読まずに知るファルケンシュタイン
・電脳版追補編


 『RPGamer』第2号所載の記事『読まずに知るファルケンシュタイン』は、
『キャッスル・ファルケンシュタイン』に役立つ映像作品や漫画の紹介記事として好評を博した。
しかし21世紀の映像・出版の世界は常に動いてゐる! 
その後登場した作品、その後の調査で判明した作品についての続報をおくる。


《言語》
十九世紀紳士淑女用二十一世紀紳士淑女用

『英國戀物語エマ』
TV漫画、2005・日
 月刊コミックビームで連載中の正統派ヴィクトリアン・メイド・ラブロマンスコミック『エマ』の全13話のTVアニメ。作者の森薫氏の“愛”による緻密な歴史考証がさらに緻密になつて登場。しかも色が付いて、なほかつ流麗に動いてゐるのだから、単に19世紀末のロンドンの参考資料としても、あの時代を舞台にしたストーリーの鑑賞物としても抜群。特に、今は無き水晶宮(クリスタルパレス)の描写は必見。無いものをさも在るかのやうに描ける創作物ならではの醍醐味が十分に堪能できる。ついでに言へば、主人公が初めて水晶宮の中でデートする回の話はこのアニメ屈指のロマンティックなシーンの連続なので、さういふ意味でも必見である。
 「メイドに恋してはいけない時代がありました」といふキャッチコピー通り、物語は「ある新進のジェントリ(準上流階級)の長男である青年と、貧民出身のメイドとの許されざる恋」を描いた内容で、昨今流行りの派手さもエグさもないが、静かで落ち着いた演出と丁重な画面作りで、見てゐるうちにぐいぐいその世界に惹き込まれる。シリーズ構成も見事。オリジナルのエピソードやコミックの外伝エピソードなどを織り込んで、原作とは違つた展開を作りつつも違和感なくしつくりと融合させる演出の手並みは流石に「原作物に強いぴえろ」
(注)の面目躍如であると言へる。
 キャラクターの造形も良い。昨今流行りのオタク絵からは縁遠い、上品で繊細なデザインは、原作者が女性であるといふ点も大きいのだが、それよりも、当時の社会風俗を基にきちんと、かつリアルにアレンジしてある点が大きく影響してゐると思はれる。

 『なんと言つても主人公エマの主人である元ガヴァネス(家庭教師)の老婦人がいいんですよ! 彼女の「貴女のことならなんでもお見通しなのよ」と言はんばかりの一挙手一投足がもう、たまりません! それに、主人公のエマにしても、そりやあ顔にはあの時代にしては珍しい双眼レンズの眼鏡をかけてゐて、作者の妄想炸裂状態ではありますが、彼女の過去や、それを踏まへた部分から形作られたパーソナリティの造形が、そこらへんの単なる“萌えメイド”なんかとは一味違つた、ちやんとした大人のキャラクターとして完成してるんですよ!』――ある自称・事情通の言葉
 
さうなのだ。この作品は、節度を持つた「大人の」ラブストーリーなのである。決して巷を賑はせてゐるやうな軽いノリのアニメではない。だから、19世紀末のイギリス(ヨーロッパ)における人間の心情や常識観念などを学習するのにもちやうどよい作品なのである。
 さて残念ながら、アニメは原作前半部のクライマックスである2人の別れで終つてゐる。しかしこれを読んでゐる諸君には、いつか作られる(はずの)後半部分に期待を寄せてじつくりと鑑賞することを今はオススメして置きたい。
 最後に一言。『思い出を大事にするのは良いことだが、だからと言つて、度の合はない眼鏡をかけ続けるのは危険だと思ふ』。意味の解らない人は本編を見るべし。(松)

公式サイト
amazon.co.jpの紹介(DVD第1巻)
amazon.co.jpの紹介(原作漫画第1巻)

