Gustav Mahler (1860-1911)

[ Recommendation ]

 厭世趣味でごめんなさい。

 高校時代、僕はバーンスタインの晩年の録音を聴いて初めてマーラーを知り、そして好きになった。そういうわけで、推薦盤を何も考えず挙げると殆どレニーだらけになってしまうかもしれない。

 近年は様々な視点から「マーラー」を捉えた名演奏が数え切れないほどリリースされているのだが、やはり青春時代に夢中で聴いた演奏というのはそういった様々な解釈とは一線を画し、自分の中ではいつまでも特別な存在であり続けるのだと思う。


●交響曲 第1番 ニ長調 《巨人》

 《巨人》という副題は、マーラーが愛読していたドイツ・ロマン派の作家ジャン・パウルの小説からとられている。この曲はもともと交響曲ではなく連作交響詩だった。もともとは二部構成で全5楽章の作品、《巨人》という副題と共に各楽章にも標題が付けられていた。

 第1部 青春の日より

 第1楽章:春、そして終わることなく
 第2楽章:ブルーミネ(花の章)
 第3楽章:満帆に風を受けて

 第2部 人生喜劇

 第4楽章:座礁、カロ風の葬送行進曲
 第5楽章:地獄から天国へ

 後にベルリン初演の際に標題を外し、第2楽章「花の章」をカット、残りの4つの楽章にも改訂を加え、現在の第一交響曲として完成を見ることになる。そんなわけでこの作品にはブルックナーの交響曲のようにハンブルク稿 、ワイマール稿 、ウニヴェルザール旧版 、新版(ラッツ全集版)…といった感じにエディションが幾つか存在している。

 ちなみに読売ジャイアンツとは一切関係ない。


【推薦盤】

●バーンスタイン/アムステルダム・コンセルトヘボウ管弦楽団/DG (87年)

 冒頭から生命力豊かな音の連続、木管もよく歌いこんでいてこれを聴いてしまうと他の録音では物足りなくなるほどだ。弦も底光りするような艶のある音を出していて、ニュアンス豊かな音楽を作り出している。レニーの作品に対する深い共感と愛情をひしひしと感じる一枚。

 

●シャイー/アムステルダム・コンセルトへボウ管弦楽団/DECCA (95年)

 レニーの濃厚な演奏が苦手な人にはこれ、テンポはやや遅めだがしつこくない。全体に抑制が効いていてナチュラルだが、決して平坦にはならず非常に色彩豊か、このバランスは絶妙だ。録音も秀逸で音に立体感があり、ディティールまでクッキリと聴こえてくる。


 あとはテンシュテット/シカゴ響/EMI (90年)も名演。とにかく音楽が大きくてパワフル、弦は少し固めの音質でまた違った面白さがある。弦の刻みがやたら熱くてとても印象的、シカゴ響の金管も相変らず強烈、これも好きな人にはたまらないだろう。特に終楽章の盛り上がりは凄まじいものがある、終楽章だけだったらこれがベスト盤とさえ言いたくなるような凄さ。

 最近の録音からはギーレン/南西ドイツ放送交響楽団/hanssler (2002年)を挙げておこう。ここでもギーレンのスタンスは一貫していてマーラー特有の「ドロドロ」は一切無し、そのすっきりとした解釈には爽快感さえ感じた。録音も秀逸、この曲の違った魅力を感じることが出来る。

 他に同曲の歴史的名盤として名高いワルター/コロンビア交響楽団/SONY (61年)を挙げておく、マーラーの弟子ワルターによる元祖マラ1。でも僕はあまり好きになれない、3楽章のティンパ二のチューニングがずれているのも気になってしまう(それがなんともいえない雰囲気を出していて良い、と仰る方もいるが…ちょっとマニアック過ぎる意見だと思う)。世評を聞いていると若者にはレニー盤の方が共感されているようだ。

