今年の4月1日の朝刊を見ながら、いつも間にか変わってしまった広告があることに気がつきました。かれこれ二十年前から、成人の日と4月1日には作家の山口瞳さんが、新成人と新社会人に対して、酒を飲む心得も含めて、短いエッセイを書いていた(実はサントリーの広告なのだが)。山口さんが亡くなって以来、その役は脚本家の倉本聰氏に移っていたのだが、今年の4月1日は無署名のもので、スロー・ドリンクの勧めというものでした。
だんだん味気なくなるなぁ。山口さんのエッセイがなつかしい。その後の倉本聰氏のものはシナリオ風に書くなど、いろいろ趣向をこらしてはいたものの、正直な感想を言えば、直接著者の肉声が聞こえてこないといった感じて、心待ちにするということが無くなっていたのだが、それすらも無くなっていたのですね。山口さんと倉本氏については、かたや”さん”で、かたや”氏”というのも、お二人に個人的面識はなくても、書かれたものから何となく抱いている二人へのわたしの距離感の違いでもありますがね。
そのシリーズの中で以前に山口さんの書いたものの中でも、次の言葉がとても印象に残っている。正確には誰かの言葉の引用だが、こんな事が書いてありました。
品行は少しぐらい悪くてもいい。しかし、品性は正しくなければならない。
喩えて言えば、高級官僚が向島の芸者の前でハダカ踊りをするのは品行が悪いだけだが、関連業者に自分のマンションの購入資金をせびるのは品性下劣、といったことでしょうか。以来、品性と品行の違いには気をつけながら酒を飲んできたつもりだが、単に少しぐらい行いが悪くてもいいのだ、品性がよけりゃあ、と酒飲みの自己弁護につかってきただけかもしれない。
ほかにも、このシリーズでは、新成人や新社会人でなくても、なるほどと思うことが多く書いてあったのだが、逐一覚えていないのが残念だ。誰か文庫本かなにかで出してくれないかなぁ。そんなことを考えていたら、「小説新潮」4月号の特集は「山口瞳再入門」。先に述べたサントリーの広告の採録が中心の企画ということで、さっそく読んでみました。ただし、正確には4月1日の「新入社員諸君!」から抜粋した作品が紹介されていた。先にあげて品性と品行の話は掲載されていなかった。ひょっとしてこれは成人の日のものだったかもしれない。
ところで経済新聞などでは、4月1日の入社式における各社長の訓話が一斉に載るのだが、どれもこれも似たりよったりで感心するものがない。いっそのこと、山口瞳さんのエッセイを引用して、短くしめるなんて芸のある社長はいないものかしらん。
なお、「小説新潮」によれば山口さんの後を引き継いだのは倉本氏だけではなく、伊集院静氏の時代もあったようだ。これは訂正しておきます。
