Ernest John Moeran (1894-1950)

[ Recommendation ]

 ずっとアルコール中毒でした。

 モーラン(Ernest John Moeran)は1894年にヘストンに生まれた、生まれてまもなく彼は家族とともにノーフォーク地方の外れの沼沢地帯バクトンへ転居。幼いうちからヴァイオリンとピアノを学ぶ。やがて英国王立音楽学校へ進学し、スタンフォードに作曲とピアノを師事する。しかし途中で戦争が勃発し音楽どころではなくなる、彼はノーフォーク連隊の第6次大隊の一員として戦争に従軍した。

 従軍中に彼は榴散弾に被弾し頭部に激しい傷を負ってしまう。手術を受けたが、この時代の手術は頭に金属の板をはめ込むという現在で考えるとかなり旧式のものだったため、彼は生涯神経症に悩まされることになる。終戦後、障害者年金の支給を受けた彼は教鞭をとるためアッピングハムに戻りる。1920年になると王立音楽学校に戻り、ジョン・アイアランドに師事した。

 この時期は彼のイマジネーションが最初のピークを迎えたともいうべき時期で、「弦楽四重奏曲イ短調」、「管弦楽のためのラプソディ1番」、「ピアノ三重奏」、「ヴァイオリン・ソナタ」などの主要作品を次々と生み出している。また、ピアノ独奏のための作品もこの時期に集中して書かれた。このこのから彼は民謡の収集も始めている、酒屋で流れる歌や彼の故郷ノーフォークの民謡、その当時まだ歌われていた民謡などを楽譜に書きとめた。民謡の収集は彼のライフ・ワークとなっていき、これらの民謡のうちのいくつかは作品として発表されている。

 20代半ばになると、彼はピーター・ウォーロックというペンネームで有名だった作曲者フィリップ・ヘーゼルタイン(弦楽オーケストラのための「カプリオール組曲」などが主要作品、ディーリアスとも親交があった)と親密な関係を築くようになる。1925年には芸術家ハル・コリンズと一緒に、アインズフォードに家を借りて沢山の芸術家と音楽家を家に集めて無秩序に飲み明かし、時にはなんども警察の注意を受けたりしながら自堕落な生活を3年間を送ったという。この期間はまさに「堕落」の時期、彼の創作活動もこの間はまったく行われていない。しかもこの時に体に染み付いた酒グセの悪さがアルコール中毒を引き起こし、生涯彼の人生に暗い影を落とすことになる。

 やがてお金は底をつき家を去る時が来ると、彼はディーリアスやアイアランドといった作曲家達から受けた初期の影響からの脱却を考え、自身の作風(特に和声の使い方)を見つめ直す。その時期に生まれた「2つのヴァイオリンのためのソナタ」や「弦楽三重奏曲ト長調」などはその変遷をよく示している。

 彼はこのころから故郷アイルランドに再び大きな関心を示し始める。彼の父親はイギリス育ちだったがもともと生まれはダブリンだったし、彼自身も従軍していたときはアイルランドで過ごしていた。そういうことが重なって、アイルランドへの思い入れは強かったのだろう。彼はこの頃からアイルランド南西部にある海沿いの街、ケンメアに好んで滞在するようになる。

 彼は「交響曲ト短調」を20代の時にすでにほとんど書き上げていたが、彼はそこでいきなり創作をやめてしまい結局、1934年になるまで再開されなかった。1937年になって彼はついに交響曲を書き上げる、この作品の成功はモーランに大きな自信を与えたといわれている。彼は交響曲ができるとすぐに交響曲の姉妹作を書き始める、そうしてできたのが「ヴァイオリン協奏曲」である。

 40代になると彼は女流チェロ奏者ピアズ・クートモアのために「チェロ協奏曲」を書き初演の年に彼女と結婚した、その2年後には彼女のために「チェロ・ソナタ」も書いている。同時期に生まれた主要作品として 「シンフォニエッタ」 「ピアノと管弦楽のためのラプソディ」「オーボエと弦楽のための幻想曲」「セレナーデ」などが挙げられる。

 しかしそんな幸せとは裏腹に彼の健康状態は傾いていく、モーランは創作中の第二の交響曲と格闘していたが結局は完成せず、その後消えてしまったという。彼は酒を飲み続け1950年ぐらいになると彼はますます不健康になっていく、しまいには精神的にも情緒不安定でいつ狂気を導いてもおかしくないような危険な状態になってしまった。1950年12月1日、激しい嵐の日に彼は心臓発作で桟橋から川に落ちて死んでいるところを発見される。アイルランド南西部にある海沿いの街ケンメアに彼は今も眠っている。

【主な作品】


●ヴァイオリン協奏曲(1938)

 この協奏曲にはアイルランドの穏やかな風景が描かれている。アイルランドに伝わる古の伝説によせる厳かでミステリオーソなイメージ、そしてジョイスの詩に感じたインスピレーションが曲の根底に流れている。

 もともとは交響曲ト短調の姉妹作として書かれた作品。交響曲は暗さや絶望に満ちているが、このヴァイオリン協奏曲はその交響曲への「救済」ともいうべき作品で、希望や啓発を与えるような内容になっている。


●チェロ協奏曲(1945)

