平成15年4月3日               申入書 厚生労働大臣 坂口 力  殿                 研修医医師労働条件を改善する会                代     表 森  大 量 労働基準オンブズマン 事 務 局 長 下 川 和 男 過労死弁護団全国連絡会議 代 表 幹 事 松 丸   正 全日本医学生自治会連合 中央執行委員長     小 西 央 彦 1 はじめに   現在,貴省におかれまして,2004年度から実施される研修医制度改革について,議論を重ねておられます。 研修医の過酷な労働実態はかねてから問題とされてきたものの,実際に改善のための動きが取られることはほとんどないまま現在に至りました。しかし,研修医個人の心身の健康確保の側面から,また,医療及び研修医制度が本来的に有する公共的側面から,さらには,研修医が睡眠不足の状態に置かれれば,診療能力の低下から医療事故を招く危険性があるという実際的側面からも,研修医の過酷な労働実態は一刻も早く改善されるべきものであります。 そのため,私たちも,ようやく動き出した今回の改革により研修医制度が抜本的に改善されることに大いに期待しているところでありますが,より良い改革が実現されるため,本日以下のような申し入れをさせていただきます。 2 労働基準法等の労働諸法規の遵守  (1) 総論 平成14年9月4日,貴省内に設置された医道審議会検討会は,研修医が臨床研修に専念できるようアルバイトすることを禁止する一方,国による社会保険,研修手当等の適切な処遇確保を盛り込んだ基本方針をまとめられました。 同基本方針自体は,大いに尊重に値するものでありますが,問題は,同基本方針を踏まえた上,具体的な研修条件をいかなるものとすべきかであります。 私たちは,研修医の過酷な労働実態を改善するためには,やはり,研修医が「労働者」であることを踏まえ,労働基準法等の労働諸法規を遵守した明確な研修条件(労働条件)を定めることが必要不可欠であると考えます。  (2) 貴省処遇案について @ この点,貴省が草案作成された「研修医の処遇について(案)」(以下,「貴省処遇案」と言います。)は,大変評価出来るものであり,「研修医の処遇に関する基本的考え方」として,「労働基準法等労働関係法令に規定される労働条件に相当する処遇が確保されることが必要である」とされている点は,まさしくその通りであると言えます。 また,研修契約の期間,研修の場所及び業務,研修手当,研修時間,休日及び休暇等の研修条件を明示すること,当該臨床研修病院における勤務医の初任給との均衡に考慮し,少なくとも最低賃金以上の研修手当を支払うこと,研修時間,休日,時間外・休日研修,割増研修手当,休暇及び当直につき,労働基準法に則った条件を設定すること,定期的に健康診断を実施すること,研修医を社会保険に加入させること等とされていることについては,上記基本的考え方に即したものであり,研修手当の具体的な金額等の問題は別として,その基本的な方向性に異論はございません。    A しかし,一方で,貴省処遇案には,次の点に問題があります。  @ 労働者性    貴省処遇案は,一般的に,労働者性が認められるか否かは個別具体的な事情をもとに判断されるとされています。しかし,臨床研修病院が公立か私立かに関わりなく,研修医全般につき,研修医が指導医の指揮・命令等に対して諾否の自由を有しないこと,指導医から研修医に対する指揮命令があること,研修には時間的・場所的な拘束があることは,研修医を労働者と認定した平成14年2月25日大阪地方裁判所堺支部判決を持ち出すまでもなく明らかなことであり,端的に研修医全般に労働者性を認めるべきです。それににより,今回の改革の趣旨がより一層明瞭になると考えます。 A 研修時間 貴省処遇案においては,研修時間は,労働基準法所定の1日8時間,1週40時間を超えないとする一方で,臨床研修の持つ教育的側面の観点から,「出席の強制がなく,自由参加のものであれば,時間外の研修にはならない。」ともされております。 確かに,臨床研修には労働的側面だけではなく教育的側面もあることは否定できません。ただ,形式上は「出席の強制がなく,自由参加のもの」の中に,事実上は強制参加というものが多々含まれているのが現状であり,また,実際問題として,出席強制の有無の判断は非常に困難なものといえます。そして,上記のような研修時間に関する例外を認めることにより,「自由参加であるから時間外の研修には該当しない」という,教育的側面を強調した臨床研修病院からの抗弁を可能にさせ,実質的には研修時間制限の潜脱につながるおそれが非常に強くなり,さらには,今回の改革を骨抜きにするおそれすらあります。 そこで,一般的,包括的に,「出席の強制がなく,自由参加のものであれば,時間外の研修にならない。」との例外を認めるべきではなく,かかる例外に何らかの歯止めを設ける必要があると考えます。世界的には,研修医の労働時間の制限は,特別立法で定めるという傾向にあります。最近ではスイスで週50時間という制限が法律で決まったそうです。かかる特別法による一律の規制という手法も,今回の改革の参考になるのではないでしょうか。     