ヴァル・マクダーミドの前作「処刑の方程式」はなかなか重厚な作品だったが、過去の「殺しの儀式」や「殺しの四重奏」とはすこし系譜の異なるミステリだった。その点、マクダーミドの新作「シャドウ・キラー」は「殺しの儀式」や「殺しの四重奏」につらなる作品といえる。女性犯罪心理学者フィオナ・キャメロンを主人公にすえ、連続殺人事件をテーマにしている。
犯罪心理学者フィオナ・キャメロンはその独自の理論を用いたプロファイリングによってロンドン警視庁だけでなく、スペイン警察からも協力要請がくるほどの活躍をしていた。一方、私生活ではミステリ作家キット・マーティンと同居生活を営んでいる。そんな折り、著名なミステリ作家が、自らの作品中で描いた残忍な方法と同じやり方で殺されるという事件が連続して発生する。また、キットのもとへも脅迫状が舞い込み、フィオナは恋人キットを守るためにも真犯人を求めて捜査に協力するのだが・・・。
「殺しの儀式」ではひょっとしてこいつが犯人ではと思わせる微妙な伏線のはりかたが印象的だった。「殺しの四重奏」では犯人は最初から提示されており、いかに追いつめて行くかが興味の対象だった。そして「シャドウ・キラー」では、事件の解決後に回収された犯人の日記の一部を読者にだけ見せたり、被害者のミステリ作家の作品中の殺害シーンを挿入したり、と新しい手法でサスペンスを盛り上げ、実に達者なところを見せている。ただし、真犯人の特定が肝心のプロファイリングではなく、むしろ幸運によってもたらされるのは少し物足りない気がする。また、物語の終盤は冒険活劇的要素が盛り込まれているが、ここらはご愛嬌でしょうか。
ところで、同業者のミステリ作家を被害者としているので、いろいろとうがった見方をしたくなりますね。被害者には実在のモデルがいて、日頃からマクダーミドとそりが合わない人物を殺害しているとか。また、三番目の被害者ジョージア・レスターに関してはこんな人物評が出てくる。
「たいての作家は悪い評が出ると、愚痴をこぼしたり、コンピューターのスクリーンに向かって悪態をついたりして、相当こたえるもんだ。そんなにやわじゃないと強がり言っているやつでもだ。でもジョージアは、悪い批評が出ると、その批評家に早く病気がよくなるように、というメモをつけて、花を贈るんだ」
これなんか、マクダーミドが日頃からやりたいと思っていることを語らせているようにも受け取れる。ちょっと、深読みにすぎるかもしれないけれど。
| 書名 | シャドウ・キラー |
| 作者 | ヴァル・マクダーミド |
| 翻訳 | 森沢麻里 |
| 出版社 | 集英社 |
| ISBNコード | 4-08-760401-2 |