不思議な論理                         戻る

 人を巧妙に騙す数学が統計学ならば、人を巧妙に説得する数学が論理学だろう。
これは、あくまでも私見です。統計学を専門にしている方に他意はありません。アシカラズ!

 先日、大阪府の高校数学教師の件が新聞紙をはじめとするマスコミを賑わせた。「高校
入試の問題を解いてもらったところ、80点満点(受検生平均40点?)のところ、24点しか
とれなかった」とかで、分限免職(民間企業の「解雇」に相当)になった事例である。

 私の周辺でも、このことが随分話題になった。「24点」という数字だけが一人歩きして、

    「高校入試→易しいはずだ!」.....「24点→できないね!」

という図式で、一般大衆を翻弄するには十分であった。

 しかし、考えてみると、実際に、どのような問題を解いたのか、平均点40点の受検生は、
どのような学力レベルの生徒なのか、また、その先生が本当に積極的に問題を解こうとし
たのか、どのような環境のもとで解いたのかなど、分からない点が多い。ましてや、一般大
衆が何の準備もしないで、何点とれるものなのかすら分からないのに、なぜかしら「24点」
という数字だけに反応してしまうところが怖い。

 ここら辺が、統計のマジックで、慎重に判断しなければならないところである。

 次の問題は、論理学では有名な問題である。(ただし、超が付くくらいの難問である。)

問題    前方に分かれ道があり、右が天国に通じ、左が地獄に通じている。分かれ道

 
に、一人の道案内が立っている。この人は正直者か嘘つきのどち
らかであるが外見からは区別できない。正直者は、必ず真実を答
え、嘘つきは必ず嘘(真実の逆)を答える。

  今、ある人が、この分かれ道にさしかかった。この人には道案
 内に一回だけの質問が許されている。道案内は、「はい」 または
 「いいえ」としか答えない。

  この人が正しく天国に通じる道に行くためには、どのような質問
 をしたらよいだろうか?

 以前、テスト後のある時間に、「感動した数学の問題」と題して、何の準備もさせないで、
書いてもらったところ、上記のような問題を書いてきた女生徒がいた。確かに、人を魅了
する何かをもった問題である。

 いま、2つの命題を考える。

    P : 右は、天国に通じる道

    Q : あなたは、正直者

 この問題のポイントは、質問された道案内が、正直者であっても、嘘つきであっても、必
ず命題 P が「真」ならば、「はい」と答え、「偽」ならば、「いいえ」と答えてくれるような質問
を考えることにある。

 その質問のもとになる命題を R とする。次の4つの場合が考えられる。

(1) 命題 P が「真」で、命題 Q が「真」の場合
   この場合は、右が天国に通じる道で、正直者が「はい」と答えるためには、
  質問の命題 R の真偽は、「真」でなければならない。

(2) 命題 P が「真」で、命題 Q が「偽」の場合
   この場合は、右が天国に通じる道で、嘘つきが「はい」と答えるためには、
  質問の命題 R の真偽は、「偽」でなければならない。

(3) 命題 P が「偽」で、命題 Q が「真」の場合
   この場合は、右が地獄に通じる道で、正直者が「いいえ」と答えるためには、
  質問の命題 R の真偽は、「偽」でなければならない。

(4) 命題 P が「偽」で、命題 Q が「偽」の場合
   この場合は、右が地獄に通じる道で、嘘つきが「いいえ」と答えるためには、
  質問の命題 R の真偽は、「真」でなければならない。

 このような真理表を持つものを求めれば、どのような質問をすればいいのかが分かる。

たとえば、次のような命題が考えられる。(真理値については、こちらを参照)

         (P かつ Q) または (Pでない かつ Qでない)

  P   かつ   Q または Pでない かつ Qでない

 以上の論理の記号を、日常の言葉で言い表せば、次のような質問になるだろう。

   『 あなたは正直者で、右が天国に通じる道

      または

     あなたは嘘つきで、右が地獄に通じる道、

    この2つのうちのどちらかは正しいですね? 』

 上の真理表からも分かるように、この問題は、嘘つきが必ず嘘をつくという習性を利用し
ていて、気がつかないままに、2重に嘘をつくように仕向けるところがポイントである。

 記号論理学の知識を使うと、普段なかなか思いつかないような質問が思いつくのである。
ここら辺が、記号論理学の面白いところだろう。私自身、記号論理学を学んだのは、大学
1年の哲学の講義においてであったが、当時は、無味乾燥な記号の羅列で、あまり関心が
わかなかった。もっと真剣に勉強しておけばよかったと、今、後悔しているところである。

 ただ、上のような質問は、お世辞にも美しいとは言えない。実は、次のような考え方もある
らしい。こちらのほうが、より分かりやすい表現になっている。

 道案内に対して、次のような質問をする。

   『 あなたは、「右が天国に通じる道か」と聞かれれば、「はい」と答えますか? 』

 もし、右が天国に通じる道で、道案内が正直者のとき、正直者は、「はい」と答える。

 もし、右が天国に通じる道で、道案内が嘘つきのとき、嘘つきらしい答えは「いいえ」だが、
上の質問で、「いいえ」と言ってしまうと、正直者になってしまう。これは、嘘つきらしくないの
で、嘘つきは、「はい」と答えざるを得ない。

