絶対値について 
分かってしまえば何でもないが、分かるまでが大変だというものの代表が「絶対値」であ
ろう。その理由として、絶対値の教え方がいろいろあることに原因があると思われる。
初期の段階では、実数の絶対値とは、その数から負の符号を取り除いたものとして教え
られる。このような考え方は、絶対値の本来の意味に根ざすもので、生徒自身にとっても
理解しやすいと思う。
中学校で初めて、正の数、負の数を学ぶが、たとえば、「+6−(+3)」のような計算に
おいて、殊更に、正の数を「+6」と書くのは、絶対値定着のための布石なのだろう。
| 実数は、 | + | 6 | のように、符号と絶対値の対で表される。 | |
| (符号) | (絶対値) | |||
しかしながら、高校に入ると、このような教え方は通常なされない。
形式的に次のように定義される。
X≧0 のとき、 |X|=X 、X<0 のとき、 |X|=−X
形式的な定義を補足する方法として、|X| は、数直線上で、原点O(0)と点P(X)との距
離を表すという認識もあるが、絶対値本来の意味からすれば、その分かりにくさは、五十
歩百歩であろう。
特に、|5|=5 などの場合、問題はないが、|−5|=−(−5)=5 という計算は、生徒に
とって理解に苦しむ計算のようだ。距離の考えを用いて、|−5|=0−(−5)=5 としても
焼け石に水である。
このように習得するまで大変な絶対値も、その応用を見るとき、非常に魅惑的な働きを
することに気づかされる。絶対値の華麗な働きを見ずに、単に形式的に絶対値というもの
を教えられるので、多分定着率も悪いのだろう。
生徒は、必要と認識するものの吸収はすこぶるよいので、応用例をもっと教科書等に散
りばめれば、少しは定着率の改善に役立つのではないだろうか?
絶対値のついた関数 Y=|X| のグラフは下図のようになる。
絶対値の定義に従って考えれば、容易に
左図のグラフを書くことができる。
この場合、関数 Y=X のグラフとの根本
的な違いに気づく必要がある。
絶対値のついた関数 Y=|X| のグラフは
関数 Y=X のグラフにおいて、X軸の下側
の部分を、X軸に関して折り返して得られる
というところが本質的である。
この考え方を用いれば、次の関数のグラフは、難しい計算をしなくても容易に想像できる
だろう。
例 関数 Y=| |X|−2 | のグラフを書け。
(考え方) 関数 Y=|X|−2 のグラフは、関数 Y=|X| のグラフを
Y軸方向に、−2だけ
平行移動したものである。そのグラフにおいて、X軸の下側の部分を、X軸に関
して折り返せばよい。

例 関数 Y=| | | | X−2 |−1 |−2 |−3 | のグラフを書け。

2つの例からも分かるように、絶対値を用いると、かなり造形的に面白いグラフを書くこと
ができる。
また、次のような正方形も絶対値を用いて表すことができる。

左図を表す方程式は、
| X | + | Y | = a
で与えられる。
正方形の内部および周を表す不等式
は、
| X | + | Y | ≦ a
で与えられる。
絶対値を用いると、次のようなグラフを書くこともできる。なぜかは、読者の練習問題とし
て残しておこう。
例 | | | X |−2 |+ | Y |−2 |=2

例 | | | X |−4 |+ | Y |−4 |=2

上記の2例は、第1象限のグラフが基本である。X軸、Y軸を鏡と思うと上のようなグラフが
得られる。
まるで、万華鏡を見てるような錯覚を覚えるのは私だけだろうか?
上記のような複雑な図形が、絶対値を用いると、たった1本の式で表現できるということは
筆舌に尽くしがたいほど美しい。
等式を不等式に変えれば、さらに表情豊かな図形を我々は手に入れることが出来る。
例 | 2 | X | +2 | Y |−3 |≦1
高校2年で学ぶ「数学U」において、平面上の2点間の距離の公式を学習する。
2点 A( x1 , y1 )、B( x2 , y2 )を結ぶ線分の長さ d は、
![]()
で与えられる。この距離の定義を用いると、
2点 O( 0 , 0 )、A( 1 , 1 )から等距離ある点の集まり
は、2点 A、Bを結ぶ線分の垂直2等分線であることが直ちに求められる。
実際に、条件を満たす点の座標を、( x , y )とすると、
(x−0)2+(y−0)2=(x−1)2+(y−1)2
上式を展開して整理すると、 x+y−1=0
これは、2点 A、Bを結ぶ線分の垂直2等分線である。

ところで、
は、Euclid 距離関数と呼ばれるが、平面上に
定められる距離は、これ以外にもたくさん存在する。
平面において、距離 d は次の諸条件を満たすものである。
(1) 任意の2点 A、B に対して、 d ( A , B )≧0
等号成立は、 A=B のときに限る。
(2) 任意の2点 A、B に対して、 d ( A , B )=d ( B ,
A )
(3) 任意の3点 A、B、C に対して、 d ( A , C )≦D (
A , B )+d ( B , C )
平面上の2点 A( x1 , y1 )、B( x2 , y2 )を結ぶ線分の長さを d1 として、上記の条件を
満たし、かつ、Euclid 距離関数以外のものとしては、
d1 = | x1 − x2 |+| y1 − y2 |
が有名だろう。この距離 d1 について、先の問題
2点 O( 0 , 0 )、A( 1 , 1 )から等距離ある点の集まり
は、どうなるであろうか?このような問いかけも数学的に大いに興味があるところである。
条件を満たす点の座標を、( x , y )とすると、
| x − 0 |+| y − 0 |=| x − 1 |+| y − 1
|
すなわち、 | x |+| y |=| x − 1 |+| y − 1 |
(1) x≧1 、y≧1 のとき、 x+y=x−1+y−1 より、 0=−2 で不適。
よって、 この領域は、求める領域には含まれない。
(2) x≧1 、0≦y<1 のとき、 x+y=x−1−y+1 より、 y=0
よって、 y=0 (x≧1 、0≦y<1)は、求める領域には含まれる。
(3) x≧1 、y<0 のとき、 x−y=x−1−y+1 より、 0=0 で適。
よって、 x≧1 、y<0 は、求める領域には含まれる。
(4) 0≦x<1 、y≧1 のとき、 x+y=−x+1+y−1 より、 x=0 で適。
よって、 x=0 (0≦x<1 、y≧1)は、求める領域には含まれる。
(5) 0≦x<1 、0≦y<1 のとき、 x+y=−x+1−y+1 より、 x+y=1
よって、 x+y=1 (0≦x<1 、0≦y<1)は、求める領域には含まれる。
(6) 0≦x<1 、y<0 のとき、 x−y=−x+1−y+1 より、 x=1 で不適。
よって、 0≦x<1 、y<0 は、求める領域には含まれない。
(7) x<0 、y≧1 のとき、 −x+y=−x+1+y−1 より、 0=0 で適。
よって、 x<0 、y≧1 は、求める領域には含まれる。
(8) x<0 、0≦y<1 のとき、 −x+y=−x+1−y+1 より、 y=1 で不適。
よって、 x<0 、0≦y<1 は、求める領域には含まれない。
(9) x<0 、y<0 のとき、 −x−y=−x+1−y+1 より、 0=2 で不適。
よって、 x<0 、y<0 は、求める領域には含まれない。
以上から、求める領域は下図のようになる。
