ドリームチーム弁護団


最近のリーガル・サスペンスではいろいろなパターンがあって、弁護士が主人公というだけで自ら事件解決に奔走したり、必ずしもその活躍の場は法廷とは限らない。しかしリーガル・サスペンスといえば、やはり華麗な反対尋問で思わぬ真実が明らかになり、真犯人が示され、依頼人は無罪になる、こんな法廷シーンが醍醐味だろうか。その点、このシェルドン・シーゲルの「ドリームチーム弁護団」は文庫本で800頁を越える大作で、たっぷり法廷シーンが描かれているオーソドックスなリーガル・サスペンスなのだが、全体としてはむしろ地味な印象を与える。

マイク・デイリーは大手法律事務所の弁護士でありながら、稼ぎが少ないことからあっさり事務所をクビになることに決まった。その最後の日、事務所内で二人の弁護士の射殺体が発見され、同僚でもあり親友であったジョエル・フリードマンが容疑者として逮捕される。デイリーは自ら開設した法律事務所の初仕事としてフリードマンの弁護を引き受ける。しかし被害者の一人、ダイアナが妊娠しており、その父親がフリードマンであるというDNA鑑定の結果が出たことにより窮地に追い込まれるのだが・・・。

「ドリームチーム弁護団」という邦題だが、デイリーの弁護団は「ドリームチーム」にはほど遠く、デイリーの別れた元妻や私立探偵をしている弟がチームを組んでいる。そのチームがいかに無罪を勝ち取るかが興味の焦点となってくる。冒頭、地味だと評したのも、検察側、弁護側ともに決定的な証拠を提示することができずに、白黒はっきりしないまま、その判定は陪審員にゆだねられるからだ。大向こうを唸らせるような真犯人の指摘もなければ、ひたすら検察側の主張に対して、ほかの人物による犯罪の可能性を弁じる。また検察側の証拠に対してほかの解釈も成り立つことを唱える。その点で物足りないのだが、実際の弁護とはこうしたものだという作者シェルドン・シーゲルの主張でもあるようだ。

「疑う余地のない立証」という観点からいえば、自ずとその判決の結果は判ろうというものだが、それが陪審員に任されているというのは、その制度になじみのない日本人から言えば、かなり奇異にうつりますね。

ところで、この本の魅力は主人公の中年男マイク・デイリーの語り口にある。時に自虐的、時に風刺に富んだ反応はなかなか魅力的だ。。

彼女は私を見つめて、ビジネスライクな口調で言う。「マイク、これは完璧に法にかなったことなの」
「わかっている」この場合、「法にかなった」という言葉は「薄汚い」と綴るんだ。

また、作者シェルドン・シーゲル自身弁護士なのだが、事件解決後にフリードマンとデイリーに次のようなセリフを言わせている。

「いや、実は昔から小説を書きたいと思っていたんだ。法廷ミステリだよ。ほら、ジョン・グリシャムみたいなやつさ」
私は笑った。「それは無理だ。あれは見た目以上に難しそうだ。それに、私の知っている弁護士は全員、小説を執筆中だ。もう新鮮味がないよ」

作者シェルドン・シーゲルの並々ならぬ自信の表れでもあろうが、同時に皮肉も効いている。後書きによれば、どうやらシリーズ物になるらしく、すでに二作目も出版されているようだ。


書名 ドリームチーム弁護団
作者 シェルドン・シーゲル
翻訳 古屋美登里
出版社 講談社
ISBNコード 4-06-273065-0