加法定理                                 戻る

 関数 F(x+y) を、 F(x)、 F(y) で表す定理は、加法定理と言われる。確率の加法定理
も高校での学習事項だが、三角関数の加法定理が最も影響力が大きい。

 三角関数の加法定理

 α、β を任意の角として、次の等式が成り立つ。

  (1) sin(α+β)=sinαcosβ+cosαsinβ

  (2) sin(α−β)=sinαcosβ−cosαsinβ

  (3) cos(α+β)=cosαcosβ−sinαsinβ

  (4) cos(α−β)=cosαcosβ+sinαsinβ

  (5) tan(α+β)=(tanα+tanβ)/(1−tanαtanβ)

  (6) tan(α−β)=(tanα−tanβ)/(1+tanαtanβ)


 この定理を証明する方法はいろいろ知られている。

 一般的な場合を証明するには、「一次変換の考え」や「余弦定理」を利用して示されるが、
手っ取り早く鋭角の範囲で納得させる方法としては、「幾何的な方法」や「三角形の面積」を
利用するものが有名だろう。

 このページでは、これらの証明方法をまとめ、さらに、これらとはひと味もふた味も違う斬
新な証明方法について研究しようと思う。

 加法定理をあまり頭を使わず手っ取り早く紹介したいので、私は、いつも面積を用いた証
明(略証?)を採用している。ただ、一般的ではないのが心残りだが、初心者を納得させて
とりあえずは加法定理を使いこなしてもらうのには十分だ。

   左図において、 BH=c・sinα 、 CH=b・sinβ で、
  AH=c・cosα=b・cosβ である。このとき、

    △ABC=(1/2)bc・sin(α+β)

    △ABH+△ACH
   =(1/2)c・sinα・b・cosβ+(1/2)b・sinβ・c・cosα



 △ABC=△ABH+△ACH なので、

    (1/2)bc・sin(α+β)=(1/2)c・sinα・b・cosβ+(1/2)b・sinβ・c・cosα

すなわち、  sin(α+β)=sinα・cosβ+cosα・sinβ  が成り立つ。

 この証明と同程度の略証として、図形を利用する方法も知られている。

証明に利用する図がとても技巧的で、よく昔の教科書に載っていたが私自身あまり好きな方法では
ない...とずっと思ってきたが、最近ようやくその証明の味わいが理解できるようになった!


 左図において、 OA=1 とする。 このとき、

   LH=BK=cosβ・sinα なので、

   AH=AL+LH=sinβ・cosα+cosβ・sinα

  また、 AH=sin(α+β) でもあるので、

   sin(α+β)=sinα・cosβ+cosα・sinβ



 同様にして、 OK=cosβ・cosα 、 HK=BL=sinβ・sinα なので、

  OH=cos(α+β)=OK−HK=cosβ・cosα−sinβ・sinα

 すなわち、  cos(α+β)=cosα・cosβ−sinα・sinβ  が成り立つ。

(コメント) 図形を利用すると、sin(α+β)、cos(α+β)が一気に説明できるという利点
      がある。

 これらの加法定理の覚え方としては、次のようなものが知られている。

    sin(α+β) = sinα・cosβ + cosα・sinβ
     咲いたは、 咲いたコスモス、 コスモス咲いた


    cos(α+β) = cosα・cosβ  −  sinα・sinβ
    コスモスは、 コスモス、コスモス お〜 咲いた、咲いた

 この覚え方を今の若者に示しても、あまり反応が返ってこない。(冷めているのか、恥ず
かしいのか、呆れているのか...どっちかな?)以前は、この覚え方を紹介すると、しばら
くは数学以外の時間でも「コスモス咲いた、・・・。コスモス、コスモス、・・・。」と、辺り構わず
聞こえたものだが...。

 私が高校生の頃、この加法定理を、どのようにして覚えたか、実は、あまり記憶が定か
ではない。上記で述べた「咲いたコスモス、・・・」でないことだけは確かだが...。もしか
して何の違和感もなく受け入れられたのかも...?

 上記の証明では、α 、β が鋭角で、α+β も180度または90度の範囲内ということで、厳
しく追究すれば、とても証明と胸をはって言える代物ではない。

 α、β を任意の角として、一般的に証明する方法としては、「一次変換」を利用する方法が
よく知られている。

 原点中心の角θを表す一次変換は、

          

で表される。この行列は、複素数の世界では、 cosθ+i・sinθ に相当する。

 原点中心に、角 β だけ回転した後、さらに、角 α だけ回転させることは、原点中心に、角
α+β だけ回転させることに等しいので、次の等式が成り立つ。

        R( α + β ) = R( α )・ R( β )

したがって、



上式から、   sin(α+β)=sinα・cosβ+cosα・sinβ

          cos(α+β)=cosα・cosβ−sinα・sinβ

が成り立つことは自明だろう。

(コメント) 上記の証明は多くの教科書で採用されているものだが何となく循環論法では?
      という噂もあり注意が必要である。

 やはり余弦定理を利用する証明が一番信頼される方法だろうか?

