ある置換積分                              戻る

 不定積分    の計算には、置換積分が用いられる。今まで、このようなタ
イプの不定積分に対しては無意識にというか、何とはなしに、

        

という置換を用いてきた。このような置換で、人前でスラスラっと計算して見せると、十中八
九、人は怪訝な顔をする。もっとも自分自身、なぜ、このように置換すると上手くいくのか深
く考えることもなく過ごしてきた。(→ 参考 : ドローネー曲線

 ドローネー曲線において、Licht さんは、x=sinht という置換を用いて計算された。

 この2つの置換方法について、どのような関係があるのだろうという疑問が、このページ
を立ち上げた大きな理由である。

 私の記憶によれば、上記の置換は高校時代に用いた受験問題集の問題にヒントとして
載っていたように思う。

 ただ、高校時代は部分積分と置換積分を織り交ぜて、次のように不定積分を計算してい
たと思う。

   
    
 よって、
        

 ここで、x=tanθ とおくと、
                    
なので、
        
とおくと、
        

          すなわち、 

よって、
      
ここで、
     
なので、
        
                                   (ただし、C は積分定数)

 上記の不定積分の計算には奇をてらった手法はなく、ごく自然な計算だろうと思う。
(もっとも三角関数の種々の公式を駆使しているが...。)

また、
      

の計算が煩雑に感じられる場合は、次のような裏技が知られている。

   

という関係から、直ちに、

    

が得られる。

 さて、話が横道にそれつつあるが、結論的には冒頭の不定積分は、

       

という、奇をてらった置換を別にしなくとも解きうるということである。ただ、その計算には相
当の腕力(計算力のこと!)が必要だということは、上記の計算から察せられることだろう。

 だとすれば、
          

という置換は、我々の計算労力の軽減に貢献しているわけで、その意味を追求することは、
それなりに意味のあることと思われる。

 関数  は、単調減少で、x 軸を漸近線にもつ曲線である。

ここで、  において、2曲線  、 y = t − x の交点を求

めてみると、 x2−y2=−1 に、y = t − x を代入して、

 x2−(x2−2tx+t2)=−1 より、

 

と、t >0 で一意に定まる。

 ここで、 t = e とおくと、

  

となる。
  

 これは、 に他ならず、 という置換の根拠を与えているように思う。


(コメント) この計算から今まで何となくモヤモヤしていたものが胡散霧消したように感じる。

(追記) 平成18年8月11日付け

 昨日、出張先で栄光学園高校のある方から上記の積分について、驚くべき裏技の計算
法があることを伺った。なんでも、早稲田大学のある方が紹介されたとか...。

 紹介されたままだと高校生の学習範囲を逸脱していそうなので、少し改良を加えて読者
の方に紹介したいと思う。

    の計算で、上記では、   や x=tanθ とおいて求め

たが、その解法にはある程度の煩雑さが同居していた。次のように計算すると、その煩雑
さから一気に解放される。

  とおくと、 x2+1=y2 より、 2x=2yy’ となる。

このとき、    の両辺に1を加えて、    とできる。

よって、
        

なので、

   

(コメント) 上記裏技の素晴らしさは、冒頭の煩雑な計算を経験したもののみが享受できる
      至福となるであろう。

 なお、この積分がたやすく求まれば、

    

の積分は、冒頭のように部分積分を用いてさらに簡単に求められる。

(追々記) 平成18年8月14日付けで、「かず」さんから、この置換積分に関してメールを頂
      いた。多少文言等を修正させていただきました。ご了承ください。

 冒頭の積分において、なぜ、=sinh と置換する発想が思い浮かぶのかについて、

      2−y2=1 (x>0)

なる双曲線の半分のパラメータ表示が、    x=cosht  、 y=sinht

となることは比較的有名な事実で、それゆえ双曲線関数という名前がついています。

    とおくと、 x2−y2=−1 (y>0) なので、この場合に、

      x=sinht

と置換することは、ごく自然なことでしょう。(確かに...!)

