップの冒険や14番についての解説〜
(2007.5.18)
(2007.6.25更新) (2010.2.12追記)
(2012.8.19追記)

1985年刊の〈ドラゴン・ファンタジー〉第1巻。『暗黒城の魔術師』。二見書房刊。表紙イラストは福田典高。
Grail questシリーズ日本語版第1巻。
日本では1985年に二見書房から
〈ドラゴン・ファンタジー〉の名で刊行されました。



1980年代の「ゲームブックブーム」の時代、
かの『ファイティングファンタジー』や〈ソーサリー〉とは一味違う、
〈ドラゴン・ファンタジー〉という名の、
独特のセンスを持ったゲームブックのシリーズがありました。

〈ドラゴン・ファンタジー〉という名前を覚えていなくても、
「ピップの冒険」「14番」という言葉、
あるいは「独特の鉛筆画による挿絵」は、
読んだ人なら覚えていると思います。

作者はアイルランドの作家、J・H(ハービー)・ブレナン
日本では、二見書房から、これまた独特の装丁で刊行され、
全八巻のシリーズが発売されました。

原題を“Grail quest”といいます。
“聖杯探索”の名を冠したこのゲームブックは、
アーサー王伝説の世界を舞台にしたものでした。
しかし、マジメな伝承の再現というよりも、
むしろ、モンティ・パイソンの映画『ホーリー・グレイル』みたいな雰囲気だった気がします。

魔術師マーリンや円卓の騎士、湖の淑女など、
アーサー王伝説おなじみの登場人物とおりまぜて、
オリジナルの(あるいはどこかで見たような)キャラクターやモンスターが自由奔放に登場する
抱腹絶倒のストーリー。

しかし(いやそれ故に)、次から次へと繰り出される、登場人物や仕掛けは、
なにより魅力的な冒険物語でした。

読者であるプレイヤーは、アバロンの王国(アーサー王が治めた伝説の国)に住む
若者「ピップ」として、その時代を冒険することになります。

1985年刊の〈ドラゴン・ファンタジー〉第2巻。『ドラゴンの洞窟』。二見書房刊。表紙イラストは福田典高。
1985年刊の第2巻。『ドラゴンの洞窟』。
とけねこ先生の『ドラゴンの洞窟?』は、
このタイトルのパロディだったりします。



やたら死亡率の高いゲームブックでもありました。
死のパラグラフは「14番」に固定され、冒険が進むと、死に至ることが既に分かり、
死ぬことそのものがネタにされていました。

(14番というパラグラフは、多くのゲームブックファンの共通言語にもなり、
そのオマージュとして、「14をデッドエンドにする」というゲームブック作家さんも、
多数あらわれました。
何を隠そう、私もそうだったりします

ピップの墓
←当サイトで使っている、このアイコンも、
モトネタはグレイルクエストです。

いっぽう、ちゃんと「死」をゲームシステムととらえること
(あるいは作中キャラクターと読者たるプレイヤーの「視点の差異」を意識すること)
に目を向けていたゲームブックでもありました。
多くのゲームブックにおいても(あるいは同時代のコンピュータゲームでも)、
死は避けられないものでしたが、
多くの作品においては、作中には何の説明もなく、
冒頭からやり直すことを示唆していただけだったように思えます。

ゲームシステムといえば、かなり本格的な戦闘システムや魔法、
そして、キャラクターの成長やアイテムを次巻へと持ち越せる、という構造も
ゲームファンには注目されていたと思います。
(長編冒険ゲームブックの雄〈ソーサリー〉が、いわば長大な旅を四分割した形式だったのに対して、
〈ドラゴンファンタジー〉は、各巻が趣向を変え“毎回行って帰ってくる”独立した物語でした。
いわばTRPGの長編キャンペーンに似ています)

〈夢時間〉というシステムには、私も魅了されました。
冒険中のダメージを睡眠によって回復することができるというシステムがあるのですが、
そのときダイスを振って「夢を見る」ことになると、悪い夢を見る危険があります。
リスクを伴った回復システムという意味でも面白いのですが、
その夢のために巻末に専用の〈夢時間〉チャートがついており、
これまたダイスによってランダムに決まる「夢のなかの出来事」が用意されています。
ゲームブックのなかのさらに小さなゲームブックという感じのミニ冒険が並んでおり、
夢のなかでさらにダメージを受けて死んでしまうこともあります。
各巻ごと内容が違う〈夢時間〉が用意され、
日本語版ではまた悪夢のような挿絵がついていたのも印象深かったです。


日本語版の挿絵を描かれたフーゴ=ハルさんは、
現在も、イラストレイター、ゲームブック作家、パズル作家として活躍中。
あの独特の絵によるファングッズなども製作されています。

→当サイトでも告知のお手伝いをした、ファングッズの告知はこちら。
(ご本人の許可を得たイラストも掲載されています)


