凍りつく心臓


ウィリアム・K・クルーガーの「凍りつく心臓」は五大湖の北東に位置するミネソタ州アイアン湖畔の町オーロラを舞台にしている。北緯にして50度あたりで、日本の北海道よりも北にあたる。そんな厳しい自然の中で元保安官コークラン(通称コーク)・オコナーが活躍をみせる物語だが、読後にシブい余韻の残る秀作だ。

老判事のロバート・パラントの死体が書斎で見つかった。状況から銃による自殺と見られた。しかし、最後に老判事のもとを訪れたと思われる新聞配達の少年が行方不明になったままだった。少年の母親から相談された元保安官のコークラン・オコナーは事件の真相を求めて捜査を開始する。だが、コークのキャビンが何者かに荒らされ、第二、第三の殺人が起こる。やがて、老判事をめぐる秘密が明るみに出て・・・。

コークは保安官でありながら、ある事件が契機となって保安官の地位を追われ、夏は湖畔で観光客あいてのハンバーガー・ショップを営んでいる。弁護士である妻のジョーとは別居中の身で、愛人のモリーと付き合ってはいるが、子供たちのことも考え、妻とよりを戻したいと思っている。そんな折りにこの事件が起きる。根底でインディアンと白人の対立という政治的な背景をかかえる地域で、自らもインディアンの血が混じっているコークがどのように立ち向かうのか。ミネソタの美しくも厳しい自然の中で物語は展開する。

この「凍りつく心臓」はスティーヴ・ハミルトンのアレックス・マクナイトを主人公とするシリーズ物「氷の闇を越えて」や「ウルフ・ムーンの夜」を思い出させる。荒々しい自然に時には立ち向かいながら、時には共生しながらストーリーが展開するハードボイルド小説は、米国の新しい潮流といった感じでしょうか。

「人生がくれるものは、いいものであれ悪いものであれ、あたしたちがそれに値することはめったにないわ」

とは、コークの愛人モリーのセリフだ。コークと関係のある対照的な二人の女性、妻のジョーと愛人のモリー。その片方に用意されている過酷な運命。この筋書きには異論をはさみたくなるのだが、皆さんはどうだろうか。たが、この結末が物語に深みを与えているのも事実だ。シリーズ化されており、すでに三作目が出版されているようだ。次回作が楽しみなシリーズだ。


書名 凍りつく心臓
作者 ウィリアム・K・クルーガー
翻訳 野口百合子
出版社 講談社
ISBNコード 4-06-273260-2