パスカルの三角形                      戻る

 日本では、高校1年生もしくは2年生で、次のような三角形に出会う。

         パスカルの三角形

 この三角形は、パスカルの三角形といわれているが、パスカル自身が用いたものは、次
のようなものだったらしい。

                パスカルの用いた三角形

 このパスカルの三角形は、パスカルの友人メレの次のような質問:

(イ) 2人が賭け金を出し合って始めたゲームを途中で中止した場合、賭け金をどう分配
  すれば公平か?
(ロ) 2つのさいころを何回か投げて、少なくとも1回、6のぞろ目が出たら勝ちとしたとき、
  何回投げることにすれば、勝つ見込みができるか?

を解くために、考案されたものである。パスカルは、この問題に対して、パスカルの三角形
の性質を使って帰納的に解を導いている。

 これらの数字の配列をボンヤリ眺めていると、いろいろな特徴・性質があることに気がつ
く。

パスカルの三角形は、(a+b) の展開に利用される。

   (a+b)2=a2+2ab+b22ab+2

   (a+b)3=a3+3a2b+3ab2+b332b+ab23

   ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

  この性質を利用すると、いちいち分配法則を用いることなく、一気に式が展開できる。

 たとえば、(a+b)5 を展開したい場合、パスカルの三角形から、
          1  5  10  10  5  1
 が直ぐ得られるので、

   (a+b)554b+10321023ab45
         = a5+5a4b+10a32+10a23+5ab4+b5
 となる。

 私が高校生の頃、このパスカルの三角形に興味を持って、(a+b)100 が展開できるまで
表を作ろうとしたことがある。最後の段は、項が 101個あり、B4の用紙をたくさん貼り合わ
せて計算を始めたが、途中で計算ミスもあり、挫折したことを覚えている。

 基本的には、パスカルの三角形を用いれば、(a+b) の展開は容易であるが、直ちに
(a+b)100 などを展開したい場合は無力である。その場合は、次のような2項定理が用い
られる。

2項定理(Binomial Theory)      

      

 ここで、は2項係数で、異なるn個のものから、異なるk個のものをとる組合せの数で、

     

   但し、 (n の階乗)とする。

(略証) (a+b) を展開したときの各項は、

         a 、an-1b 、an-22 、・・・ 、 b

   an-k の係数は、n 個の因数 a+b のそれぞれから、a を n−k 個、b を k 個と

  る組合せの数 に等しい。  (略証終)

 上記の略証は、教科書によくあるものだが、次のような証明も可能だろう。

(別証) 集合 S={1,2,・・・,n}と集合 A、B(但し、A∩B=φ、n(A)=a、n(B)=b)に

  ついて、写像 F : S → A∪B の個数を数える。

   S の各要素について、a+b 通りの値の取り方があるので、写像の個数は、(a+b)

  である。

   また、S の要素を、n−k 個と k 個(k=0、1、2、・・・、n)に分ける。その分け方の総

  数は、 通り。その1通りに対して、n−k 個の要素には、Aの要素が対応し、k 個の

  要素には、Bの要素が対応すると考えると、写像の個数は、an-k 通り。

   したがって、
              (証終)


(例) (a+b)6 を、2項定理を用いて展開せよ。

(解) 60=1、61=6、62=15、63=20、64=15、65=6、66=1 なので、

  (a+b)6=a6+6a5b+15a42+20a33+15a24+6ab5+b6  (終)

 この2項定理を用いれば、パスカルの三角形を実際に書き上げなくても、任意の n に対
して、(a+b) が直ちに展開される。

 また、2項定理は数学のいろいろな分野に登場し、鮮やかな解法を見せてくれる。

(応用例題) 21 を400で割った余りが最大となる最小の自然数 n の値を求めよ。

(解) 2項定理より、 21=(20+1)=20+n・20n-1+・・・+n・20+1 なので、

   21 を400で割った余り R(n) は、 R(n)=20n+1 である。

   ここで、 R(n+20)=20(n+20)+1=R(n)+400 より、

      R(n+20)≡R(n) (mod 400)

   すなわち、 R(n) の最大値は、 1≦n≦20 の範囲で調べればよい。

   R(20)=1 で、 1≦n≦19 の範囲で、R(n) は単調に増加するので、

   n=19 のとき、R(n) は最大となる。 (終)


