正弦定理と余弦定理                      戻る

 高校数学において、正弦定理と余弦定理は、幾何的問題を解決する道具として不動の
地位を占めている。

 △ABC において、次が成り立つ。

  正弦定理

      

         ただし、R は△ABC の外接円の半径
  余弦定理

      

      

      

 新学習指導要領における教科書によれば、正弦定理は高さの計算(正弦の定義に基
づく)により、軽妙に示されている。もっとも、この証明の方法では、三角形の外接円との
関係まで言及することは困難なので、一番大切と思われる比の値(=2R)が省略される
のが普通である。また、余弦定理は、三平方の定理の応用として証明される。

   (追記)平成20年1月20日付け

       NHK高校講座(1月19日放送)で、講師の神長幾子先生は正弦定理の証
      明を2段階に分けてやられていた。

        (1) 点Aより辺BCに垂線を下ろして、 c・sinB=b・sinC から、
           b/sinB=c/sinC を導く。他も同様。

        (2) △ABCの外接円を用いて、 a=2RsinA を導く。他も同様。

       この2段階の証明が本当に教育的なのか、放送を見ていて疑問に思った。
      多分、これは、教科書によっては、(1)の場合で終わっている場合への配慮
      なのだろう。神長先生の(2)の説明が少し冗長すぎたので、もう少し簡潔な
      説明が望まれた。

 私が、これらの定理を学校教育で学んだのは、高校2年生のときである。以前は、三
角法の重要性に鑑みて、割と長期的展望にたって指導されていたような気がする。

 中学3年で、三角比の初歩を学習し、高校1年では三角関数としての扱い、高校2年
では、加法定理を最大の眼目として、それらの応用と図形問題を学習したようである。

 ほぼ3年間にわたって、三角関数にどっぷり浸かる時間があったわけであるが、最近
の高校教育では、十分な熟成期間がとれないほで、短期間に集中して、三角関数が教
えられる傾向にある。特に、進学校といわれるところでは、高校1年の3学期位から始ま
って、その続きと称して、高校2年の1学期に三角関数が指導されるのが通常で、生徒
にとっては、ゆっくり振り返る余裕がないほどである。

 その結果として、三角関数の定着率は非常に悪く、数学嫌いを大量生産しているよう
に思う。効率を考えれば、集中的に三角比・三角関数に取り組ませるのがいいのだろう
が、生徒の定着率を考えれば、もっと長期的な展望に立って指導するのがベストだろう
と思う。

 新課程の教科書だけをみると、正弦定理と余弦定理が別個に証明されているので、
互いに関連性がないような印象を受けるが、実は、そうではない。

 正弦定理から余弦定理を示すこともできるし、逆に、余弦定理から正弦定理を導くこ
ともできる。

 以前、筑波大学付属高校の研究授業を参観する機会があったが、そこでは、正弦定
理や余弦定理の証明方法をいろいろな角度から生徒に考えさせる授業を行っており、
とてもためになった。問題練習の時間を作るために、普通だったら簡単に説明して終わ
らせるところを、じっくり取り組んでいた。私自身、とても反省させられた。

 正弦定理の一般的な証明としては、

   円周角の定理(同じ弧に対する円周角は等しい)
   円周角と中心角の関係(直径に対する円周角は、90°)

を用いるものが普通だろう。

 この証明法だと、比の値と外接円の半径の関係が明瞭に浮かび上がってくる。

 余弦定理の一般的な証明としては、次の等式を用いるものだろう。

      

      

      

 この3つの等式の両辺に、それぞれ、 a 、−b 、−c を掛けて、辺々加えれば、

      

を得ることができる。他も同様。

 上の3つの等式は、第一余弦定理といわれるもので、冒頭の余弦定理は、正しくは、
第二余弦定理といわれるものである。

 この第一余弦定理は、正弦定理から簡単に導くことができる。

加比の理を用いて、

   

よって、
        

他も同様である。

 したがって、以上から、正弦定理より余弦定理が導けることが分かった。

第一余弦定理を用いなくても、加法定理を用いれば、直接的に示すことも可能である。

 正弦定理より、 a=2RsinA 、b=2RsinB 、c=2RsinC なので、

   b2+c2−2bccosA

 =4R2(sin2B+sin2C−2sinBsinCcosA)

