ダイヤモンド社から出ている『天才数学者、株にハマる』を読みました。数学者で、コラムニストでもあるジョン・アレン・パウロスが自らの失敗体験をふまえて株について書いた本という触れ込みなのだが、無論、株で絶対に儲かる方法を天才数学者が教えてくれるわけではない(ホントはちょっと期待して読んだのだけれど)。もっとも原題は”A Mathematician Plays The Stock Market”だから、自らが天才と名乗っているのではない。一般向けに書かれているので、さすがに数式は出てこないものの、寝転がって読んではその理屈を理解することは難しい。本書を株の参考書として読むと、結論もいま一つすっきりしないし物足りないものの、知的好奇心を刺激してくれるし、ジョーク集としてもなかなか秀逸だ。この面白い話を紹介しない手はないので、ちょっと引用してみよう。
私自身もそうだが、人はよく、テクニカル分析やそれに用いられるチャートを小馬鹿にしていながら次の瞬間には(おそらく無意識的に)どれだけじぶんがそういう考え方にとらわれているかを露呈してしまうことがある。彼らは、妻が自分は鶏だと何年にもわたって思い込んでいると、医者に相談にきた男に関するジョークを思い出させる。もっと早く相談にくればよかったのにいわれて男は言うのだ。「でも卵には重宝していましたので」。
新しい展開を予測するのは不可能だという点に関連して、私がかなり気に入っている話がある。速読の授業を修了した大学生の話だ。彼は母に宛てた手紙でそのことに触れた。母は長い、お喋りな返事を送ってよこしたのだが、その真ん中辺にはこんな事が書いてあった。「速読の授業を取ったのだから、そろそろこの手紙を読み終えているころでしょうね」。
ねっ、どうです。テクニカル分析や予測可能性について語っているのだが、なかなか皮肉も効いた面白い語りっぷりでしょ。それに付き合うだけでも楽しいのだが、とても意外な、そしてちょっと知的な話題も含まれている。ここではベンフォードの法則について説明しよう。
ベンフォードの法則によれば、さまざまな状況のおいて数はーー川の流域面積から化学物質の物理的特性、小都市の人口、新聞や雑誌に載る数字、そして放射性原子の半減期にいたるまでーー、最上位の桁の数字が1であることが不釣合いに多い、具体的には「1」で始まる数値が30%、「2」で始まる数値が18%、「3」で始まる数値が12.5%といったように、より大きな数値ほど最初に来ることはより稀である。こうした数のうち、9で始まるものは全体の5%未満しかない。この事実は、それら以外の状況の多くでは各桁の数字がどれになるかの可能性がいずれも等しいことと好対照だ。(中略)
その後、マーク・ニグリニという数学好きの会計士が、所得税還付やその他財務書類に関する詐欺を摘発するのにベンフォードの法則が使えると主張して、大きな議論を読んだ。
物理学者のベンフォードがこうしたことに気付いたのは1930年代なのだが、それがちゃんと理由付けされたのはごく最近、1996年のことらしい。詐欺の摘発云々の理屈はおわかりですよね。集めた財務諸表などの数字もベンフォードの法則に従うはずですが、仮に粉飾などの手が加わっていると数字の分布が異なってくるので、それを一つの参考にしようというものです。
でも、漠然と考えると1から9までの数字は均等に出てきそうですが、ベンフォードの法則なんて本当に成り立つのか? というわけで連休の暇にまかせて試してみました。対象は天下のトヨタ自動車の決算書。インターネットで公開されている最新版(平成16年3月期第2四半期決算要旨)を調べるとこんな具合です。
| 数字 | 出現頻度 | 出現比率 |
| 1 | 109 | 27.0% |
| 2 | 70 | 17.4% |
| 3 | 53 | 13.2% |
| 4 | 57 | 14.1% |
| 5 | 41 | 10.2% |
| 6 | 27 | 6.7% |
| 7 | 20 | 5.0% |
| 8 | 15 | 3.7% |
| 9 | 11 | 2.7% |
| 合計 | 403 | 100% |
どうです、たかだか400程度のサンプルですが面白いほどピッタリとはまります。3と4の出現頻度が逆になっていますが、この程度の誤差はあるでしょう。これは私の会社の経理の人間にも耳打ちをしておく必要がありそうだ。
本書を読んで感心したことがもう一つあるのですが、長くなったのでそれは次回ということに。