 α、β を任意の角とする。点 E( 1 , 0 )を原点中心に角 α だけ回転し、相似比 a の相似
拡大で得られる点を A とし、同様に、点 E( 1 , 0 )を原点中心に角 β だけ回転し、相似
比 b の相似拡大で得られる点を B とする。

  このとき、A( acosα , asinα ) 、B( bcosβ , bsinβ )

 なので、2点AB間の距離の平方は、

    (acosα−bcosβ)2+(asinα−bsinβ)2

   =a2+b2−2ab(cosα・cosβ+sinα・sinβ)

 0 〜 π の範囲で、∠AOBの大きさは、n を整数として

     α−β ± 2nπ (または、 β−α ± 2nπ )

 と表される。

 何れにしても、△OABにおいて、余弦定理により、 AB2=a2+b2−2abcos(α−β)

 したがって、 cos(α−β)=cosα・cosβ+sinα・sinβ  が成り立つ。

 上式の β に、−β を代入すれば、

          cos(α+β)=cosα・cosβ−sinα・sinβ

また、 α に、π/2−α を代入すれば、 

          cos(π/2−α−β)=cos(π/2−α)・cosβ+sin(π/2−α)・sinβ

すなわち、   sin(α+β)=sinα・cosβ+cosα・sinβ

 この式の β に、−β を代入すれば、  sin(α−β)=sinα・cosβ−cosα・sinβ

が得られる。


 また、上図で a=b=1 として、△OABの面積の計算からも加法定理は示される。

  A( cosα , sinα ) 、B( cosβ , sinβ ) より、

 △OAB=(1/2)|cosαsinβ−sinαcosβ|

  ここで、 π/2<α<π 、 0<β<π/2 とすると、

   △OAB=(1/2)(sinαcosβ−cosαsinβ)

 一方、 △OAB=(1/2)sin(α−β) なので、

    sin(α−β)=sinαcosβ−cosαsinβ

 が成り立つ。この式を用いれば、他の加法定理も導かれる。


 最近、この三角関数の加法定理に関して次のような斬新な証明に接する機会があった。

 2階線形微分方程式の解を利用する方法である。

 微分方程式 y”+y=0 の一般解は、

       y=Asinx+Bcosx (A、Bは定数)

で与えられる。(→参考:「線形微分方程式における常識的手段」)

 そこで、 F(x)=sin(x+y) とおくと、F(x)は、微分方程式 y”+y=0 の解なので、

    sin(x+y)=Asin x+Bcos x (A、Bは定数)

と書ける。上式で、x=0 とおくと、 sin y=B で、x=π/2 とおくと、

 sin(π/2+y)=Asin π/2+Bcos π/2  すなわち、 cos y=A

 よって、 sin(x+y)=sin x・cos y+cos x・sin y

同様に、 G(x)=cos(x+y) とおくと、G(x)は、微分方程式 y”+y=0 の解なので、

    cos(x+y)=Csin x+Dcos x (C、Dは定数)

と書ける。上式で、x=0 とおくと、 cos y=D で、x=π/2 とおくと、

 cos(π/2+y)=Csin π/2+Dcos π/2  すなわち、 −sin y=C

 よって、 cos(x+y)=cos x・cos y−sin x・sin y

(コメント) 三角関数の微分の証明に、加法定理が使われるので、循環論法になるような
      ...予感。でも、公式の導き方としては、とてもエレガントに感じる。

(追記) 平成20年5月9日付け

 上記で、微分方程式 y”+y=0 の一般解は、 y=Asinx+Bcosx (A、Bは定数)
で与えられることを用いた。

 通常、この証明は上記の参考ページにあるようになされるが、次のような鮮やかな証明
も知られている。この証明を最初に見いだした方に敬服するばかりである。

 まず、 y=F(x) を、微分方程式 y”+y=0 の解とすると、 F(x)2+F’(x)2 は定
数関数になるという性質に注目しなければならない。
           (この事実は、積分因子を用いた解法に周知していれば、ほとんど自明だろう!