 パスカルの三角形の数は、すべて、2項係数で、その性質から、いろいろなパスカルの
三角形の性質が示される。

2項係数の性質

(1) n-k

   異なる n 個のものから、異なる k 個のものをとる組合せの数 と、異なる n 個
  のものから、異なる k 個以外のものをとる組合せの数 n-k は等しい。

  この性質から、パスカルの三角形は、左右対称となる。

          パスカルの三角形の性質(1)

(2) n-1n-1k-1

   異なる n 個のものの中に特定なもの a が含まれている。異なる n 個のものから、
  異なる k 個のものをとる組合せの数 は、k 個の中に特定な a が含まれていな
  い場合の組合せの数 n-1 と、k 個の中に特定な a が含まれている場合の組合せ
  の数 n-1k-1 の和になる。

  この性質から、パスカルの三角形において、両端以外の任意の数は、直前の段の両
 側の数の和になる。
         パスカルの三角形の性質(2) 

(3) 012+・・・+n=2

   2項定理において、a=b=1 とすればよい。

  この性質から、パスカルの三角形において、各段の数の総和がすぐ分かる。

          1++6+4+1=24=16

  また、この性質から、n 個の要素を含む集合の部分集合の個数が、2 個あることも
 分かる。

  また、2項定理において、a=10、b=1 とすれば、次のような性質も成り立つ。

     121=112 、 1331=113 、 14641=114


  のように考えて、161051=115


  (追記) 平成18年12月23日付け

    高校生の科学技術コンテスト「第4回JSEC(ジャパン・サイエンス&エンジニアリング
   ・チャレンジ)」において、津山工業高等専門学校3年の井上昌樹さんと、山本裕子さん
   が優秀賞を受賞された。(朝日新聞朝刊(平成18年12月23日付け))

    受賞テーマは「k−パスカル三角形の自己相似性の研究」とのこと。パスカルの三角
   形で成り立つ種々の性質を一般化されたパスカルの三角形にも拡張されたようである。

    どのような拡張であるのか少し興味を持ったので、いろいろ調べてみた。

   井上さんが高1のとき学ばれたパスカルの三角形を利用して、

     112 、 113 、 114 、 115

  が計算できる(上記の計算を参照)ことから、1114 なども同様な三角形を利用して求
  めてみようということになり、「井上の三角形」(拡張されたパスカルの三角形の構成方法)
  が見いだされたとのことである。

   「津山高専1年生によるパスカルの三角形の一般化とその考察」というHPを参考にさせ
  ていただきながら、その雰囲気を味合わせていただこうと思う。

   当HPのこのページ「パスカルの三角形」を初めてアップロードしたのは平成14年1月
  18日である。いま再び読み返してみると、説明のあまりの稚拙さに赤面の境地である。

   たとえば、
           

  のように考えて、161051=115 とのことだが、一瞬その真意のくみ取りに時間を要
  した。次のように書き直した方が分かりやすいだろうと、今更ながら思う。

         

 115 を計算するために、(10+1)5にパスカルの三角形を利用したように、1114 を
 計算するために、(102+10+1)5に「井上の三角形」というものを利用するわけである。

   (x2+x+1)2=(x2+x+1)(x2+x+1)
           =x4+x3 + x2
              +x3 + x2 + x
                 + x2 + x +1
           =x4+2x3+3x2+2x+1

   (x2+x+1)3=(x2+x+1)(x2+x+1)2
           =(x2+x+1)(x4+2x3+3x2+2x+1)
           =x6+2x5+3x4+2x3 + x2
              + x5+ 2x4+3x3+2x2 + x
                  + x4 +2x3+3x2+2x+1
           =x6+3x5+6x4+7x3+ 6x2+3x+1

     ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 のように計算してみると、各項の係数がどのように求められるかは明らかだろう。

  たとえば、(x2+x+1)2 の係数 「 1  2  3  2  1 」を、如何にして求めるかに
 ついては、次のように考えるのだという。

   「 1  1  1 」の両端に「 0  0 」を書き加えて、

       0  0  1  1  1  0  0 

 とし、左から順次1つずつずらして、

 