 =2R2(1−cos2B+1−cos2C+2(cos(B+C)−cos(B−C))cosA)

 =2R2(2−2cos(B+C)cos(B−C)+2(cos(B+C)−cos(B−C))cosA)

 =2R2(2+2cosAcos(B−C)+2(−cosA−cos(B−C))cosA)

 =4R2(1−cos2A)

 =4R2sin2

 =a2

 逆に、(第二)余弦定理が成り立てば、(第一)余弦定理が成り立ち、加比の理により、
正弦定理の成り立つことが分かる。

(追記) 上記では割と古典的に、正弦定理を起点として、第一余弦定理もしくは三角関
    数の加法定理を用いて余弦定理(第2余弦定理)を示すことができた。

 教科書では、このような話題に触れられることはなく、ただ無機質的に、座標を用いた
距離の公式により示されることが多い。

 何れにしても、何らかの代数計算が必要なわけで、以前から多少不満があった。当HP
の「裏技の記録」の中に、「余弦定理を図で理解する方法」が述べられているが、少しで
も視覚に訴えるような証明を得ようとした試みである。

 最近この話題について、余弦定理を図形的に証明する方法を知ることができた。

 △ABCにおいて、  が成り立つことを示す。

(イ) 0°<A<90°のとき、

 辺BC上に、2点P、Qを ∠APC=∠AQC=∠A
であるようにとる。

 このとき、 △ABQ∽△CBA なので、
   AB:BQ:AQ=BC:AB:AC= a : c : b

 よって、 c : BQ=a : c より、 BQ=c2/a

 また、 c : AQ = a : b より、 AQ=bc/a  である。

 同様に、 △CAP∽△CBA より、 CA:AP:CP=BC:AB:AC= a : c : b
なので、
         b : CP= a : b より、 CP=b2/a

△APQは二等辺三角形なので、 PQ=AQcosA×2 即ち、PQ=2(bc/a)cosA

 以上から、 a=BC=BQ+CP−PQ=c2/a+b2/a−2(bc/a)cosA なので、

両辺を a 倍して、  が成り立つ。 

(ロ) A=90°のとき、 上図で、P=Q の場合なので、P=Q=Hは、AからBCに下ろ

  した垂線の足である。このとき、

       a=BC=BQ+CP=c2/a+b2/a

  より、 a2=b2+c2 が成り立つ。 cos90°=0 なので、このときも

         が成り立つ。

(ハ) 90°<A<180°のとき、

 辺BC上に、2点P、Qを
 ∠APC=∠AQC=∠Aの補角であるようにとる。

 このとき、 △ABP∽△CBA なので、
   AB:BP:AP=BC:AB:AC= a : c : b

 よって、 c : BP=a : c より、 BP=c2/a

 また、 c : AP = a : b より、 AP=bc/a  である。

 同様に、 △CAQ∽△CBA より、 CA:AQ:CQ=BC:AB:AC= a : c : b
なので、
         b : CQ= a : b より、 CQ=b2/a

△APQは二等辺三角形なので、 PQ=APcos(180°−A)×2=−2APcosA

 即ち、PQ=−2(bc/a)cosA

 以上から、 a=BC=BP+CQ+PQ=c2/a+b2/a−2(bc/a)cosA なので、

両辺を a 倍して、  が成り立つ。 

(コメント) この証明によれば、余弦定理における「2bccosA」の意味が浮かび上がって
      くるように感じる。

(参考文献:一松 信 著 初等関数概説  (森北出版))

(追記) 平成22年9月20日付け

 当HPがいつもお世話になっているHN「FN」さんがこの話題について整理された。

 6個の正の数 a、b、c、A、B、C が A+B+C=π を満たしているとき、次の条件は同
値である。

 (1)
    

 (2)  、 

 (3)  、  、 

 (4)  、 

 (5)  、  、 

 (6) 3辺が a、b、c で、それぞれに対応する角が A、B、C である三角形ABCが存在する。


 ところで、(1)→(3)、(3)→(5)については、上記で証明された。

 (6)→(1)は、CからABに引いた垂線をCHとすると、

   CH=a・sinB=b・sinA より、a/sinA=b/sinB 等から分かる。

 (1)→(6)は、1辺が a で両端の角がB、Cである三角形が条件を満たすものであること

 が容易にわかる。 (3)→(2)、(5)→(4)は明らか。

 また、(5)→(3)も易しい。

 実際に、

 、  、 

が成り立つとき、

 、  、 

が成り立つことを示す。

  、  より、

  cosB=(c2+a2−b2)/(2ca) 、 cosC=(a2+b2−c2)/(2ab)

