ジョン・J・ナンスは航空物のサスペンスを得意とする人で、前作「最後の人質」は大変ユニークな着想でハイジャックを取り上げたものだった。この新作「ブラックアウト」は、近頃はやりの言い方をまねれば、ジェット・コースター風の展開でエンターテイメントにこれ努めている。
FBI捜査官キャット・ブロンスキーは国際会議に出席するために香港にきていたが、ワシントン・ポストの記者ロバート・マッケイブから航空機テロに関する重要な情報があると相談を持ちかけられる。アメリカに帰ってから詳しい情報を交換することを約して、マッケイブだけが機上の人となる。ところが、マッケイブが乗ったジャンボ機は香港を離陸した直後に、突然強力な閃光に包まれ、機長は死亡、副操縦士ダン・ウェイドも失明してしまう。視力を失いながらも懸命に飛行機を操るダン・ウェイドだったが、飛行機はベトナムのジャングルに不時着する。その情報を知ったブロンスキーもさっそくベトナムへと飛ぶのだが、そのころ謎の一団も不時着現場へと急いでいた・・・。
粗筋はこんな感じで、前半は失明した副操縦士が乗客の協力を得ていかに無事に乗り切るかがクライマックスになっている。そして後半はブロンスキー、マッケイブと謎の集団の追いつ追われつの物語となっている。謎の集団は政府内部に隠然たる力をもっており、キャットは身内のFBIさえも信頼できずに、孤立無援の中で事件の真相にせまることになる。初期のナンス作品は旅客機で空母に着陸するなどのアクロバット的な飛行がアイデアとしてあって、そこまでいかに物語をつないでいくかが焦点であったけれど、生意気な言い方を許してもらうなら、ここらのストーリー展開もずいぶん達者になったものだと感心する。それだけに、最後に明かされる事件の背景に説得力が欠ける点は少し残念だが、ささいな欠点であろう。
事件の真相には新たな軍事兵器の開発プロジェクトが関係しているのだが、その秘密を知る科学者のセリフ。
「この原則にはたくさんのバージョンがある。パール・ハーバーはもうひとつの原則だ。つまり、兵器か、あるいは新たな軍事能力を開発するための意志統一を図るには実質的な脅威がなければならない。その脅威がまだ存在していなければ、また、あんたがその必要性を心得た国家指導者ならが、それをでっちあげなければならないかもしれない。フランクリン・ルーズベルトがパール・ハーバーを犠牲にしたのは、勝利の時期を逸しないようにわれわれを戦争に駆りたてるためだった、とわたしは確信している。そんなぐあいにスプートニクも、われわれの宇宙計画を推進し、宇宙での軍事能力を高める役目を果たしたのだ」
真珠湾攻撃が卑怯な不意打ちであったかどうかは良く議論になる点で、アメリカは事前に知っていたという見方が日本では一般的だと思うが、米国でもそうした見方が小説の中で披瀝されるとはおもしろい。
いずれにせよ、なぜか日本ではあまり評判にならないが、本当はもっと評価されていい作者だと思う。有名になるとすぐにハードカバーになってしまうので、あまり大きな声ではいわないけれど。
| 書名 | ブラックアウト |
| 作者 | ジョン・J・ナンス |
| 翻訳 | 飯島宏 |
| 出版社 | 新潮社 |
| ISBNコード | 4-10-204716-6 4-10-204717-4 |