オウン・ゴール


フィル・アンドリュースの「オウン・ゴール」は英国のサッカー・リーグ、プレミアリーグを舞台としたミステリだ。最近、稲本、西澤といった日本人プレミアリーガーが誕生したこともあって、実にタイミングの良い出版といえる。主人公スティーヴン・ストロングは離婚手続き中のさえない三十男、新米探偵として事件に首をつっこむことになる。

地元のプロサッカーチーム、シティ(これは架空のチーム)のスター選手が痴漢容疑で訴えられた。被害者だという女性がかつての同級生だったことから、スティーヴンは事件にかかわることになった。だが、シティの他の主力選手が飲酒運転や麻薬所持の疑いで、相次いで逮捕されるにいたって、なにやら陰謀の匂いがしてきた。探偵業のバイブルは「大いなる眠り」だけ、チャンドラーの書いたものなら買い物リストまで読破しているとうそぶくスティーブンの探偵稼業の結末はいかに!

と、いうわけでチャンドラー好きのハードボイルド・ファンには嬉しい作品だ。スティーヴン以外の登場人物もシニカルなユーモアの持ち主が多く、随所でニヤリとさせられる。事件の筋などあまり気にせずに、心意気だけはフィリップ・マーロウというスティーヴンの活躍(?)を楽しめばいい。同じようにサッカー界を舞台とした二作目もすでに上梓されているらしく、今後の楽しみなユーモア・ミステリと言っていいでしょう。

ところでサッカーに対する愛情とは別に、サッカー選手に対しては結構皮肉なセリフが目立つ。

「どうして自分は私立探偵になれると思ったんだろう?」と、わたしはいった。「アガサ・クリスティなら、いまごろ容疑者を書斎に集めて、動機と機会をずらりとならべあげてるところだ」
「サッカー選手は本を読まないから、書斎はないわよ。用具室で我慢しないと」

といったやりとりや、あるサッカー選手を評して次のような会話がある。

「長い単語つかっちゃだめよ」
「そんなにアホなのか?」
「彼がここにいるのは、ひとえに動物園がひきとろうとしないからよ。ゴリラが怖がるの」

こんな具合だから、ミステリ・ファンにはおすすめだが、サッカー・ファンには推薦できないかもしれない。


書名 オウン・ゴール
作者 フィル・アンドリュース
翻訳 玉木亨
出版社 角川書店
ISBNコード 4-04-288401-6