(注)……株式会社ぴえろ(旧・スタジオぴえろ)。『エマ』の製作に携つてゐるアニメイションスタジオ。

スチームボーイ
漫画映画、2004・日
 前世紀から、大友克洋ファンをえんえん待たせてきた作品が映画『スチームボーイ』である。待たされすぎたため、公開が決まつたときは喝采するといふより半信半疑でその知らせを受けとめたものだ。さて『スチームボーイ』だが、大友監督のメカいつぱい出したい趣味のために製作された映画と言つて過言ではない。過去の『工事中止命令』『アキラ』『大砲の街』などいづれの作品でもメカがゾロゾロ出たりウネウネしたり画面を埋め尽したりしてゐるが、『スチームボーイ』における執念はそれを遥かに上回る。
 ではどの辺りが『キャッスル・ファルケンシュタイン』の参考になるか考えてみよう。まづ残念ながら紳士淑女成分は不足してゐると言はざるを得ない(まさかスカーレットを淑女の例として挙げるわけにはいくまい)。妖精や魔法も出てこない。となれば、やはりメカと科学者である。素晴らしいことに、これらは作中にいくらでも出てくる。登場人物の過半数は、科学に魂を売つた狂的科学者ばかりだ。
 21世紀の現代、狂的科学者はなかなか活躍の場を見出せない。現在のサイエンスは多人数で取り組むものが多いからだ。しかし作中の19世紀はまさに発明の時代、天才の時代である。科学こそ未来を切り開く新たな神として、誰も疑はなかつた世界である。奇怪な発明品を背景に、両手を広げて高らかに哄笑する。現代では一寸気恥ずかしいやうなこのポーズも『キャッスル・ファルケンシュタイン』の世界ならば問題ない。いやむしろ流行の最先端として大いに追随すべき演出と言へよう。「科学は人間を幸せにするのだらうか」という使ひ古されて久しい命題も、当時ならむしろパンクである。
 あと忘れてはならないのが悪漢の描写だ。『スチームボーイ』中に登場する敵は身なりも良く、猛烈な運動量を要求されるアクションシーンでもきちんとスーツを着こなしてゐる。これは意外に重要なポイントで、単なる手先ならばともかくいやしくも自覚のある悪漢ならば、自分の服装には気を遣つておきたい。もうひとつ、死ぬときはその所業に相応しく、残虐な死に方をすることも大事だ。悪漢かくあるべし。(速)

 (追記)
マガジンZで『スチームボーイ』の連載が始まつた。映画とどう変へるのか楽しみである。

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80デイズ
映画、2005・米
  ジュール・ヴェルヌの『八十日間世界一周』が、ジャッキー・チェンのカンフーアクションと組み合さり、ディズニーによつて現代に蘇つた!!
 『80デイズ』は、かの古典を原作としつつ、大胆に再構築した娯楽映画といへるだらう。
 味のある従僕・パスパルトゥ(原作でも軽業師の経歴を持つてゐる)はジャッキー・チェンが扮し、「じつは中国人でカンフー使ひ」という新解釈が加へられた。原作では変り者の富豪だつた、主人公フォッグは「発明家」となり“金よりも大切なもの”を賭けて、世界一周に挑戦する。原作のアウーダ姫に替つて登場するモニク嬢は、フランスの(売れない)芸術家といふ魅力的な背景を持つ、活動的な新ヒロイン。この三人の劇的登場人物が、新たな「八十日間世界一周」に挑むことになるわけだ。
 ジャッキー主演といふこともあつてか、(原作にはない)中国のエピソードが大幅に追加されてゐるのも特徴。ファン将軍率いる大犯罪団“黒サソリ”の刺客たちに対して、パスパルトゥことラウ・シンのカンフーが炸裂。サモハン・キンポーとのひさしぶりの共演も見所だ!……つて、世界一周はどうした!?
 加えて尺の長さもあり、『80日間世界一周』(1956)に比べると、ロードムービー感は薄まつてしまつてゐる感がある。しかし、飛行機械などの発明品、大犯罪団といつた新しい要素が加はつた作品世界は、ある意味『キャッスル・ファルケンシュタイン』的な、空想冒険活劇の世界により近いといへるだらう。
 そして、この映画における、キャラクターの新解釈やクラス変更、ストーリーのアレンジといつた要素は、「古典を題材にして、新しいシナリオをつくる」例となるかもしれない(たとえばシナリオメイクという視点からみると、原作にあつた「イングランド銀行の強盗」のエピソードをあのやうに膨らめたのは、なかなか面白い)。ゴッホやライト兄弟、ヴィクトリア女王陛下など、有名人たちが登場し、シナリオと関はる楽しさも見習ふべきだらう。
 日本の(間違つた)ヨコハマが出てこないのはちと残念だが(笑)、そのあたりは自作シナリオのネタの余地と考へ、想像してみるのもまた一興だ。(藤)