このとき、 b・cosC+c・cosB

      =b(a2+b2−c2)/(2ab)+c(c2+a2−b2)/(2ca)=2a2/(2a)=a

 他も同様である。


 そこで、問題です。

 (2)→(1)、(4)→(1)を証明して下さい。

 この証明ができれば、すべて同値になります。
もちろん、(2)→(1)のかわりに、(2)→(3)とかでもかまいません。

 FNさんが、(4)→(1)の証明を与えられた。(平成22年9月24日付け)

  、  が成り立つとき、

   

が成り立つことを示す。

  より、 cosA=(b2+c2−a2)/(2bc)

 このとき、 sin2A=1−cos2A=1−(b2+c2−a22/(2bc)2 より、

  (2bc・sinA)2=(2bc)2−(b2+c2−a22

          =(2bc+b2+c2−a2)(2bc−b2−c2+a2

          ={(b+c)2−a2}{a2−(b−c)2

          =(a+b+c)(−a+b+c)(a−b+c)(a+b−c)>0

  よって、 2bc・sinA=S となる正数 S が存在するので、

       a/sinA=2abc/S

  同様にして、  より、 cosB=(c2+a2−b2)/(2ca)

 このとき、 sin2B=1−cos2B=1−(c2+a2−b22/(2ca)2 より、

  (2ca・sinB)2=(2ca)2−(c2+a2−b22

          =(2ca+c2+a2−b2)(2ca−c2−a2+b2

          ={(c+a)2−b2}{b2−(c−a)2

          =(a+b+c)(−a+b+c)(a−b+c)(a+b−c)=S2

   よって、 2ca・sinB=S より、 b/sinB=2abc/S

  C=π−(A+B) より、

  sinC=sin{π−(A+B)}=sin(A+B)=sinAcosB+cosAsinB

     =S/(2bc)・(c2+a2−b2)/(2ca)+S/(2ca)・(b2+c2−a2)/(2bc)

     =S/(4abc2)・(c2+a2−b2+b2+c2−a2

     =S/(2ab)

  なので、 c/sinC=2abc/S が成り立つ。

   従って、以上から、
               

(コメント) FNさんも仰っているように、途中でヘロンの公式に相当する式が出てくるのが
      面白いですね!

 さらに、FNさんが、(2)→(1)の証明を与えられた。(平成22年9月25日付け)

  、  が成り立つとき、

   

が成り立つことを示す。

   cosB=cos{π−(A+C)}=−cos(A+C)=−cosAcosC+sinAsinC

 なので、 a=bcosC+ccosB=bcosC−ccosAcosC+csinAsinC

 また、 b=ccosA+acosC より、 ccosA=b−acosC なので

   a=bcosC−(b−acosC)cosC+csinAsinC

    =acos2C+csinAsinC

 すなわち、 (1−cos2C)a=csinAsinC より、 asin2C=csinAsinC

 両辺を sinC>0 で割って、 asinC=csinA より、 a/sinA=c/sinC

 同様にして、

   cosA=cos{π−(B+C)}=−cos(B+C)=−cosBcosC+sinBsinC

 なので、 b=ccosA+acosC=−ccosBcosC+csinBsinC+acosC

 また、 a=bcosC+ccosB より、 ccosB=a−bcosC なので

   b=−(a−bcosC)cosC+csinBsinC+acosC

    =bcos2C+csinBsinC

 すなわち、 (1−cos2C)b=csinBsinC より、 bsin2C=csinBsinC

 両辺を sinC>0 で割って、 bsinC=csinB より、 b/sinB=c/sinC

  従って、以上から
             

 が成り立つ。 以上で、(1)〜(6)の同値は確定しました。

 なお、FNさんによれば、「(3)→(1)の証明を、上の証明より簡単にすることはできない
か」とのことです。加比の理ですぐ出来ると思っていたのは私の幻想で、意外に難しいで
すね。FNさんによる方法が最も簡明だと思います。



  以下、工事中