紀元前3、4世紀頃のギリシア数学においては、調和と均斉が重要なテーマであった。平
面図形では、円や正多角形、空間図形では、球や正多面体が興味を引く対象物であった。
正多面体とは、全ての面が合同な正多角形からなり、各頂点に集まる辺の数が全て等し
い多面体のことをいう。
例えば、正4面体は立派な正多面体であるが、正4面体2つを重ねてできる6面体は正多
面体とはみなされない。
ユークリッドの時代(紀元前3世紀)には、既に5種類の正多面体が知られていたという。
正4面体 正6面体 正8面体

正12面体 正20面体
(正多面体を構成する面の特徴から、辺の長さが同じ場合は、正12面体が最も大きいことが分かる。
―参考文献― 根上生也、中本敦浩 著 基礎数学力トレーニング (日本評論社) )
プラトンは、その著書「ティマイオス」の中で、これらを自然界の4元素(土・水・火・空気)
に関連づけて論じている。
正6面体 ・・・・・土 (最も安定性が強いので)
正20面体・・・・・水
正4面体 ・・・・・火 (最も安定性が弱いので)
正8面体 ・・・・・空気
正12面体に対応するものがないので、プラトンもその処理に困ったらしく、宇宙を象徴す
るものという、分かったような分からないような表現でごまかしている。
以上のことから、正多面体のことを、プラトン図形またはプラトンの立体と呼ぶことがある。
正多面体が5種類しかないことは、プラトンの友人の数学者テアイテトスやピタゴラスによ
り証明されていたらしい。
(追記) ピタゴラス教団は事実上の宗教団体で、数学上の発見を決して外部に漏
らさないという誓いをたてされていた。新しい正多面体(正12面体)の発見を
公表してしまった男の人は、誓いを破ったということで、溺死させられたという。
(参考文献:サイモン・シン著 青木 薫訳 「フェルマーの最終定理」 (新潮社))
その証明はいろいろ知られているが、次のオイラーの多面体定理を利用するものが一番
わかりやすい。
オイラーの多面体定理
1つの多面体の頂点の個数を V、辺(稜または線)の個数を E、面の個数を F
とす
ると、
V−E+F=2
が成り立つ。(覚えるときは、E=V+F−2 と変形したほうがよい。)
(正多面体に限らず、多面体の頂点と辺と面の個数の間には、ある定まった関係がある。
この関係は、18世紀を代表する数学者レオンハルト・オイラーによって発見された。 )
各正多面体の頂点・辺・面の個数を書き上げてみると、次の表のようになる。
| V | E | F | V−E+F | |
| 正4面体 | 4 | 6 | 4 | 2 |
| 正6面体 | 8 | 12 | 6 | 2 |
| 正8面体 | 6 | 12 | 8 | 2 |
| 正12面体 | 20 | 30 | 12 | 2 |
| 正20面体 | 12 | 30 | 20 | 2 |
このオイラーの定理の覚え方として、杉浦光夫さんが講義中ボソッと「この公式は、
『 線 は 帳 面 に引け 』
(辺) = (頂)+(面)−2
と覚えるといいですよ!」と仰ったのが、今でも耳に残っている。
(注)帳面というのは、もう死語かもしれない。今風に言えば、ノートのこと。でも、ノートでは
上手い語呂合わせを作るのは難しい。我々は、日本語に感謝しなければいけない。
(補足) 平成19年8月20日付け
オイラーの多面体定理の応用例を一つあげておこう。
サッカーボールは、正5角形と正6角形をそれぞれ何枚かずつ貼り合わせ
て作られている。正5角形と正6角形の枚数は、それぞれ何枚だろうか?
正5角形、正6角形の枚数をそれぞれ、a 枚、b 枚とする。

