ジャック・ダニエル


ケント・ブレイスウェイトの「ワンダーランドで人が死ぬ」という異色のハードボイルド小説がある。主人公ジェシー・アセンシオはメキシコ系アメリカ人で、過去にFBI捜査官、下院議員という経歴の持ち主で、現在は詩人にして私立探偵という人物だ。本人はメキシコ系ということもあってメキシコ産のビール、コロナあたりが好みのなのだが、テネシー・ウィスキー、ジャック・ダニエルにはまた格別な想いもあるようだ。

「飲み物は何を?」
「何か強いやつを」
「では、ジャックでいいかな」
「テネシーから西洋文明に贈られた逸品だね」
スコットはウィスキーグラスにジャック・ダニエルを気前よく注ぐと、三つのグラスを手にしてキャビネットの前から椅子へと移動した。

「テネシーから西洋文明に贈られた逸品」とは名言ではありませんか。ちなみにジャック・ダニエルがバーボン・ウイスキーと決定的に違うところは、蒸溜したてのウイスキーを独自の方法で造られた木炭の層の中をゆっくりとくぐらせる(これをチャコール・メローイングというそうですが)製法にあるとか。活性炭で濾過すると言えばわかり易いでしょうか。

ところで、この「ワンダーランドで人が死ぬ」では、もう一カ所、ジェシーの探偵事務所について説明するくだりでジャック・ダニエルが登場してくる。

ヘザーの提案でジャック・ダニエルのボトルを机の一番下の引き出しにしまってある。サム・スペードやフィリップ・マーロウ、彼らの後輩たちに捧げる敬愛のしるしに、ほんのときたまたしなむ酒なのだ。

そう言えば、わたしの会社の机にも残業用にジャック・ダニエルのハーフボトルが隠してあるのだが、これからはフィリップ・マーロウに想いをはせつつ飲まなきゃね。