 モーランのVc協奏曲は一人の女性チェリストへの深い愛が生んだ作品。 彼はピアズ・クートモアという女性チェリストに宛てたラブ・レターの中に、「どうか僕にチェロ協奏曲を書くように言ってください。そうしてくだされば、僕の心のすべてを込めた協奏曲を書くと約束します。」と書いたらしい。当時の彼は50歳間近…でも心はまだまだ若かった。彼はクートモアへの愛を募らせつつペンを走らせたに違いない。この曲が初演された年(1945年)になんと二人は結婚、ロマンティックな話だ。

 しかし、その5年後モーランは心臓発作で川に転落して死んでしまう…運命というのははなんとも皮肉なもので、永劫の幸せなんて与えてくれないのだ。しかしモーランの音楽はまだ生きてるし、彼のクートモアによせた想いは今も楽譜に刻まれている。


●セレナーデ (1948)

 セレナーデは6曲からなる管弦楽曲、第一曲プロローグ(Allegro)にはじまり第6曲エピローグ(Allegro un poco maestoso)で終わるという面白いつくりになっている。ギャロップやリゴードンといった伝統的な舞曲が織り交ぜられていて面白い、個人的には第2曲のアリアの祈るような曲調とどこかもの悲しい旋律が好きだ。


●交響曲 ト短調 (1924-1937)

 1924年からこの交響曲の製作にとりかかりるが、彼は途中で創作をやめてしまったので、最終的な完成をみたのは1937年のことだった。彼の作品の中では大きい方に入るこの作品、交響曲とはいっても華やかさなどは微塵も無くかなり渋い内容になっている。どこか交響詩的。


●シンフォニエッタ (1944)

 このシンフォニエッタは彼のいつもの作風とは一味違いかなり古典的手法がとりいれられている、主題と変奏を繰り返すというスタンダードな構成。純粋なヴァリエーションとして聴いても完成度が高く、面白く聴ける作品。


●モルドコヴィチ(Vn)、ウォルフィッシュ(Vc)※/ハンドリー、デル・マー※/アルスター響、ボーンマス・シンフォニエッタ/CHANDOS

 ヴァイオリン協奏曲&チェロ協奏曲の2曲カップリングされたCD、たぶんこの曲はこのCDくらいしか出てないので見つけたら即買うべし。モーランも他の楽曲は沢山あるが、僕が一番お薦めしたいのはヴァイオリン協奏曲とチェロ協奏曲だ。この二曲には彼の美質がギュッと凝縮されていると思う。


1.ヴァイオリン協奏曲 (1938)
2.ロンリー・ウォーターズ (1924)
3.ホワイソーンの影 (1931)
4.チェロ協奏曲※ (1945)

●ハンドリー/アルスター響/CHANDOS

 セレナーデと一緒に併録されているのは上のバイオグラフィの中にも登場していた作曲家ピーター・ウォーロックのカプリオール組曲、モーランと親交のあった作曲家の作品。


1.セレナーデ (1948)
2.カプリオール組曲 (Peter Warlock)
3.夜想曲 (1934)


●ハンドリー/アルスター響/CHANDOS

 ここでもハンドリーの演奏、イギリス音楽を得意にしている彼の演奏はどの作品も安心して聴いてられる。ピアノと管弦楽のためのラブソディーは貴重な録音。


1.交響曲 ト短調 (1924-1937)  
2.ピアノと管弦楽のためのラブソディー (1942-1943)


●デーヴィッド・ロイド=ジョーンズ/ボーンマス交響楽団/NAXOS

 シンフォニエッタが収録されているもので最も手に入りやすい一枚、録音も良い。NAXOSはマイナー作品の宝庫。


1.交響曲 ト短調 (1924-1937)  
2.シンフォニエッタ (1944)


その他の室内楽作品のCDもいくつか紹介しておこう。


●The Complete Solo Piano Music/Asv

 独奏ピアノのための小品が全て収められた一枚、モーランが好きになった人は持っておくべきだろう。


1.Bank Holiday (1925)
2.The White Mountain (1927)
3.On A May Morning (1921)
4.Toccato (1921)
5.A Folk Story
6.Rune
7.The Lake Island
8.Autumn Woods
9.At A Horse Fair
10.Prelude
11.Berceuse
12.Theme And Variatins (1920)
13.Summer Valley (1925)
14.Stalham River (1921)
15.Windmills
16.Elegy
17.Burlesque
18.Irish Love Song (1926)


●English Cello Sonatas/Marco Polo

 モーランのチェロ・ソナタが収録されている貴重な一枚、モーラン以外にもイギリス近代作曲家のチェロ・ソナタが収録されている。師であるアイアランドのチェロ・ソナタも併録されている。


1.Sonata in G Minor (Edmund Rubbra)
2.Sonata in A Minor (Ernest J. Moeran)
3.Sonata in G Minor (John Ireland)


●マッジーニ四重奏団/NAXOS

 弦楽作品が収められた作品、これもNAXOSなので比較的手に入れられやすい一枚。弦楽三重奏曲は貴重な録音。


1.弦楽四重奏曲第二番 変ホ長調  
2.弦楽四重奏曲第一番 イ短調 (1921)
3.弦楽三重奏曲 ト長調 (1931)


●Moeran: Chamber Music/ASV

 弦楽四重奏曲を聴きたいならば上に紹介したマッジーニ四重奏団のものが手に入りやすいが、このアルバムにはオーボエと弦楽のための幻想曲とピアノ三重奏曲というレアな作品が収録されているので見逃せない一枚。


1.弦楽四重奏曲第二番 変ホ長調
2.弦楽四重奏曲第一番 イ短調 (1921)
3.オーボエと弦楽のための幻想曲 (1946)
4.ピアノ三重奏 (1920-1925)


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