 もし、右が地獄に通じる道で、道案内が正直者のとき、正直者は、「いいえ」と答える。

 もし、右が地獄に通じる道で、道案内が嘘つきのとき、嘘つきらしい答えは、「はい」だが、
上の質問で、「はい」と言ってしまうと、正直者になってしまう。これは、嘘つきらしくないの
で、嘘つきは、「いいえ」と答えざるを得ない。

 したがって、上の質問をして、「はい」ならば右が天国に通じる道、「いいえ」ならば右が地
獄に通じる道だということが分かる。

(参考文献:吉田紀雄 著 入試数学と現代数学のあいだ (聖文社)
        野崎昭弘 著 詭弁論理学 (中公新書)
        野崎昭弘 著 逆説論理学 (中公新書))


(追記) 平成18年10月16日付け

  当HPの掲示板「出会いの泉」に、平成18年10月1日付けで、加俊さんから次のような
 問題提起がなされた。

   答えが乗っていないある問題集で、このような問題がありました。

  『 ある村には、常に嘘をつく嘘つき者、常に正直に答える正直者、そして、時々
   嘘をつき時々正直になるよくわからない者がいる。これらの人々を、見分ける
   方法を述べよ。』


 この問題に対して、当HPがいつもお世話になっている、らすかるさんが解答を寄せられ
た。(平成18年10月1日付け) らすかるさんに感謝いたします。
この時期、いくつかの研修会の講師を務めるなど超多忙で掲示板の方は、ROMに徹していました。
まとめるのが遅くなってしまって申し訳ないです!


(解) それぞれに対して、 「3人のうち、常に正直に答える正直者は1人ですか?」 と

   質問すると、正直者は「はい」、嘘つき者は「いいえ」と答える。

   もし、「はい」と答えた人が2人いれば、そのうちどちらかが「よくわからない者」である。

   2人のうちから1人を選んで、「いいえ」と答えた嘘つき者に

    「この人は常に正直に答える正直者ですか?」と聞く。

    このとき、 「はい」 と答えたら、その人は、「よくわからない者」である。

           「いいえ」 と答えたら、その人が「正直者」である。

   もし「いいえ」と答えた人が2人いれば、そのうちどちらかが「よくわからない者」である。

   2人のうちから1人を選んで、「はい」と答えた正直者に

    「この人は常に嘘をつく嘘つき者ですか?」と聞く。

    このとき、 「はい」 と答えたら、その人は、「嘘つき者」である。

           「いいえ」 と答えたら、その人が「よくわからない者」である。 (終)

(コメント) 素朴な疑問なのですが、村人は3人だけなんですかね?


(追々記) 平成19年2月10日付け

 冒頭の問題を、もう少し考えやすい表現に言い換えると次のようになるらしい。

問題    前方に分かれ道があり、右が天国に通じ、左が地獄に通じている。分かれ道

 
に、2人の道案内が立っている。天国からきた人と地獄からきた人
であるが、外見上区別できない。天国からきた人は常に本当のこと
を言い、地獄からきた人は常に嘘を言う。

 今、ある人が、この分かれ道にさしかかった。この人は、道案内の
どちらか一方に一度しか質問できない。

道案内は、「はい」または「いいえ」としか答えない。

 この人が、正しく天国に通じる道に行くためには、どのような質問
をしたらよいだろうか?

 この場合は、どちらか一方を指さして、

   「こちらは、あなたがきたところですか?

と聞けば、天国へ通じる道かどうかが判断できる。

 質問した道案内が天国からきた人の場合は、示した道が天国へ通じる道かどうかを正し
く答えてくれる。

 質問した道案内が地獄からきた人の場合は、

    示した道が天国へ通じる道ならば、「あなたがきたところ」ではないので本当のことを
   言う人だったら「いいえ」だが、地獄からきた人は嘘を答えるので、「はい」と答えざるを
   得ない。

    示した道が地獄へ通じる道ならば、「あなたがきたところ」であるので本当のことを言
   う人だったら「はい」だが、地獄からきた人は嘘を答えるので、「いいえ」と答えざるを得
   ない。

 したがって、示した道に対して、「はい」なら、その道が「天国へ通じる道」であり、「いいえ」
なら、示した道と別の道が「天国へ通じる道」である。

(追々々記) 平成20年2月28日付け

 2月23日(土)に放送のあったNHK総合の「謎缶」(どうも再放送のよう...)で面白い論
理パズルを紹介していた。趣旨を生かして、若干設定を変えて考えてみよう。

 横一列に並ぶ A、B、C、D の4人が次のような証言をした。ただし、4人の内、一人のみ
が本当のことを言い、他の3人は嘘を言うものとする。また、男性は一人いるものとする。

  A:「私は、女性である。」
  B:「私の隣りに男性がいる。」
  C:「Bは男性である。」
  D:「Aは、嘘を言っている。」

 そこで、問題です。4人の内、男性は誰でしょうか?