 カットされてしまった「花の章」も、「なんでカットしちゃったんだろう…」と思わずにはいられないような美しい作品なので、興味のある方は聴いてみて欲しい。(特にラッパ吹きは必聴!)花の章が録音された演奏は幾つかあるが、ここではラトル/バーミンガム市交響楽団/EMI (91年)を挙げておく。


●交響曲 第2番 ハ短調 《復活》

 死後の世界への憧れを感じる作品、終楽章の合唱に背筋がゾクゾク。


【推薦盤】

●バーンスタイン/ニューヨーク・フィル/DG (87年)

 復活といったらコレで決まりだ!と言いたくなる一枚。晩年のレニーのマーラーは壮絶で粘っこいイメージが在るが、この復活はそれが最も象徴的に現れた一枚だと思う。テンポが遅いのに少しも緩まない緊張感、火を噴くようなフォルテ…熱いです。素敵です。

 

●ギーレン/南西ドイツ放送交響楽団/hanssler (95年)

 レニーの演奏よりも客観的にスコアと向き合い構造美をくっきりと描いた演奏。やたら燃え滾るイメージが強い2番、しかしここで胸に迫ってくるのは背筋がゾッとするほどの「静寂」。終楽章で声楽が入る直前の雰囲気は言葉では表せない感動がある。


 他には最近のものでは小澤征爾/サイトウキネン・オーケストラ/SONY (2000年)を挙げておこう、小澤がボストン響を振った旧盤よりも出来が良い。弦の豊かな響きはこのオーケストラならでは、流石はソリスト軍団という感じ(それが「オーケストラ」というものの指標において正しいかどうかはまた別として)。「日本人だってこんなに素晴らしい音が出せるのだ!」、高校の時にそんな風に感動したのを覚えている。


●交響曲 第3番 ニ短調

 長いけど良い曲、少年合唱が「ビム!バム!」って歌うところがちょっと恥ずかしい。終楽章「愛が私に語るもの」は本当に感動的。


【推薦盤】

●バーンスタイン/ニューヨーク・フィル/DG (87年)

 レニーがこの曲に寄せる思い入れはもの凄い、この長大な作品を隅々まで「自分のモノ」として表現できている演奏。管も充実していて名手アレッシのトロンボーン・ソロなど聴き所は満載。終楽章の追想を繰り返しながら高揚して行く部分は感動的。

 

●ブーレーズ/ウィーン・フィル/DG (2001年)

 レニーの演奏の対極にあってこれもまた美しい演奏、スコアを完全に読みきって作品そのものの美しさをスッと立ち上がらせた感じ。表現の緻密さ、強弱のバランス、洗練度の高さは圧倒的で、ブーレーズの耳の良さには驚く。フォン・オッターの歌も素晴らしい。


 実は入手困難という理由から掲載するか迷った録音がある。発売当時もの凄い反響を呼んだにもかかわらず何故か再発売がされない一枚だ、これこそまさに「忘れられた名演奏」といっていいのかもしれない。ここでは紹介の意味も含めて掲載しておく。

●マイケル・ティルソン・トーマス/ロンドン交響楽団/SONY (87年)

 100分を越える規模…特には宇宙さえ感じさせるこの巨大な作品をこれほど見通しよく演奏した例はあまりないだろう。極限まで洗練されたサウンドで純音楽的なマーラーを聴かせている、発売当時新しいマーラー像が大きな反響を呼んだ一枚。

 そういえばT.トーマスは最近サンフランシスコ響とマラ3を再録音したんだった、まだ聴いてないがこれも気になるところ。

●交響曲 第4番 ト短調

 大人のためのメルヘン、或いは妄想。マーラーにしては明るさを感じる、もちろんそこにもダークな匂いがむんむんと漂っているのだが。


【推薦盤】

●バーンスタイン/ニューヨーク・フィル/SONY (60年)

