スリンキーなんてカクテルは聞いたことがないと仰せの大兄がほとんどだと思う。なにしろ、スティーヴ・ハミルトンの「狩りの風よ吹け」に登場する元メジャー・リーガー、ランディ・ウィルキンズの創作カクテルなのだから、ご存じなくて当然。スリンキーとはランディの決め球のことで、スライダーの強烈なやつだと思えばいいだろう。
「いや、おれが発明した酒の話しだ」ランディは言った。「スリンキー。もう投げられないんだから、いまは飲むしかない」
「きいてもだぶん後悔するだろうが、それはなんだ」
「簡単だよ。ウォッカをルートビアで割るのさ。試してみるかい」
「やめておく」
(中略)
「この酒の効用を知ってるかい」
「ネズミを殺すのか」
「カウンターでとびきりの美女を見つけたら、近づいていって女の横に立ち、スリンキーを注文する。成功まちがいなしだ」
わたしはだまっていた。
「バーテンダーはそれがなんだか知らないから、こっちが作り方を教えてやらなきゃならない。そこにある最高級のウォッカを使うといい。できればチャデロイ。こいつはほかのウォッカとちがって、活性炭で濾過してないんだ。女は横で耳を傾けてる。ウォッカとルートビア? どんな男がウォッカとルートビアを飲むのかしら。女は振り返ってこちらを見る。おれは微笑みを返し、無言のうちに語りかける。自分は垢抜けた成功者だ。だから店で最上のウォッカを飲む。その一方で、いまだ少年の心を忘れていない。だからルートビアを飲む、とな。女がカクテルの名前の由来を尋ねると、おれは自分がかつてメジャーの投手で、スリンキーは当時の決め球だったと教える。百戦百勝さ」
と、いうわけだが、ここで問題になるのがルートビアなるもの。ビアとは名ばかりでアルコールの入ってない清涼飲料水で、薬草類の根(ルート)のエッセンスを調合したものという意味と、かの禁酒法時代にそれに替わるアルコールを含まないビールとして売り出された歴史的な背景に由来するようだ。
「狩りの風よ吹け」の主人公アレックス・マクナイトによれば、なんともおぞましい味だそうだが、野球の心得が少しある方は、ランディの言うとおりに百戦百勝となるか、試されてはいかがだろうか。
ちなみに、バーボンをビールで割ったものは「ボイラー・メーカー」といってれっきとしたカクテルだ。題名は忘れてしまったが、映画の中でジョン・ウェインが飲んでいたぐらいだから由緒正しい。