 この観点からすれば、 x=(e−e−t)/2 より、  となるので、

u=e とおけば、冒頭の置換

     

もあながち不自然とは言い切れませんね。

 なお、最近載せられた、この手の積分の計算方法ですが、高校生でもちゃんとわかるよ

うにしようとするなら、  より、  なので、

 これより、
        

から、
        

となって、
       

 微分方程式の変数分離のにおいがぷんぷんしますが、この手の計算は置換積分すると

きには頻繁に行うので、高校生でもすんなり受け入れてくれます。

(コメント) 上記の置換積分は、私もかずさんのようにやっています...(^^;) が、

      

 という置換が高校生には難しいかと思うのですが、...。


(追記) 当HPの掲示板「出会いの泉」に、平成25年5月7日付けで、HN「JA1NKA」さんか
     ら、この置換積分に関して書き込みを頂いた。多少文言等を修正させていただきま
     した。ご了承ください。

 I= は 双曲線:x2- y2 = -1 上の点P(x,y)  (x≧0、 y≧1) として、部分積分
から、I=1/2( xy+J) ・・・ (†)。 ここに、J=

 この積分Jは、高校生レベルで、アッと驚くほど簡単に求められます。

  より、dy = xdx/y なので、dx/y= dy/x …(*) です。

(*)に加比の理を適用し、(←これがポイント!) t = x + y とおいて(t≧1です)、

  dx/y= dt/t … (*’) なので、 J =log|t|+C (C:積分定数)から、

    

 加比の理は、比の値をkとおいて、「数I」の範囲です。なお、(†)より、xy/2はH(x,,0) として
△OPHの面積で、さらに、A(0,1) とし、扇形OAPの面積をσ/2とすれば、J=σです。


(コメント) 考え方は、栄光学園高校の方とほぼ同じですね!JA1NKAさんに感謝します。


 JA1NKAさんからの続報です。(平成25年5月8日付け)

 まず、σの意味です。双曲線上の点はP(sinhσ,coshσ)とパラメータσで表せます。

2=x2+1 と cosh2σ- sinh2σ= 1 から、自動的にPは双曲線上の点です。x = sinhσで、

σ= sinh-1x です。よって、 I = 1/2{x√(1+x2) + sinh-1x}+ C … (**)。

 ここで、I’ = ∫√(1-x2)dx だと、曲線が円:x2 + y2 =1 (0≦x、 y≦1)です。原点とy軸から

CW(時計)方向にθをとって、円上の点P’ (sinθ,cosθ)と表せます。A(0,1)で、扇形OAP’

の面積はθ/2です。よって、 I’ = 1/2{x√(1-x2) + sin-1x}+ C’ (C’:積分定数)…(*’*’)。

これはよく知られていますが、(**)とよく見比べて下さい。なお、J = ∫dθ/cosθ としたと

きも、アッと驚くほど簡単に求められます。

 被積分関数の分母・分子にcosθを掛けます。cos2θ = 1 - sin2θ だから、

   J = ∫cosθdθ/(1-sin2θ)。

ここで、t = sinθとおき、部分分数分解すれば容易に求められます。


 当HPがいつもお世話になっているHN「空舟」さんからのコメントです。
                                      (平成25年5月9日付け)

 x=sinh(t) とおいたら、dx/dt = cosh(t) より

I=∫√(1+x2) dx=∫cosh2(t) dt=∫{cosh(2t)-1}/2 dt={sinh(2t)/2-t} /2 + C から、

 I={ sinh(t)cosh(t) - t}/2 + C={ x√(1+x2) - log(x+√(1+x2))}/2 + C

って計算すれば良いと思うのですが、どうしてこの計算が紹介されてないか不思議でした。

I'=∫√(1-x2) dx で、 x=sin(t) とおく計算とほとんど同じなのは、sinh(z) = sin(iz)/i などで知ら

れているように、複素関数的に、I と I' は、x=iz とおけば移り合うからです。

 arcsin(z) = log(iz+√(1-z2))/i の関係はなかなか知られてなさそう..。

  [zが実数なら iz+√(1-z2) の偏角θは、確かに、sinθ=z を満たす]


 当HPがいつもお世話になっているHN「S(H)」さんからのコメントです。
                                      (平成25年5月9日付け)

 参考 → 「Wolframalpha」「Wolframalpha」 (* - を + に*) 「Wolframalpha


 JA1NKAさんからのコメントです。(平成25年5月9日付け)

 「どうしてこの計算が紹介されていないのか不思議」…これは、微妙ですね。「高校生でも
わかる!」かどうかだと思います。cosh、sinh を面倒なのでドイツ式で、ch、sh と記します。

 ch(z) = cos(iz) 、 sh(z) = - sin(iz)

