バリー・アリスラーの「雨の牙」は東京を舞台としたハードボイルド小説です。日本でも三年暮らしたことがあり、日本語や柔道まで達者にこなすという著者の知識がいかんなく発揮されている。しかし、物語のほうはかなり伝統的なハードボイルドといって良いだろう。
日米ハーフの男ジョン・レインの稼業は殺し屋だ。そして今回のターゲット、国土交通省の事務次官川村も山手線の車中で見事にしとめた。心臓発作にみせかけて。しかし、直後に偶然知りあった新進ジャズ・ピアニスト川村みどりが今回のターゲットの娘だったと知って驚く。さらに、みどりを尾行する怪しい男、みどりに接触するフォーブス誌の米国人記者の存在など、事件は奇妙な方向へ動きだした。そしてレインに川村みどり暗殺の依頼がくる。みどりに心惹かれるレインは彼女をを救うために、依頼人に立ち向かうのだが、そこには日本の政界を揺るがす謀略が・・・。
物語全体としては、良くありそうなパターンではある。しかしその中に、自らが殺した男の娘との恋愛と別れ、宿敵との再会と対決、親友の死とそれにまつわる自分の役割、といったハードボイルドに必要なねたを全部盛り込んで、センチメンタルな味付けをすれば、こんな作品になるのでしょう。あまりに盛り込みすぎて、ひとつひとつが上すべりな印象が残るのが惜しまれるけれど。実は、初期の北方謙三の作品を思い出しました。アッ、念のため書き添えておくと、これはかなり褒めているつもりですよ。
ところで、日本人の生活や風俗に対して、ときおりみせる辛辣な観察眼も新鮮だ。川村みどりが青山にあるジャズ・クラブ、ブルーノートに出演することになり、それに触れるくだりである。
アルフィーの客はひたすら音楽が目当てで集まるが、ここブルーノートでは、客の目的はもうひとつある。ブルーノートにいる自分の姿を他人に見せることだ。
そのほかにも著者の東京に関する知識はかなりなもので、わずか三年の間に東京の繁華街で相当遊んだとみえる。弁護士さんだそうだから、お金はあるんでしょうね。
| 書名 | 雨の牙 |
| 作者 | バリー・アイスラー |
| 翻訳 | 池田真紀子 |
| 出版社 | ソニー・マガジンズ |
| ISBNコード | 4-7897-1802-6 |