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大人の科学マガジン 07号
付録付雑誌/学研
  RPGamer2号において創刊号を紹介した『大人の科学マガジン』も、すでに7号目を数へる。05年3月25日発売の7号も創刊号に続いて蒸気の特集だ。
 創刊号の付録は蒸気船(いはゆるポンポン船)だつたが、今回の付録は「蒸気自動車」の模型。特集では「蒸気エンジン」の魅力が語られる。あさりよしとおのサイエンスまんぐわ『蒸気魂』では、「蒸気機関航空機」の可能性(!?)も論じられてゐるぞ。(藤)

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ハウルの動く城
漫画映画、2004・日
しがない帽子屋の跡取り娘ソフィーは、悪名高き魔法使ひハウルにふとしたことで関わり、そのとばつちりで〈荒地の魔女〉に目をつけられ、老婆になる呪ひをかけられてしまふ。
そんな姿では家にゐられぬと荒地を目指した彼女は、途中で助けたかかしのカブに助けられ「ハウルの動く城」を訪ねる。掃除婦として城に居座つたソフィー婆さんは、そこで暮らすうちに、動く城の意外な姿や、噂とは違ふハウルの素顔を目にするのだつた。
しかし、そのころ、軍国主義が国中を席捲し、戦争の嵐は「何事にも縛られたくない」魔法使ひの城にも及びつつあった……。

  英国の代表的ファンタジー作家ダイアナ・ウィン・ジョーンズの物語を原作に、スタジオジブリがアニメーション映画化したといふ話題作。
舞台である〈インガリーの国〉は「昔話でおなじみの七リーグ靴や姿隠しのマントが本当にある」おとぎ話のやうな世界であるが、映画版では、蒸気文明が発達した19世紀風の設定となつてゐる。
美しいヨーロッパ風の自然のなかにある煉瓦と鉄と蒸気の街。海には巨大な鉄甲の軍艦、空には空中艦隊が往くその風景は、まさに『キャッスル・ファルケンシュタイン』を思はせる。
 原作にはない戦争の様相、巨大な空中艦隊による都市空爆の描写、そして魔法に「取り込まれていく」魔法使ひたちの姿は、「蒸気と魔法」の世界の暗黒面を物語つてゐる。

