不完全な他人


スチュアート・ウッズのデビュー作「警察署長」はちょっとした大河小説の趣もある作品だった。本書の後書きによれば、かれこれ二十年前のことになるらしいが、いまなおその印象は残っている。そのスチュアート・ウッズが最新作「不完全な他人」では交換殺人とうテーマに挑んでいる。しかし交換殺人があっさりうまくいっては小説にならない。どんな味付けをするかが作者の腕の見せ所となる。

サンディ・キンソルヴィングは義父の経営する会社でワイン事業部をまかされ成功していた。しかし、その義父が発作で倒れたとの連絡を受け、ニューヨークへ向かう機上の彼は憂鬱だった。なぜなら妻との関係は冷え切っており、仮に離婚ともなれば今まで築きあげてきたものを全て失うことになる。そんな時、隣席のピーター・マーティンデイルという男からお互いの妻の交換殺人を持ちかけられる。一度は交換殺人に同意したものの、サンディは直前になって後悔し、交換殺人の中止をピーターに申し入れるのだが、すでに歯車は動き出していた・・・。

余分な贅肉を廃して、スピード感のある展開で事件は進む。特に前半は意表をついた展開で、物語は二転三転する。一体結末はどうなるのだろうかと思わせるストーリーは巧みだ。だたし、後半はやや一本調子で、なにか裏があるのではという読者の期待を裏切る結果だ。というのもあまりの偶然が物語の展開の鍵になっているからなのだが、ここらあたりはネタをばらすことになるので書きにくい。とは言え、全体としてはさすがにスチュアート・ウッズという仕上がりだと思う。

ところで、小生のホームページは「酒とミステリの日々」というタイトルのくせに、あまりお酒の話が出てこないのだが、「不完全な他人」では主人公がワイン販売事業をしていることもあって、ふんだんにワインの話がでてくる。

「わたしはワインのことを、神と人間の完璧な共同作業の賜物と思ってる。神が土壌と気候と天気を提供し、人間が農耕と醸造技術と、何よりも重要な飲酒行為を提供する。神は寛容だぞ。できあがったワインをよこせとは言ってこないからな」

主人公サンディのセリフだが、こんな調子でどこそこの何年物などと小生にはちっともその価値が判らない高価なワインで女を口説いていくあたり、かなりスノッブではありますな。


書名 不完全難他人
作者 スチュアート・ウッズ
翻訳 峯村利哉
出版社 角川書店
ISBNコード 4-04-284203-8