【追記】

2009年、ご本人のサイトもオープンしました。
『GO TO HALL』【外部リンク】


基本の設定も、また魅力的でありました。

冒頭は、魔術師マーリンの語りからはじまります。
「お前をこの時代につれてくるための魔法はとても手間がかかって、一冊の本になってしまった。
そう。お前が読んでるこの本がそうさ」

そんな感じで、読者を“ゲームブックという魔法の本”に引き込んでしまいます。

マーリンによれば、「わしの時代のピップという若者に、お前の魂を移した」とのこと。
「お前は、はたから見れば本を読んでるだけのように見えるが、魔法でわしの時代に訪れているのだ」
……というわけです。

冒険本編も、「気むずかしい魔術師が、語りかけてくるような」口調で、語られます。
「しっかりしろ、ピップ」「油断するなよ、ピップ!」
「よくやったピップ。しかし、いい気になるんじゃないぞ……」

それは魔術師マーリンなのか、はてまた作者のブレナンなのかわかりませんが、
皮肉を言われたり、叱られたりしてるのに、
なにやら心地よいという、
独特の魅力がありました。

当時の自分にはわかりませんでしたが、
「語り手と聞き手の対話によって語られる」
原初の“物語り”の魅力がそこにあり、
それが、ゲームブックという「インタラクティブな物語」とマッチして、
“本当に対話によって進んでいくような物語”
を感じていたのではないか――いまでは、そんなふうにも考えています。


本作の不思議な魅力にとりつかれた人は多いようで、
根強いファンも存在しました。
インターネットの普及にともない、ネット上で情報交換が出来るような時代になってから、
再び人気のほどが証明されるようになったともいえます。

特に、ファン活動の中心となった、
『マーリンの呼び声』(管理人・セプタングエースさん)
ネット時代に対応した濃い研究やファン活動を行い、
ネット上のブレナン・ファンの集う場所となりました。


そして、伝説のゲームブックだった作品は、
21世紀になってから、
再びよみがえることになりました。

2004年刊の〈グレイルクエスト〉第1巻。『暗黒城の魔術師』。剣土社刊。表紙イラストはフーゴ・ハル。
2004年に再びよみがえった
〈グレイルクエスト〉日本語版第一巻。
表紙イラストはフーゴ・ハル氏による描き下ろし。
→Amazonの紹介ページ【外部リンク】



現在は、原題にそった〈グレイルクエスト〉シリーズとして、
出版がはじまっています。

装丁も新しく、新訳となった内容で、
フーゴ=ハル氏による挿絵の描きおろしなども加わった新装版。

出版元は、創土社
新訳〈ソーサリー〉をはじめ、
ゲームブックの復刊・新作出版で精力的に展開している出版社さんです。

かつて〈ドラゴンファンタジー〉で冒険した“ピップ”の皆さん。
そして、もし
新しく興味を持ったかたもいらっしゃいましたら、
どうか手にとってみてください。

気むずかしい魔術師が織りなした“魔法の本”。
アバロンの王国での冒険が、
そこにあります。

2006年刊の〈グレイルクエスト〉第2巻。『ドラゴンの洞窟』。剣土社刊。表紙イラストはフーゴ・ハル。
2006年刊行の第二巻。
翻訳者でもある日向禅氏の解説も素晴らしい。
第三巻以降も順次刊行が予定されています。
→Amazonの紹介ページ【外部リンク】

2008年12月に第三巻『魔界の地下迷宮』も刊行。
→Amazonの紹介ページ【外部リンク】
現在、三巻まで刊行というスローペースなのですが、
私も、かつての冒険者として応援しながら、
この「ピップの新しい冒険」をゆっくり見守りたいと思っています。



一巻『暗黒城の魔術師』【Amazonの紹介ページ】

二巻『ドラゴンの洞窟』【Amazonの紹介ページ】

創土社【外部リンク】

ファンサイト『マーリンの呼び声』【外部リンク】


【追記】
2009年5月14日オープンした、
フーゴ・ハルさんのサイト『GO TO HALL』【外部リンク】はこちら。

2012年、iGameBook様により、
〈グレイルクエスト〉のiアプリ化が開始されました。
iGameBook【外部リンク】

iGameBook



●おまけ●
新旧の表紙比較
1985年刊の〈ドラゴン・ファンタジー〉第1巻。『暗黒城の魔術師』。二見書房刊。表紙イラストは福田典高。 2004年刊の〈グレイルクエスト〉第1巻。『暗黒城の魔術師』。剣土社刊。表紙イラストはフーゴ・ハル。
1985年刊の〈ドラゴン・ファンタジー〉第2巻。『ドラゴンの洞窟』。二見書房刊。表紙イラストは福田典高。 2006年刊の〈グレイルクエスト〉第2巻。『ドラゴンの洞窟』。剣土社刊。表紙イラストはフーゴ・ハル。
→とけねこ先生のホラーショウ(ブレナン関係コーナー)


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