 実際に、 Y=F(x)2+F’(x)2 とおくと、

     Y’=2F(x)F’(x)+2F’(x)F”(x)=2F’(x)(F”(x)+F(x))=0

   よって、 Y=F(x)2+F’(x)2 は定数関数となる。

 この事実を用いると、次のような別証が得られる。

(別証) y=F(x) を、微分方程式 y”+y=0 の解とする。

    いま、実数値関数 G(x)=F(x)−F’(0)sin x −F(0)cosx を定める。

   このとき、 G’(x)=F’(x)−F’(0)cos x +F(0)sinx

          G”(x)=F”(x)+F’(0)sin x +F(0)cosx

   なので、 G”(x)+G(x)=F”(x)+F(x)=0

    よって、 G(x)は、微分方程式 y”+y=0 の解となる。

   このとき、 G(x)2+G’(x)2 は定数関数となる。

    ここで、 G(0)=F(0)−F(0)=0 、 G’(0)=F’(0)−F’(0)=0 なので、

   G(x)2+G’(x)2=0 が成り立つ。

    G(x)、G’(x)は実数値関数なので、 G(x)=0 かつ G’(x)=0

    よって、 F(x)−F’(0)sin x −F(0)cos x =0 より、

       F(x)=F’(0)sin x +F(0)cos x

   が成り立つ。すなわち、 F’(0)=A 、F(0)=B とおくと、

         F(x)=Asin x +Bcos x

   と書ける。(証終)

(コメント) この別証だと、積分計算をしなくても微分方程式が解けたわけで、とっても楽で
      すね!

(追記) 平成22年9月28日付け

 当HPの「正弦定理と余弦定理」のページを整理している中で、正弦定理と第一余弦定理
を用いると、加法定理が示されることに気づかされた。

   左図において、第一余弦定理が成り立つ。

      

      

      


 また、正弦定理
           

         ただし、R は△ABC の外接円の半径

より、 a=2RsinA 、b=2RsinB 、c=2RsinC が成り立つ。

 これらを、  に代入すると、

   2RsinC=2RsinAcosB+2RsinBcosA

 すなわち、 sinC=sinAcosB+cosAsinB が成り立つ。

 ここで、 sinC=sin(π−A−B)=sin(A+B) なので、

     sin(A+B)=sinAcosB+cosAsinB

が成り立つ。これは、正弦の加法定理である。

 このとき、上式について、

 Bに−Bを代入することにより、 sin(A−B)=sinAcosB−cosAsinB

 Aにπ/2−Aを代入すれば、 cos(A−B)=cosAcosB+sinAsinB

  さらに、Bに−Bを代入することにより、 cos(A+B)=cosAcosB−sinAsinB

が得られることは、通常教科書等で述べられることと同様である。

(コメント) この手法の弱点は、角A、B、Cが三角形の内角という制限が付いていることだ
      ろう。ただ、人を説得するには十分だろうが、sin(π−A−B)=sin(A+B)とい
      う公式が若干敷居が高いかも知れない。


(追記) 平成26年4月27日付け

 上記で述べたように、原点中心の角θを表す一次変換

          

は、複素数の世界では、 cosθ+i・sinθ に相当する。しかも、等式

        R( α + β ) = R( α )・ R( β )

から、α=βとして、 R( α )2=R( 2α ) が成り立つ。一般に、

        R( α )=R( nα )

 これは、複素数の世界で、 (cosθ+i・sinθ)=cos(nθ)+i・sin(nθ) を意味し、
ド・モアブルの定理として知られる。


 当HP読者のHN「CEGIPO」さんから、ド・モアブルの定理を用いた三角関数のn倍角の公
式の上手い表現方法についてご教示頂いた。(平成26年4月26日付け)

 上式で、nに−nを代入して、 (cosθ+i・sinθ)-n=cos(−nθ)+i・sin(−nθ)
より、
    cos(nθ)−i・sin(nθ)=(cosθ−i・sinθ) ・・・ (*)

 また、 cos(nθ)+i・sin(nθ)=(cosθ+i・sinθ) ・・・ (**) とする。

 このとき、(*)、(**)を辺々加えて、両辺を2で割ると、

  cos(nθ)={(cosθ+i・sinθ)+(cosθ−i・sinθ)}/2 ・・・(#)

 同様に、(*)、(**)を辺々引いて、両辺を2で割ると、

  i・sin(nθ)={(cosθ+i・sinθ)−(cosθ−i・sinθ)}/2

 すなわち、 sin(nθ)=−i・{(cosθ+i・sinθ)−(cosθ−i・sinθ)}/2 ・・・(##)

