航空管制官


航空物というジャンルがあって、最近ではジョン・J・ナンスの一連のシリーズが印象的である。しかし、航空物の主人公となると、やはり機長であったり、事故調査官であったりする場合が多く、本書ポール・マックエルロイの「航空管制官」のように航空管制官を主人公にしたものは少ない。

シカゴのオヘア空港で管制官を勤めるライアン・ケリーは自他共に認める腕のいい管制官だった。しかし、ある日彼が離陸管制をおこなっていたボーイング727が、降下中のほかの飛行機と接触するという大惨事が発生した。ケリーの管制ミスなのか、それともTCAS(航空機衝突防止装置)の衝突回避命令が間違っていたのか、さっそく事故の原因調査が始まった。しかし、ケリーの証言を裏付ける、肝心のブラックボックスが見つからず、またTCASを開発してきた政府側の思惑をからんで、調査の行方は混沌としてきた・・・。

このように粗筋だけを紹介すると、かなりサスペンス色が強い物語のような印象を与えるが、全体としてはむしろ、航空管制官の日常を描いた一般の小説といった感が強い。間断なく行われる離着陸をコントロールしながら、多くの人間の命を預かるというストレスの多い職業である管制官たちの仕事ぶりが丁寧に描かれている。一方で、航空管制の現場の描写はリアルに描かれているが、それに寄りかかりすぎており、サスペンスとしては物語の展開にもう一工夫ほしいところだ。

パソコンのソフトでもパイロットとして飛行機を飛ばすフライト・シミュレーションのゲームが主流だが、航空管制官を演じるシミュレーション・ゲームもあったような気がする。どこがゲームとして面白いのか理解しかねていたが、本書によってそれが分かったような気がする。

「どうして管制官になろうと思ったの?」
ケリーはいつもの答えを返した。「紳士の仕事をするほどの学もなかったし、重罪を犯すほどの肝っ玉もなかったから」


書名 航空管制官
作者 ポール・マックエルロイ
翻訳 熊谷千寿
出版社 早川書房
ISBNコード 4-15-041003-8
4-15-041004-6