  列毎に、3項の和を求めていくと、

      0  0  1  2  3  2  1  0  0

  すなわち、    1  2  3  2  1

 を得る。これは正に、(x2+x+1)2 の係数になっている。

  同様にして、 (x2+x+1)3 の係数を求めるために、

   (x2+x+1)3=(x2+x+1)・(x2+x+1)2

 と考えて、(x2+x+1)2 の係数 「 1  2  3  2  1 」の両端に

 「 0  0 」を書き加えて、

   0  0  1  2  3  2  1  0  0 

 とし、上と同様に、左から順次1つずつずらして3項の和を求めていくと、

          1  3  6  7  6  3  1

 を得る。これは正に、(x2+x+1)3 の係数になっている。

  同様にして、 (x2+x+1)4 の係数を求めるために、

   (x2+x+1)4=(x2+x+1)・(x2+x+1)3

 と考えて、(x2+x+1)3 の係数 「 1  3  6  7  6  3  1 」の両端に

 「 0  0 」を書き加えて、

   0  0  1  3  6  7  6  3  1  0  0 

 とし、上と同様に、左から順次1つずつずらして3項の和を求めていくと、

   1  4  10  16  19  16  10  4  1

 を得る。これは正に、(x2+x+1)4 の係数になっている。

  この操作を続ければ、一般の場合 (x2+x+1) の係数を求めるためのパスカルの
 三角形のような三角形を得ることが出来る。

  このようにして得られる三角形を「井上の三角形」と言うようだ。

 例 1114 を計算せよ。

  「井上の三角形」より、(x2+x+1)4 の係数は、

   1  4  10  16  19  16  10  4  1

  よって、
       


 から、 1114 =151807041  となる。

 (参考) 井上の三角形 ・・・ 上記で求め方以外に次のように考えると暗算で求められる。

   ある数の直下には、その数字と両端の数の和を書く。空白は0とみなす。

1
1 1 1
1 2 3 2 1
1 3 6 7 6 3 1
1 4 10 16 19 16 10 4 1
1 5 15 30 45 51 45 30 15 5 1
1 6 21 50 90 126 141 126 90 50 21 6 1
1 7 28 77 161 266 357 393 357 266 161 77 28 7 1
1 8 36 112 266 504 784 1016 1107 1016 784 504 266 112 36 8 1
1 9 45 156 414 882 1554 2304 2907 3139 2907 2304 1554 882 414 156 45 9 1
1 10 55 210 615 1452 2850 4740 6765 8350 8953 8350 6765 4740 2850 1452 615 210 55 10 1
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

  もちろん、手っ取り早く、例えば、(x2+x+1)10 の x8 のみの係数を求めるには、多項
 定理を用いた方が計算は速いだろう。多項定理により、(x2+x+1)10 の一般項は、

      

  ただし、 整数 p 、 q 、 r は、 p+q+r=10 、 p≧0 、 q≧0 、 r≧0 を満たす。

  このとき、 2p+q=8 となる ( p 、 q 、 r ) を求めると、

  ( 4 、 0 、 6 )、( 3 、 2 、 5 )、( 2 、 4 、 4 )、( 1 、 6 、 3 )、( 0 、 8 、 2 )

  よって、求める係数は、

  

 である。 (追記終了)


(4) 021222+・・・+n22n

    n 個の異なる赤球と、n 個の異なる白球がある。この異なる 2n 個のものから、異な
   る n 個のものをとる組合せの数 2nn は、赤球の個数で場合分けして、赤球 k 個と
   白球 n−k 個をとる組合せの数の積 n-k2 の和に等しい。

  この性質から、パスカルの三角形において、正方形の対角線上の数の平方の和は、正
 方形の右下の数に等しい。

            パスカルの三角形の性質(4)

   また、正方形の右下の数は、正方形の最下段の左から2番目の数で割り切れる。

  一般に、 2n は、n+1 で割り切れる  が成り立つ。

(5) k・=n・n-1k-1

   今、n 人いる。この中から k 人を選んで、その中で一人班長を決める。その場合の数
  は、 k・ 通りある。このような班員と班長の決め方は、次のように考えてもよい。ま
  ず、班長を一人選んで、残りの n−1 人から班員 k−1 人を選ぶ。その場合の数は、
  n・n-1k-1 通りある。両者は等しい。

