エンプティー・チェア


いまさらことわる必要もないリンカーン・ライムシリーズの三作目、ジェフリー・ディーヴァーの「エンプティー・チェア」である。ライムとサックスのコンビも健在だが、今回は舞台をニューヨークからノースカロライナに移して、相変わらずのスリリングな展開で物語は進行する。

ライムは最先端の脊髄再生法の手術をうけるためにノースカロライナに出向いていたが、そこで事件への協力を依頼される。二人の若い娘が誘拐された事件で、犯人は”昆虫少年”と変人扱いされているギャレット・ハンロンだった。娘たちの監禁場所を知るために、得意の鑑識技術でギャレットの足取りを追うライムとサックス。だが、サックスにはその少年が犯人とは思えなかった。そしてサックスはライムの意見を無視して、単独で思いきった行動にでるのだった・・・。

期待にたがわず、ディーヴァーが手練れぶりを示している。特に、サックスとライムが追う者と追われる者にわかれる(なぜ、そうなるかは作品を読んでのお楽しみ)予想外の展開で読者の興味を高めている。そこでは「コフィン・ダンサー」でもさんざん用いた手口が効いている。たとえて言えば、まずAの側がaという行動をとることを描く。次にBの側がAのaという行動を予期し、bという行動をとったことを描く。そして、時間をさかのぼってAが実はcという行動をとっていたことを示す。うまく説明できたかどうか自信はないが、基本的にはこのパターンなんですね。それが判っていても面白い。そして、いつものように予想外の結末が待っている。まあ、さすがに脂がのりきっているといえるでしょうか。

また、この作品では”昆虫少年”と周囲から馬鹿にされていたギャレット・ハンロンが昆虫から学んだ知恵で、予想外の賢さを示し、大人たちの裏をかいてみせるのも痛快だ。

「僕らが別の方角の向かってると思ってるからだよ。町の南と東を封鎖してるんだ」
「どうしてわかるの?」
ギャレットは答えた。「僕の頭がおかしいと思ってるからだよ。連中は僕が馬鹿だと思ってる。人はさ、自分と違う人間を見ると、そう思いたがるんだ。ほんとは違うのに」

ディーヴァー作品ではよくあることだが、今回もまた、「静寂の叫び」の主人公アーサー・ポターの名前がちょいと出てくるなど、ディーヴァーファンが思わずにやりとしたくなるシーンがあって、ここらもファンの楽しみでしょう。


書名 エンプティー・チェア
作者 ジェフリー・ディーヴァー
翻訳 池田真紀子
出版社 文藝春秋社
ISBNコード 4-16-320400-8