ウイニング・ラン


スポーツ・エージェント、マイロン・ボライターを主人公とするこのシリーズも本作「ウイニング・ラン」でいよいよ七作目となる。すでにお馴染みとなった脇役陣とマイロンの軽口も好調だが、ストーリーの方は軽さのうえに少し渋味もくわわって一層面白くなっている。

マイロンのかつての恋人エミリーが突然訪ねてくる。彼女の息子ジェレミーがファンコーニ貧血という不治の病で、治療には骨髄移植が必要だという。しかし、ジェレミーに適合する骨髄提供者が突然失踪したので、その行方を突きとめて欲しいというものだった。エミリーの夫でNBA選手のグレグ・ダウニングと浅からぬ因縁のあるマイロンは、自分はあくまでスポーツ・エージェントであるとして依頼を断ろうとする。しかし、エミリーはジェレミーの本当の父親はマイロンだと衝撃的な告白をするのだった。

今までのこのシリーズの基本的な構図はマイロンのクライアントであるスポーツ選手が事件に巻き込まれ、その解決にマイロンが活躍するというものだ。その事件を解決するなかで、マイロンに関する過去の出来事、たとえば彼がNBA選手を断念するにいたった経緯なども明らかにされてきた。本作ではマイロンの極めて個人的な事件で、行方不明の骨髄提供者をさがすうちに、FBIもからむ連続誘拐事件へと発展していくのだが、ここらの展開は実にうまい。二転三転する結末も含めて、このシリーズの魅力をいかんなく発揮していると言える。

マイロンがNBAを断念することになった事故が、ライヴァルであるグレグ・ダウニングの差し金であることは前々作「スーパー・エージェント」で明らかにされているが、この二人が今回はジェレミーをはさんで対峙することになる。その二人の会話。

「すまないという気持ちは、どう表現すればいい?」
「きみは表現した」とマイロン。
「だが、おまえは赦そうとしない」
「そのとおりだ、グレグ。わたしは赦さない。わたしはプロでプレーすることのない人生を生きる。きみはわたしに赦されない人生をいきる。どちらかといえば、きみのほうが幸せだ」

ところで、ジェレミーが本当にマイロンの息子なのか、という関心が読者をひきつけるが、これは読んでのお楽しみとしておきましょう。


書名 ウイニング・ラン
作者 ハーラン・コーベン
翻訳 中津悠
出版社 早川書房
ISBNコード 4-15-170957-6