愛しき者はすべて去りゆく


「スコッチに涙を託して」以来、このシリーズもいよいよ四作目となった。この著者は最近早川書房から出た「ミスティック・リバー」ではデニス・ルヘインとして紹介されているけれど、この角川文庫のパトリック&アンジー・シリーズでは最初からデニス・レヘインと紹介されている。まったく紛らわしいなぁ。もっとも、かのアマゾンで検索すると両方とも出てくるから助かるのですけどね。

私立探偵のパトリックとアンジーは、四歳の少女アマンダの誘拐事件の調査を依頼される。すでに警察も捜査している事件で、二人は乗り気がしなかったものの、アマンダの母親ヘリーンの母親失格ともいえる態度に、逆にアマンダへの同情をかきたてられ、調査を引き受けることになる。当初、麻薬取引のもめ事から行方不明になっていた二十万ドルと関係があると見られたのだが・・・。

物語の後半で登場する司法省のニール・ライアーソンはこんなことを言う。

「わたしは子供のころ、父親に連れられて狩りにいった。生まれ育ったノース・カロライナのブーンという町から遠くない山だ。父親はいつもこう言っていた。わたしが八歳から十八歳になるまで、いっしょに狩りにいくたびにね。気をつけなければならないのは、本当に気をつけなければならないのは、ムースやシカじゃない。他のハンターだと」

そして、その言葉通り「他のハンター」との対決という予想外の展開をみせ、パトリックとアンジーの二人の関係にも影響を及ぼしていく。

底辺には幼児虐待という暗いテーマが横たわっており、物語はなかなか重厚である。そして、事件の決着のつけ方の是非も、いろいろ考えさせられる。また、ミステリとして見たときにも、意外な展開とあいまって、期待通りの出来といってもいいだろう。さりながら、注文をつけるとすると、このシリーズの持ち味であった軽妙さが影をひそめているのがとても残念だ。重苦しいテーマを扱っても、パトリックとアンジーのコンビのある種の明るさが良い点だと思っていたのだが、シリーズを追うごとに雰囲気が暗くなっていくようで、とても気がかりだ。


書名 愛しき者はすべて去りゆく
作者 デニス・レヘイン
翻訳 鎌田三平
出版社 角川書店
ISBNコード 4-04-279104-2