上図はサッカーボールの一部分を展開したものであるが、どの頂点でも正5角
形1枚と正6角形2枚が集まっていることが分かる。
よって、 頂点の個数に注目して 5×a=(6×b)/2
(正6角形の2つの頂点が重なって1つの正5角形の頂点を表す)
すなわち、 5a=3b が成り立つ。
サッカーボールを多面体と考え、頂点の個数を V、辺の個数を E、面の個数
を F とすると、
V=(5a+6b)/3 ・・・ 1個の頂点が3回重複して数えられている
E=(5a+6b)/2 ・・・ 1個の辺が2回重複して数えられている
F=a+b ・・・・・・・・・・ 正5角形、正6角形の総数が面の個数になる
である。
オイラーの多面体定理より、 E=V+F−2 なので、
(5a+6b)/2=(5a+6b)/3+(a+b)−2
よって、 15a+18b=10a+12b+6a+6b−12 より、 a=12
5a=3b より、 b=20
したがって、サッカーボールにおいて、
正5角形の枚数は、 12枚 、 正6角形の枚数は、 20枚
となる。(→ 今度、数えてみようっと...!)
(補足) 平成19年8月22日付け
20日付けで上記をアップしたところ、21日付けで、北海道の「ma-.」さんからメ
ールを頂いた。(一部表現を修正させていただきました!)
20日付けで更新のサッカーボールの話題に関するメールです。
サッカーボールは、正20面体のすべての頂点を切り取ることによって作ることがで
きる。
実際に、正20面体は、1つの頂点に5つの正三角形が集まり、1つの頂点を切り取
ることにより1つの正五角形が出来る。正20面体は12個の頂点を持っているので、
正五角形は合計で12個出来ることになる。元の正三角形は、すべての頂点が切り取
られ正六角形が出来ることになる。
以上から、サッカーボールは
・正20面体の12個の頂点から生まれた、12個の正五角形
・正20面体の20個の面(正三角形)から生まれた、20個の正六角形
からなる32面体と言える。
ところで、辺の本数は、 新たに生まれた12個の正五角形の分だけ増えるので、
30+12×5=90(本)
となる。
頂点の個数は、元の12個の頂点がなくなり、その代わりに新たに生まれた12個の
正五角形の分だけ増えるので、
12−12+12×5=60(個)
となる。これらの関係は、
90=60+32−2 ( (辺) = (頂)+(面)−2 )
という等式を満たし、サッカーボールにおいても、オイラーの多面体定理が成り立つ。
(コメント) 私自身、この話題を授業で扱ったことはないが、「ma-.」さんにとっては結構
好きな内容とのことで、授業でも時折話されているそうである。この問題を文章
表現のみで球の中のサッカーボールを想像してみれば、かなり空間把握の訓
練になるのではないかとのこと。更に、空間把握が得意な生徒には正20面体
から始めてサッカーボールを図に描かせてみると意外と自分なりの法則を見つ
けて描けるようになるのではないかとのこと。「ma-.」さんの貴重なご提案に感
謝いたします。
「ma-.」さんの行った方法
多面体の角を切り落として新しい多面体を作る
は、かなり有名で、線形凸不等式における重要な手法となっている。
この話題については、ページを改めて起こしたいと考えている。
(→参考:凸図形の理論と応用)
オイラーの定理の証明は数学の専門書に委ね、我々は先を急ごう。
プラトンの多面体定理
正多面体は、
正4面体、正6面体、正8面体、正12面体、正20面体
の5種類しかない。
正多面体が存在するためには、
「1つの頂点に集まる面の個数は3以上」
かつ、
「頂点のまわりの頂角の合計は360°より小」
であることが必要である。このことから、面となる正多角形が限られてくる。
正n角形(nは3以上)の頂角の大きさは、(n−2)×180°÷n なので、
3×((n−2)×180°÷n)<360° が成り立つ。
これより、n<6 となり、n の値は、3、4、5 となる。
従って、面となる正多角形が正3角形、正4角形、正5角形の場合のみを考えればよい。
ここで、正F面体の1つの面である正n角形の1つの頂点に集まる辺の個数を
k とすると、
k 回の重複を考慮して、V=n×F÷k、 2回の重複を考慮して、E=n×F÷2 が成り立
つことに注意する。
(イ) 面が正5角形のとき
正5角形の頂角は、108°だから、1つの頂点に集まる面の個数は3で、k=3
。
よって、V=5F÷3、E=5F÷2 だから、V−E+F=2 に代入して、F=12
。
(ロ) 面が正4角形のとき
1つの頂点に集まる面の個数は3で、k=3 。
よって、V=4F÷3、E=4F÷2 だから、V−E+F=2 に代入して、F=6
。
(ハ) 面が正3角形のとき
1つの頂点に集まる面の個数は3、4、5で、k=3、4、5 。
(@) k=3 のとき
V=3F÷3、E=3F÷2 だから、V−E+F=2 に代入して、F=4
。
(A) k=4 のとき
V=3F÷4、E=3F÷2 だから、V−E+F=2 に代入して、F=8
。
(B) k=5 のとき
V=3F÷5、E=3F÷2 だから、V−E+F=2 に代入して、F=20
。
以上で、プラトンの多面体定理は証明された。
ところで、正多面体には、正多面体が正多面体を生み出すという、面白い性質がある。
正6面体→正4面体→正8面体
↑ ↓
正12面体 ← 正20面体
正6面体ABCD−EFGHにおいて、A−CFHは正4面体になる。正4面体の各辺の中
点を結んでできる多面体は正8面体となる。
同様に、適切に頂点を選ぶことにより、正12面体から正6面体が作られる。
正8面体からは、黄金比などを活用して、正12面体が作られる。正20面体の各面の中
心を結んでいくと、正12面体になる。
(参考文献:山下純一 著 数学史物語(東京図書)
小林隆章 著 正多面体の不思議(数学探求講座)
横田一郎 著 やさしい位相幾何学の話(現代数学社))
(追記) 平成18年12月19日付け
上記で、
(正多面体を構成する面の特徴から、辺の長さが同じ場合は、正12面体が最も大きいことが分かる。
―参考文献― 根上生也、中本敦浩 著 基礎数学力トレーニング (日本評論社) )
ということを述べた。同様の話題が、朝日新聞夕刊の特集「ニッポン人脈記」の「数学する
ヒトビト」(12月18日付け)でも取り上げられている。
正12面体と正20面体の体積は、どちらがより球の体積に近いか?

正12面体 正20面体
正12面体の頂点の個数は20個で、正20面体の頂点の個数は12個である。頂点の個
数が多い方がより球に近い図形ということで、正12面体の方が、より球の体積に近いこと
になる。字面からだと正20面体の方と答えがちだが、図形の形を知っている人は、多分間
違えることはないだろう。
(追記) 平成19年3月17日付け
上記で、正多面体の体積を話題にしたが、他の正多面体についても、その図形固有の
量を一覧にしておこう。
| 正4面体 | 正6面体 | 正8面体 | 正12面体 | 正20面体 | |
| 頂点の数 | 4 | 8 | 6 | 20 | 12 |
| 辺の数 | 6 | 12 | 12 | 30 | 30 |
| 面の数 | 4 | 6 | 8 | 12 | 20 |
| 面の形状 | 正三角形 | 正方形 | 正三角形 | 正五角形 | 正三角形 |
| 表面積 | |||||
| 体積 |
ただし、正多面体の1辺の長さを、a とする。
この表では、1辺の長さを与えているが、a=1 としてもよい。後は相似比の性質を用いて
上記の公式は容易に作ることが出来る。( → 参考 : 相似比の真実)