 さらに、cosθ≠0の時は、(##)/(#)より、

 tan(nθ)=−i・{(cosθ+i・sinθ)−(cosθ−i・sinθ)}/{(cosθ+i・sinθ)+(cosθ−i・sinθ)}

      =−i・{(1+i・tanθ)n−(1−i・tanθ)n}/{(1+i・tanθ)n+(1−i・tanθ)n} ・・・(###)

となります。(^_^)v


 らすかるさんからのコメントです。(平成26年4月26日付け)

 (*)は、(**)のθに-θを代入しても得られますね。


(追記) 加法定理の証明について、HN「草餅」さんからの投稿です。
                                     (平成27年10月21日付け)

 本番の受験では、「公式を証明せよ」という問題が多く見られるという話をよく聞きます。
(2013年大阪大学前記など)また、1999年東京大学前期の問題では、加法定理を証明させ
る問題が出題されました。

 この問題について、教科書に載っているような加法定理の証明ではなく、別解が考えられ
ないかということで、複素数を用いる方法で考えてみました。以下にその概略を示します。

 点A(cosα,sinα)をβだけ回転させた点をBとすれば、Bの座標は、
(cos(α+β),sin(α+β))となる。…(1)

 以下、複素数平面上で考える。点Aの極形式 cosα+i・sinα により、回転後の点Bの極形
式は、(cosα+i・sinα)(cosβ+i・sinβ) によって表され、展開することで、Bの座標は、

 (cosαcosβ-sinαsinβ,sinαcosβ+cosαsinβ)

と求まる。これは、(1)と相等しいから加法定理が導ける。

 疑問点として、複素数の回転移動について、ある複素数を z とした際に、z を原点中心に
αだけ回転し、複素数wに移すことを、w=z(cosα+i・sinα)と書いていますが、これは、無条
件に使用してよいものなのでしょうか。

 本問では、加法定理を証明する問題ですから、複素数の回転の処理自体に加法定理が絡
んでいるのであれば、この証明は循環論法に陥ってしまいます。

加法定理が絡んでいたとしても、それを回避できる方法があればよいのですが・・・


 DD++さんからのコメントです。(平成27年10月21日付け)

 大学受験では、小学校から高校までの教科書に説明ないし証明があるものはそれに準じ
るはずです。ですから、数学IIIの教科書に複素数の回転を加法定理を用いて説明してあれ
ば(あるいは加法定理を用いて説明したものを用いて説明してあれば)アウトです。

 今、手元に数学IIIの教科書がないので断言はできませんが、たしか複素数の積で偏角が
和になること(加法定理を用いている)で、三角形の合同(というか拡大縮小含めて相似)を
証明してませんでしたっけ?

 無論、複素数の積が回転になることを加法定理を使わずに示す証明を併記すれば大丈夫
でしょうが、却って手間です。

 加法定理が絡むのを回避する方法もなくはないと思いますが、やっぱり手間は増えるだけ
かと……。


(コメント) 手元にある数学Vの教科書(数研出版)では、指導の流れは次のようになってい
      るようです。

(1) 複素数の極形式表示 z=a+b・i から z=r(cosθ+i・sinθ) への導入

(2) 極形式表示の複素数の積と商

   z=cosα+i・sinα 、w=cosβ+i・sinβ に対して、

   zw=(cosα+i・sinα)(cosβ+i・sinβ)

     =cosαcosβ-sinαsinβ+i(sinαcosβ+cosαsinβ)

   ここで、加法定理により、 zw=cos(α+β)+i・sin(α+β)

   このことから、複素数 z に複素数 w を掛けることは、「回転」になることを学ぶ。

(3) ド・モアブルの定理

  (2)で学んだことを活用し、z=cosα+i・sinα のn乗が、偏角θのn倍になることを学ぶ。

(4) 複素数のn乗根を、(3)の逆の形で求める


 このような流れで学んでいるので、複素数の回転を用いて加法定理を示すのは循環論法
になってしまいますね!


 当HPがいつもお世話になっているHN「よおすけ」さんから問題をいただきました。
                                      (平成29年6月30日付け)

 長方形ABCDの紙がある。∠BCDを辺DAに接するように折り、そのときにできた折り目の
長さを1とする。この紙を使って、sin(α+β)、cos(α+β) の展開式を導け。


(コメント) 加法定理の別証明として面白そうだったので考えてみました。下の図と睨めっこ
      すれば明らかでしょう。ただ、α+2β=90°なのが少し気がかりかな?