  この性質から、パスカルの三角形において、各段の k 番目の数を k−1 倍した数は、
 その段の2番目の数と、直前の段の左側の数との積に等しい。

         パスカルの三角形の性質(5)

フィボナッチ数列との関係

 パスカルの三角形において、次のような傾き2の直線上の数の和を求めることにより、
フィボナッチ数列が出現する。

            パスカルの三角形の性質(6)


 上記では傾き(?)が2の直線を意識しているが、

   1
   1 1
   1 2 1
   1 3 3 1
   1 4 6 4 1
   1 ・・・・・・・・・

 と配列に工夫を加えると、傾き(?)が1の直線となり、見やすくなるかもしれない。


最短経路の問題との関係

 パスカルの三角形において、数はすべて、2項係数なので、最短経路問題とも関連があ
る。左下図のような経路に対して、右下図のように、パスカルの三角形を当てはめれば直
ちに、その場合の数が求められる。
                 

 したがって、左上隅から右下隅に至る最短経路は、全部で、35通りある。

 以上とりとめもなくパスカルの三角形の性質をあげてきたが、これ以外にもたくさんの性
質が隠れている。最近のコンピュータの発達から、フラクタル図形が容易に描けるように
なってきたが、パスカルの三角形で、n で割ったときの余りで色分けすると、きれいなフラ
クタル図形が出現することが知られている。これについては、たくさんのホームページで紹
介されているので、このページでは、割愛することにする。

(参考文献:吉田 武 著 虚数の情緒(東海大学出版会)
       藤崎真佐五 著 順列・組合せと確率(科学新興社)
       渡部隆一 著 確率論(共立出版))


(追記) 平成28年6月14日付け

 パスカルの三角形をボンヤリ眺めていると、さらに、あることに気がつく。




 上記は、(a+b) を展開したときの係数を横に並べたものである。このとき、横方向に並
ぶ数を見ると、奇数、偶数が混じり合っている行がほとんどだが、ある行では、すべての数が
奇数となっている。例えば、

n=0 のとき、 1
n=1 のとき、 1 1
n=3 のとき、 1 3 3 1
n=7 のとき、 1 7 21 35 35 21 7 1
n=15 のとき、
   1 15 105 455 1365 3003 5005 6435 5005 3003 1365 455 105 15 1

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 n=0という特殊な場合を除いて、「1,3,7,15,・・・」という数列には、

  21−1 ,22ー1 ,23−1 ,24−1 ,・・・

という特徴がある。言い換えれば、2進数として考えるとき、

  1 ,11 ,111 ,1111 ,・・・

となっている。したがって、次のような予想が成り立つ。

(予想) 2進数で、11・・・1と表される数nについて、

    0 ,1 ,2 ,・・・ ,n は、すべて奇数である。


 実は、一般に次の定理が成り立つ。

定 理  自然数nを、21+22+・・・+2k (ただし、a1>a2>・・・>ak≧0) と
     2進法表示するとき、 が奇数となるmの個数は、2個である。


例 2進数で、1 即ち、n=1のとき、パスカルの三角形から 1 1 で奇数は、2個

  2進数で、11 即ち、n=2+1=3のとき、パスカルの三角形から 1 3 3 1 で、
 奇数は、22=4個

   ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 この定理によれば、(予想)が正しいことが分かる。

 実際に、2進数で、11・・・1と表される数nについて、「1」の個数がk個ならば、n=2−1

で、 が奇数となるmの個数は、2=n+1個あるので、

    0 ,1 ,2 ,・・・ ,n は、すべて奇数

となる。

(定理の証明) n=21+22+・・・+2k のとき、

 (1+x)=(1+x)21・(1+x)22・・・・・(1+x)2k

      ≡(1+x21)・(1+x22)・・・・・(1+x2k) (mod 2)

 この合同式をF2[x]における恒等式とみなすとき、右辺に現れる項は、左辺の展開で2項
係数が奇数である項と一致する。その総数は、

   (1+1)・(1+1)・・・・・(1+1)=2 (個)

となる。  (証終)



   以下、工事中!