は、我々には周知でも、多くの高校生には ” ? ” です。ただ、空母さんのコメントは読者に、
より深い理解を与えて下さったと思います。

 なお、空母さんの計算で、ch2t = 1/2{ch(2t)+1} ですので、

   I = 1/2{x√(1+x2) + log(x+√(1+x2)) + C

となります。さらに、積分定数を省き、

 J= ∫dt/(1-t2) = 1/2 log|(1+t)/(1-t)|

  = 1/2 log|(1+sinθ) (1+sinθ)/ (1-sinθ) (1+sinθ)|

  = log|(1+sinθ)/cosθ|

  = log |tanθ+secθ| = log |x+√(1+x2)|   [∵ x = tanθ]。

 さらに、I の積分は、私の第一報の(†)で示したように、図形の面積考察からJの積分で考
える方がより本質的です。

 x = shσとおけば、dx = chσ・dσで、(積分定数を省き)

 J= ∫dx/√(1+x2) = ∫chσdσ/chσ =  ∫dσ = σ = sh-1x

 この辺も x = sinθ とおいて、

 J’ =∫dx/√(1-x2) = ∫cosθdθ/cosθ =  ∫dθ = θ= sin-1x

に対応します。


 空舟さんからのコメントです。(平成25年5月9日付け)

 ところで √(x2-1) の場合はどうでしょうと思いました。私は√(x2+1)の積分した結果を利
用して、

   ∫√(x2+a2) dx = {x√(x2+a2) + a2 log(x+√(x2+a2))}/2 + C

を得るので、この結果に a=i を代入すれば、

   ∫√(x2-1) dx = {x√(x2-1) - log(x+√(x2-1))}/2 + C

と計算され、実際この結果は正しいと思います。

 思うに、積分には面積(微小量の総和)を表す側面と原始関数(微分の逆演算)を表す側面
があり、しばしば一方の側面から得られる結果はもう一方の側面は新鮮です。

 上記のような怪しい操作も、微分の逆演算の側面からが分かりやすいと思います。

 JA1NKAさんの「I の積分は、私の第一報の(†)で示したように、図形の面積考察からJの
積分で考える方がより本質的です。」を読んで思ったこと(雑談になります);

 部分積分を使うと、しばしばグラフの形は大きく変わり、例えば、y=1/√(1-x2) のグラフが
描く面積と、y=√(1-x2) のグラフが描く面積の間に、部分積分で導かれるような関係がある
ことは、積分を面積の側面から見た時にはきっと新鮮に思われました。

 一方で、双曲線のグラフ上の x、y≧0 の部分に注目し、y=√(x2+1) 、x=√(y2-1) を考察
すると、グラフが描く図形の面積による考察から、

   ∫0X ydx + ∫1Y xdy = XY

が成り立つことが分かりますが、これは数式的側面から見るとやはり新鮮のように思います。

 これを使っても、冒頭の√(x2-1)の積分の結果を得られそうです。
(追記:X、Yはその双曲線上の点の時としています。)

 思えば最初に、y=x2 のグラフが描く面積が [x3/3] で計算できると知った時は、やっぱり、
びっくりしましたね・・・。


 JA1NKAさんからのコメントです。(平成25年5月10日付け)

 時間もなかなかかけられない面もありますが、空母さんは奥にあるものは何かを掘り下
げ考えさせ、数学を愛する者に刺激を与えて楽しいですね。

 まず、K=∫√(x2 - 1)dx の場合、双曲線:x2− y2 = 1 上での点P(x, y) (x≧1、 y≧0)とな
り、Iでの双曲線とy= xで対称となります。

 dy = xdx/yで、K = ∫ydx = xy - ∫xy’dx = xy - ∫x2dx/y = xy - ∫(y + 1/y)dx

  よって、 K= xy - K - L から、 K = 1/2( xy - L)  …(‡) 。

 ここに、L = ∫dx/y = ∫dx/√(x2 -1)。

 加比の理より、t = x + y とおき、dx/y = dy/x = dt/t だから、 L = ∫dt/t = log|t| + C。

 従って、K = 1/2{ x√(x2-1) - log|x + √(x2-1)} + C  …(**)。

 空母さんの計算の正しいことが確認できます。

 B(1,0)、 H(x,0) とすれば、Kは双曲線と[1,x]でのx軸との囲む面積、xy/2は△OPH、

σ= Lとして、σ/2は扇形OPBの面積(これはJでの計算のときと同じ)、今度は

K= △OPH-σ/2となります。

 (本来求める)面積の積分Iより、部分積分して面積の積分Jを計算してから求める方が簡
単!これは「全体から引いたco-(余)で考える」ことになります。部分積分の内在する性質に
よるのかもしれません。ホモロジーに対しコホモロジー、(物理になりますが)エネルギーに対
しコエネルギー等々。ラグランジュアンL に対し、ルジャンドル変換したp、qで表したハミルト
ニアンHでの正準方程式の方が本質的でsimple、beautiful ですね。