養老孟司さんの「バカの壁」という新書がバカ受けらしい。いろいろな書評欄でも取り上げられ、実際に売れている。かくいう私も読みたいミステリにちょっとした空白ができたので、手にとってみました。
確かに面白い。目から鱗といったような目新しいことが書いてあるわけではないが、随所になるほどと思う一節がある。例えば・・・。
例えば、ここにいかにも「科学的に」正しそうな理論があったとしても、それに合致するデータをいっぱい集めてくるだけでは意味が無い、ということです。「全ての白鳥は白い」ということを証明するために、たくさんの白鳥を発見しても意味は無い。「黒い白鳥は存在しないのか」という厳しい反証に晒されて、生き残るものこそが科学的理論だ、ということです。つまり、真に科学的である、というのは「理屈として説明出来るから」それが絶対的な真実であると考えることではなく、そこに反証されうる曖昧さが残っていることを認める姿勢です。
こんな具合で、「科学的」ということについて含蓄のある言葉が出てくるが、本書で養老氏がもっとも言いたかったことは、一元論に対する戒めではないだろうか。本書のタイトルにもなっているバカの壁とは、壁の内側だけが世界で向こう側が見えない、向こう側の存在すら知ろうとしない一元論の壁でもある。
随所に面白い指摘はあるが、いかんせんご本人の話を編集部が文章化したというせいもあって、少し話があちらこちらに蛇行しており、全体の構成に疑問も残る。だから、こんなに売れるほどの内容かと言うと、ちょっと首を傾げたくもなる。これだけ売れたのはほとんどタイトルの妙ですね。「バカの壁」という判りやすそうで、何をいっているかは不明なタイトルがうまかった。「『話せばわかる』なって大ウソ」いうコピーも、日頃そういう思いをしているビジネスマンの心をつかんだといえよう。新潮社のヒットです。