 いま、Dさんが本当のことを言っているものとする。すると、A、B、C の証言は嘘なので、

  A:「私は、男性である。」
  B:「私の隣は、女性である。」
  C:「Bは、女性である。」

となるが、AとBの証言が矛盾しているので、Dさんは嘘を言っていることになる。

 すると、Aさんは本当のことを言っていることになり、B、C さんは嘘を言っていることに
なる。

 よって、

  A:「私は、女性である。」
  B:「私の隣は、女性である。」
  C:「Bは、女性である。」
  D:「Aは、本当のことを言っている。」

という証言から、男性は、Dさんであることが分かる。

(コメント) こういう論理パズルは、ちょっと苦手意識が前面に出てしまいますね!

 平成20年2月29日付けで、当HPがいつもお世話になっている、らすかるさんからメー
ルをいただいた。らすかるさんのご指摘で、文言に多少問題があることを気づかされた。
らすかるさんに感謝いたします。

 上記は、既に文言等を修正済みである。

 らすかるさんの手法を参考にさせていただくと、下記の表を作成して、男性を見いだすこ
ともできるようだ。この方が機械的な作業で簡単に答えが見つけられる。

Aの性別 Bの性別 Cの性別 Dの性別 証言A 証言B 証言C 証言D 嘘の人数
男性 男性 男性 男性 ×
男性 男性 男性 女性 ×
男性 男性 女性 男性 ×
男性 男性 女性 女性 ×
男性 女性 男性 男性 × ×
男性 女性 男性 女性 × ×
男性 女性 女性 男性 × ×
男性 女性 女性 女性 × ×
女性 男性 男性 男性 ×
女性 男性 男性 女性 ×
女性 男性 女性 男性 × ×
女性 男性 女性 女性 × ×
女性 女性 男性 男性 × ×
女性 女性 男性 女性 × ×
女性 女性 女性 男性 × × ×
女性 女性 女性 女性 × × ×

  ※ ○は本当、×は嘘の意味

 よって、「3人が嘘」という場合は下段の2通りあるが、「男性が一人だけ」という条件があ
るので、「Dが男性」という結果になる。

(追記) 平成21年5月8日付け

 当HPがいつもお世話になっている麻衣まいさんのブログ「新・かたつむりな日々」の記事
の中に面白い問題:数式も図形もない数学の問題が取り上げられた。

  【問題】  ここに「神様」、「悪魔」、「人間」が一者ずついる。

      「神様」は常に真実を言い、「悪魔」は常に嘘をつく。「人間」は状況により

      真実と嘘とを使い分けて言う。

       この三者を、A 、B 、C とし、それぞれが次のように発言した。

         A : 「私は神様ではない」

         B : 「私は悪魔ではない」

         C : 「私は人間ではない」

      このとき、A 、B 、C は何者になるかを特定せよ。


 この問題に対して、麻衣まいさんの解答は次のようであった。

   まず、「悪魔」は常に嘘をつくので、A や C が「悪魔」の発言ではないことがわかる。

  また、「神様」は常に真実を言うので、A が「神様」の発言ではないこともわかる。

   したがって、正解は、A が「人間」、B が「悪魔」、C が「神様」となる。


 麻衣まいさんのすばらしい解答に感動しました。麻衣まいさんは、この問題が数学の授業
で生徒に配布されたもので「数式も図形も全く出てこない数学の問題ってあるんですね〜!」
と驚かれているが、これは、数学というよりも論理学に分類される問題だと思います。多分、
数学の先生が、息抜きに生徒に考えさせるために用意したものではないでしょうか?

 私は、次のように考えました。

 三者の発言を表にまとめると、

 
 
神様  
悪魔  
人間  

 神様は、常に真実を言うので、「私は神様です」と発言していることになるBまたはCが神
様となる。

 ここで、注目すべき発言は、悪魔の発言だろう。上表の発言の否定を考えると、

 
 
神様    
悪魔    
人間    

 悪魔の発言の否定は必ず真実になるので、「私は悪魔です」と発言していることになるB
が悪魔となる。

 このとき、消去法により、Cが神様で、Aが人間となる。

(追記) 平成21年9月10日付け

 最近次のような論理の問題に遭遇した。

 犯人を含む5人の被疑者が次のような証言をした。犯人は一体誰であろうか?

ただし、5人の内、3人だけが真実を証言しているものとする。

         A : 「犯人はDである」

         B : 「私は無実である」

         C : 「Eは犯人ではない」


         D : 「Aの言うことは嘘である」

         E : 「Bの言うことは真実である」


 Aが真実を証言しているものとすると、Dが犯人で、他は無実となる。

このとき、B、C、Eも真実を証言していることになり、題意より、矛盾する。

 よって、Aの証言は嘘で、Dの証言は真実となる。

このとき、Bの証言が嘘とすると、Eの証言も嘘になり、題意より、矛盾するので、Bの証言

およびEの証言は真実となる。

 以上から、B、D、Eの3人だけが真実の証言をし、他のA、Cは嘘の証言をしている。

したがって、犯人は、Eである。