夜の片隅で


過去におかした過ちを両肩に背負いながら、一分の矜持を胸に生きる男、とくればこれはもうハードボイルドの世界ですね。ジョン・モーガン・ウィルソンの「夜の片隅で」もそんな作品だ、ただ一点を除けば。

かつてエイズ患者に関するルポでピューリッツァー賞を獲った新聞記者ベンジャミン・ジャスティス。しかし、そのルポが捏造であることが発覚し、職を追われ、今では広告文を書いてなんとか生計をたてている。そんな彼のもとに元上司であるハリーがやってきた。とあるゲイバーの外で、資産家の息子が殺された事件を追ってくれというものだった。すでにヒスパニック系の少年が逮捕され、自白もしているという。若手の女性記者テンプルトンの教育もかねて、その事件を追うことになったベンジャミンだったが、やがて意外な真実が・・・。

殺人事件の真相という謎もあるのだが、なんといってもベンジャミンがなぜ記事を捏造したのかという謎が物語の進展にともなって、少しづつ明らかにされるという仕掛けになっており、興味深いところだ。主人公の背景にしろ、物語にしろ極めてオーソドックスなハードボイルドである。ただし、冒頭ただ一点を除けばと述べたのは、実は主人公ベンジャミンがゲイであるからだ。そうした性に関する指向とハードボイルドは両立するということなのだろう。ただ、極力、偏見を排して意見を述べるべきだとは思うものの、主人公がいちいち登場する男を品定めしているのは、読んでいて落ち着かない。おまけに、相当濃厚な男同士の性描写もあって居心地が悪い。物語の本筋ではないけれど、ここらの味付けは賛否両論ありそうです。

ベンジャミンがなぜ記事を捏造したか、その経緯を知った女性記者テンプルトンのセリフ

「ときには事実よりもフィクションに真実が宿っていると言うわね」

その理由は彼がゲイであることと深くかかわっているのだが、それは読んでのお楽しみにしておくべきだろう。


書名 夜の片隅で
作者 ジョン・モーガン・ウィルソン
翻訳 岩瀬孝雄
出版社 早川書房
ISBNコード 4-15-173151-2