 タイトルにもなつてゐる「動く城」は(原作では空飛ぶ城だつた)、巨大な(しかし全体に比べれば妙に小さな)四本の脚で全体を揺らせながら動くユーモラスな巨大からくり【ガジェット】だ。ハウルと契約して城に束縛されてゐる火の悪魔カルシファーを動力源としてゐる(『キャッスル』風に解釈すれば、特殊な魔法エンジンといふところか。動き回つてゐるのは仇敵〈荒地の魔女〉の目をくらますためと、ハウル自身の自由奔放さ故であるが、これも『キャッスル』風に解釈し、あちこちで魔力の収集を行なつてゐると考へると面白い)。
 主人公ソフィーは、華やかなドゥミモンデーヌの母と妹を持ち、自分は美しくないといふコンプレックスを抱へた少女だが、呪ひに打ち勝ち、ハウルの心を取り戻し、はては戦争を終結させるやうな大冒険活劇を成し遂げる。彼女自身を表す適切な登場人物例はルールブックにはないが、(RPGamer2号で追加された「使用人」? いやいや)ここはぜひとも「帽子屋のあととり娘」といふ追加職業を創作して挑んでほしいものだ。(藤)
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(付記)
 小説ゆゑに本稿の趣旨からは外れるが、原作本『魔法使いハウルと火の悪魔』もお薦めしたい。おとぎ話の国で不運にも「三人きょうだいのいちばん上に生まれてしまつた」ソフィーが、自らの手で幸せをつかむまでの冒険が語られる。
 映画とは異なる設定や、割愛された描写もあり、映画を観た人にも補完的な意味で楽しく読めるだらう。
 『キャッスル』ファンには蒸気技術が登場しないことが物足りないかもしれないが、これを読めばトム・オラム的人物がこの世界にも居ることを知るだらう(ゲームデザインもしてゐるやうだし)。
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レディー・ヴィクトリアン
漫画、もとなおこ/秋田書店プリンセスコミックス
女家庭教師(ガヴァネス)の仕事を得て田舎からロンドンに出てきたヒロインが、流行読物雑誌の凄腕編集長(美男)や、その看板作家(美男)、絶世の美女の侯爵令嬢(実は……)と繰り広げるヴィクトリア朝ラブコメ絵巻。ロンドン事情や社交界の御作法豆知識がイヤになるほど満載。(加)
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エマ ヴィクトリアンガイド
書籍、森薫×村上リコ/エンターブレイン社ビームコミックス
本誌第2号でも紹介した『エマ』の副読本。字の本なのだがご容赦頂きたい。19世紀末英国の(特に使用人の)生活と文化を活写、挿絵満載で検索性も極めて高い。ファルケンシュタインでお屋敷ものをやるなら必見必買。全くの余談だが東京都の某書店では『レディー・ヴィクトリアン』と並べてフェアをやつてゐた!(桂)
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サハラに舞ふ羽根
映画、2002 米・英
日本ではラブロマンスとして宣伝されたが実はウェルメイドなスーダン戦争もの。本国での訓練、駱駝の背での行軍、「土民」との激戦など見どころ満載。英軍兵士がごく紳士的で、逃げる民間人を射たず、女性の前では敵兵を射殺しないのは、21世紀的戦争報道に慣れた視聴者には新鮮。植民地戦争ものとして推薦できる。しかし砂の中から襲ひかかるスーダン人だけはどうかと思ふ。(桂)
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ヴァン・ヘルシング
映画、2004 米
(時代錯誤的19世紀活劇として見た場合)
 ヴァチカンの密偵ヴァン・ヘルシンクが、発明家の修道士を連れてドラキュラ伯爵と戦ふ。ワキ役で狼男やフランケンシュタインの怪物も登場、退屈と無縁なB級アクション。いつぱいジャンプしたり墜落したりする。ヴァチカンの秘密工房や、相棒の修道士の発明マニヤ&三枚目つぷりは一見の価値あり。敵方は敵方で、ドラキュラが自分の子供たちに命を与へるために科学の大威力を駆使した機械じかけをこしらへ、大演説をぶつあたり、今日日めつたに見ないイイ感じである。そらさうと吸血鬼も狼男も二段変身すると途端に格好悪くなるのだけは何うにかならんか。(桂)

(対アンシーリー・コートものとして見に行った場合)
 造形の描写がいかに物語の雰囲気を形作るものかといふことの見本。ヘルシング一行に対するドラキュラの花嫁の芝居は絶叫調の芸が滑りお笑ひにしか見えない。吸血鬼の子供たちは幻想小説の怪物といふよりはエイリアン(あの灰色がよろしくない)。アンシーリーの輩は「化け物」「怪物」「悪鬼」として描くべきであつて、CGモーフィングばりばりのモンスターとして描いたが最後どんなにファルケン的要素満載のシナリオでもD&Dにしか見えなくなることをお腹いつぱいになるまで教へてくれる。ただし衣装や背景に関してはこれぞファルケンシュタインといふ豪奢にしてゴシックなものが堪能できる。特に仮面舞踏会のシーンは圧巻。惜しむべくはそれらが麗しい姿で画面に映つてゐる時間があまりにも短かつたこと。信仰篤く気高い心を持つフランケンシュタインの怪物が出色の出来。(滝)


※各作品紹介の末尾の( )内の文字が執筆者をあらわします。
(桂)=桂令夫、(加)=加藤拓弥、(滝)=滝野原南生、(速)=速水螺旋人、(藤)=藤浪智之、(松)=松本富之


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本ページは、TRPG『キャッスル・ファルケンシュタイン』の、有志による情報コーナーです。
日本語版翻訳者である桂令夫さん等、製品版に関わる方のご協力も得て作成されていますが、
本コーナーの作成は、個人の責任において行なわれているものであります。
当コーナーの内容について、制作元などに問い合わせる等の行為はしないでください。
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『キャッスル・ファルケンシュタイン』は、米国のR・タルソリアン・ゲームズで出版されたTRPGで、
日本語版は、国際通信社にて発売されております。

→藤浪智之のホームページへ


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