ハートウッド


ジェイムズ・リー・バークの「ハートウッド」は元テキサスレンジャーにて、現在は弁護士を営むビリー・ボブを主人公にしたシリーズ物で、「シマロン・ローズ」に次ぐ二作目である。ビリー・ボブはテキサスレンジャー時代に友人のL・Q・ナバロを誤って射殺した苦い過去をもち、今なおナバロの幻覚をたびたび経験している。強い正義感をもちながら、深い罪の意識と自らの暴力的な衝動をかかえる主人公ビリー・ボブの物語である。

ビリー・ボブにとって忘れることのできない、初めての女ペギー・ジーンが町に戻ってきた。大富豪アール・ディートリッチの妻として。しかし、ディートリッチ家のパーティーで盗難事件が発生し、ビリー・ボブの知り合いの農夫ピケットが容疑者として逮捕される。ピケットの弁護を引き受けたビリー・ボブだったが、ディートリッチの周辺では不可解な事件がたて続けに起こっていた。おまけにディートリッチの息子がからんだ青年たちの対立抗争、ペギー・ジーンの急接近と、ビリー・ボブはいやおうなく事件に深くかかわることになるのだが・・・。

主人公は弁護士だが、リーガル・サスペンスとはまったく無関係。むしろ、西部劇を連想したほうがいいだろう。事実、ビリー・ボブはときおり愛馬にまたがって行動する。そして日常的にふるわれる暴力が人々をまきこんでいく。一言でいえば”砂ぼこりと暴力”のイメージだ。ボストンあたりの私立探偵物とは一線を画する雰囲気を持っている。

それにつけても、男にとって最初の女との時をへた再会、しかも女は類いまれな美貌と富をもっている。実に甘美なシチュエーションですね。さて、うずくような欲望を感じながらも、いかにこれに処するか。ペギー・ジーンがかなり積極的にせまってきた時の二人のセリフ。

「アーネスト・ヘミングウェイはいったわ。あることを翌朝になっても後悔するようだったら、それはいけないことだから二度と繰り返しちゃいけない。もし後悔しなかったら、思い出のなかで喜びを噛みしめろ」
(中略)
「アーネスト・ヘミングウェイは私も大好きな作家だし、彼の勇気には頭がさがる思いだ。でも最後には彼は、ショットガンで自分の頭を吹き飛ばしてしまったんだよ。さよなら、ペギー・ジーン」

というわけで、やすやすと誘いに乗るようでは小説の主人公はつとまらないのだ。


書名 ハートウッド
作者 ジェイムズ・リー・バーク
翻訳 佐藤耕士
出版社 講談社
ISBNコード 4-06-273203-3