マッカラン


リンカーン・ライムと言えば、ジェフリー・ディーヴァーが生み出したヒーローで、脊髄損傷の事故のため、四肢の自由がきかないという身ながら、類い希な鑑識能力と博識で事件を解決してみせる。映画「ボーン・コレクター」ではデンゼル・ワシントンが演じ、ミステリファン以外にも有名だと思われる。そのリンカーン・ライムはスコッチが大好きという設定だ。もちろん、四肢が不自由なのでストローつきの特性のコップで飲むことになる。しかし、このストローつきというのは何だか、酔いが回るのが早そうですね。

そして、リンカーン・ライムシリーズ三作目の「エンプティー・チェア」ではマッカランを飲んでいる。

ピクニックを楽しむのにふさわしい日でも場所でもなかったが、チキンサラダとスイカを食べながら死者を思い出すのも悪くない。
もちろん、スコッチもだ。サックスはあちこちの紙袋をかき回して、ようやく十八年もののマッカランを探し当てた。コルクの栓を引き抜く。ぽんという軽い音がした。
「いいね、私の一番好きな音だ」リンカーン・ライムが言った。

その通り、コルクを開ける音や新しいボトルからグラスに注ぐときのトクトクといった音は酒飲みにはたまりませんね。

ところで、このマッカラン、「シングルモルトのロールスロイス」なんて言い方をされているらしい。日本でも結構出回っているようですが、もっぱら十二年ものが主流のようだから、ライムの飲む十八年ものはさぞかしでしょう。

一方、この「エンプティー・チェア」では密造酒もでてくるのだが、こんな会話が交わされている。

「タナーズコナーで起きる犯罪の典型例をさっそくご覧いただけましたね。電化製品の窃盗と酒の密造」
「あれは密造酒?」
「そう、本物の。すべて三十日物ですよ」

三十日物とは恐れ入りました。十八年物とは大違いだ。


ダン・シモンズの「ダーウィンの剃刀」にもマッカランは登場してくる。この冒険小説では元狙撃兵同士の一騎討ちがクライマックスだが、主人公ダーウィン・マイナーと女性捜査官シド・オルスンの関係も興味深い。

「あそこにあるのはマッカランのボトル?」
「そのとおり。ピュア・シングルモルト」
「ほとんど減ってないみたいね」
「一人でやるのは好きじゃない」
「わたし、ウィスキーが大好きなの」
ダーウィンはカウンターへ行くと、食器棚からクリスタルのウィスキー・グラスを二個取り出して酒を注いだ
「氷は?」
「上質のシングルモルトに? 一歩でも氷に近付いたら、引きずり倒すわよ」

ふむ、してみるとこのシドはこのシングルモルトをストレートで飲むとわけだ。もっぱらオン・ザ・ロックスで飲んでいる小生など、引きずり倒されるぐらいではすまないかもしれないね。

ところでこのシド・オルスン捜査官、本書では女優のストッカード・チャニングに似ていることになっている。この女優さんをまったく知らなかったのだが、便利な世の中になったものでインターネットで調べてすぐに判りました。アカデミー賞にノミネートされたこともあるようで、名の知れた女優さんのようだ。そんなに若くはないし、いわゆる美人でもないけれど、なかなか魅力的でマッカランが似合いそうだ。(2002.10.14追補)