B 労務管理  研修医に労働者性を認め,あるいは労働基準法等の労働諸法規が遵守されるよう研修条件を設定しても,研修医の労務管理が十分でなければ,絵に描いた餅になってしまいます。  そこで,タイムカードやICカードを用いて労働時間を管理するなど,研修医の労務管理態勢を十分に整えることが必要であります。 3 現状調査の必要性 研修医制度改革を検討していく上で,現在の研修医の労働実態を調査することが何よりもまず必要であります。貴省におかれまして,研修医の労働実態を広く,かつ具体的に調査されることを切望いたします。 4 最後に   私たちは,本申入内容が今回の研修医制度改革法案に具体的に盛り込まれることを求めます。また,それとともに,貴省におかれまして,現状把握調査の中で,研修医の労働者性を無視したような労働実態を把握した場合には,速やかに当該臨床研修病院に対して勧告をする等,法案の成立を待つことなく,随時,問題のある労働実態を改善し,研修医の過労死という悲惨な事件が二度と起こらないよう強く願う次第であります。                                   以上 (参考−貴省処遇案) 研修医の処遇について(案) 1 研修医の処遇に関する基本的考え方  (1) 労働者性について    ○ 労働基準法第9条に「この法律で『労働者』とは、職業の種類を問わず、事業又は事務所(以下『事業』という。)に使用される者で、賃金を支払われる者をいう。」 ○ 労働基準法第9条の労働者であるかどうかは、 (1) 具体的な仕事の依頼、業務に従事すべき旨の指示等に関する諾否の自由の有無 (2) 業務の内容及び遂行方法に対する指揮命令の有無 (3) 時間的・場所的な拘束性の有無 (4) 報酬の労務対価性 等を総合的に勘案し、個別具体的に判断されることになる。  (2) 研修医の処遇に関する基本的考え方 ○ 研修医については、教育的側面も有するが、一般的には、労働者性が認められると考えられる。 ○ 研修医が臨床研修に専念し、研修内容を的確に身につけることができるよう、研修医に労働者性が認められるか否かにかかわらず、労働基準法等労働関係法令に規定される労働条件に相当する処遇が確保されることが必要である。 2 研修医の処遇に関する基準   研修医に労働者性が認められるか否かにかかわらず、研修医が臨床研修に専念できるよう、労働基準法等労働関係法令に規定される労働条件に相当する以下の処遇を確保すること。  (1) 研修条件の明示(労基法15条関連)    臨床研修病院は、研修契約の締結に際して、研修医に対して、 ・研修契約の期間 ・研修の場所及び業務 ・研修時間、休日及び休暇 ・時間外・休日研修及び当直 ・社会保険の加入の有無 ・宿舎の有無 ・医師賠償責任保険の加入の有無 ・健康診断等の健康管理体制 その他の研修条件を明示すること。  (2) 研修手当     臨床研修病院は、当該病院における勤務医の初任給との均衡に考慮した研修手当を支払うよう努めること。その際、臨床研修病院は、少なくとも最低賃金額以上の研修手当を支払うこと。  (3) 研修時間、休日、時間外・休日研修、割増研修手当、休暇及び当直(労基法32、35、36、37、39、41条関連) ・ 研修時間は、原則として、1週40時間、1日8時間を超えないこと。なお、指導医の行う手術の見学や文献の勉強等の教育を時間外に実施することについては、出席の強制がなく、自由参加のものであれば、時間外の研修にはならない。 ・ 臨床研修病院は、毎週少なくとも1日の休日又は4週間を通じ4日以上の休日を与えること。 ・ 臨床研修病院は、時間外及び深夜(午後10時〜午前5時)の研修には2割5分以上割増研修手当を、また、休日研修には3割5分以上の割増研修手当を支払うこと。 ・ 臨床研修病院は、研修開始の日から6か月間研修し8割以上出勤した研修医に対して10日以上、その日からさらに1年間研修し8割以上出勤した研修医に対して11日以上の有給休暇を与えること。 ・ 当直の業務について、救急医療等昼間と同態様のものである場合には、臨床研修病院は、当該当直を通常の研修時間として扱い、割増研修手当を支払うこと。  (4) 産前産後の休業(労基法65条関連) ・ 臨床研修病院は、6週間(多胎妊娠の場合にあっては、14週間)以内に出産する予定の女性が休業を請求した場合においては、その者を研修させてはならない。 ・ 臨床研修病院は、産後8週間を経過しない女性を研修させてはならない。ただし、産後6週間を経過した女性が請求した場合において、その者について医師が支障がないと認めた研修を行うことは、差し支えない。 ・ 臨床研修病院は、妊娠中の女性が請求した場合においては、他の軽易な研修に転換させなければならない。  (5) 健康診断(労働安全衛生法関連) ・ 臨床研修病院は、研修医を受け入れたときは、当該研修医に対し健康診断を行うこと。また、研修2年目にも健康診断を行うこと。  (6) 社会保険(健康保険法、厚生年金保健法、労働者災害補償保険法、雇用保険法等関連) 臨床研修病院は、原則として、研修医を社会保険(健康保険、厚生年金保険、労災保険、雇用保険等)に加入させること。