ジェフリー・ディーヴァーの「死の教訓」は新作と思いきや、彼の最高傑作「静寂の叫び」より2年前、映画化もされて彼を一躍有名にしたかの「ボーン・コレクター」より4年前の作品で、日本では未公開だったという代物だ。どうりで、文庫本で出版されたわけだ。この手のいきさつのある本は時として空振りに終わることがあるのだが、どうだろうか。
インディアナ州ニューレバノンで半月の夜に、地元オーデン大学の女子学生ジェニー・ゲベンが殺されるという事件が発生する。捜査主任のビル・コードは被害者ジョニーの奔放な交友関係をあらうが、満月の夜に新たな被害者が出るにおよんで、周囲は犯人を”ムーン・キラー”と呼び、騒然としてくる。しかし、一方でビルには学習障害をもつ娘セアラの教育をめぐって悩みがあり、高校生になる息子ジェイミーが最初の事件の目撃者であったことがわかり、事件が彼の家族にも暗い影をおとしていた・・・。
四肢に障害を持つものの天才肌であるリンカーン・ライムと、これまた狡知にたけた犯人とがこれでもかと知恵比べをし、たたみかけるように展開する「ボーン・コレクター」以降のディーヴァーの作品と比較すると、かなりおっとりとした展開である。なにしろ、主人公ビル・コードは粘り強さだけが取り柄のような男で、物語の展開も彼の性格にあわせてある。しかし、それが欠点というよりもこの小説の持ち味になっている。とくに、娘セアラの障害のこと、何も問題がないと思われた息子ジェイミーの突然の離反、妻ダイアンとの気持ちのすれ違い、など家族に関する懊悩が丁寧に描かれており、読了後も味わい深いものが残る。まあ、最後の犯人の登場のさせかたは多少、乱暴でご都合主義とも言えるが、全体としては予想に反して秀作です。
さて、独善的とも言える犯人のセリフ。
詩人が純粋な叡智の光によって世界を理解するのに対し、余人は反射光によってこれを見るにすぎない。
| 書名 | 死の教訓 |
| 作者 | ジェフリー・ディーヴァー |
| 翻訳 | 越前敏弥 |
| 出版社 | 講談社 |
| ISBNコード | 4-06-273400-1 4-06-273420-6 |