 バーンスタイン指揮のものだとACOとの新盤もあるが、終楽章のボーイソプラノの起用に違和感を覚えたので敢えて旧盤を挙げたい。レリ・グリストの歌い方は曲のイメージにピッタリ、オケも楽天的で温かい音を聴かせていてなんともメルヘンチック。

 

●シャイー/アムステルダム・コンセルトへボウ管弦楽団/DECCA (99年)

 愉しいというよりはひたすら「明るい」演奏、ゆっくりとしたテンポで歌っているのに決してしつこさを感じさせないのは流石はシャイーといった感じ。とろけるような弦の音が良い、聴いてて妙に和む一枚。


 他にはアバド/ウィーン・フィル/DG (77年)を挙げておこう。アイロニーなんてものは切り捨ててひたすら美しく幸福感に満ちた演奏をしている、これはアバドの録音の中で最も評価されている録音の一つ。

 これらと対極にある演奏としてショルティ/シカゴ交響楽団/DECCA (83年)を紹介しておこう 。直線的に描かれた古典的ともいえるマラ4、でも僕は好きになれない。


●交響曲 第5番 嬰ハ短調

 マラ5は4楽章アダージェットばかりが有名になっていて、この楽章だけ単独で演奏されることも多い。マラ5は5楽章が4楽章に対する一つの答えのような相対関係にあるので、個人的には4楽章を聴くならば併せて終楽章も聴いてもらいたい。というか全部聴いて欲しい。(笑)

 でも、確かに4楽章アダージェットは名曲だと思う。ハープの静謐な響きから零れ落ちるように現われる弦楽器の囁き、その囁きは折り重ねられていき、やがて絶叫へと変わる。壮絶で悲しく、そして美しい音楽だ。

 アダージェットが単独で演奏されるのにも頷ける。でもあれをいわゆる「癒し系」的な音楽のコンピレーションアルバムに入れるのはどうかと思う。アダージョ・カラヤンとか。まぁそういうのもマーラーに興味を持つきっかけと考えたら良いことなのかもしれないが。

 このアダージェットはヴィスコンティ監督の映画「ヴェニスに死す」に使われていることでも有名である、この映画は簡単にいうと美少年の美しさにはまってしまう老作家の物語。しかし映画が公開される前からこの曲は有名だったらしく、ワルターやメンゲルベルクといった巨匠たちがこの楽章だけの録音を戦前に行っているそうだ。やっぱりこの曲には不思議な魅力があるのだろう。

 …結局ここでも4楽章の話題が大半を占めるようになってしまった、こうして「マラ5=4楽章」というなんとも微妙な構図は作られていくわけだ。


【推薦盤】

●バーンスタイン/ウィーン・フィル/DG (87年)

 同曲の数ある録音の中で常に圧倒的な支持を集める一枚。初めて聴いた特はその「うねり」にショックを受けた、ゆっくりとしたテンポで粘っこく濃厚に歌いこまれている。これほど恣意的で没入しきった演奏も珍しい、レニー苦手な人には絶対ダメな1枚。

 

●インバル/フランクフルト放送交響楽団/DENON (86年)

 インバルのマーラー・チクルスの中ではベストの出来じゃないだろうか。録音が良いからかもしれないが、金管がの響きが鮮明でカッコ良い。没入しすぎず構成の美しさをストレートに引き出した演奏、ファーストチョイスに向いているかもしれない。


 上でまったく対極にあるともいえる2枚をあげたが、ここからはユニークな名演をいくつか。感情たっぷりに演奏していながらデリケートな側面をしっかりと持ち合わせたシノーポリ/フィルハーモニア管弦楽団/DG (85年)も名演、このバランスは絶妙で彼のマーラー録音のなかでも傑出している。

 最近の録音ではラトル/ベルリン・フィル/EMI (2002年)が面白い、感動まではいかないが新しいマーラー像を提示する録音として聴き取るべきものは多い。ラトルはこれからがますます楽しみだ。


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