フィリップ・マーゴリンの「黒い薔薇」を読んだのはかれこれ数年前になると思う。さすがに細かなストーリーは忘れてしまったが、そのおもしろさは強烈な印象として残っている。そのマーゴリンの新作「野性の正義」だが、「黒い薔薇」に匹敵するおもしろさと言ってよいだろう。
麻薬課の刑事にかかってきた密告の電話。その電話に従って出かけた山小屋で刑事が見つけたは、拷問され臓器を抜かれた数々の死体だった。容疑者として逮捕された医師カルドーニは弁護士フランク・ジャフィとその娘で新米弁護士のアマンダに弁護を依頼する。どこか狂気をはらんだカルドーニの言動に不安を感じるアマンダだったが、事件は不可解な経緯をたどって、迷宮入りとなる。しかし、それから四年ふたたび同じような惨劇が起こる。
予想外の展開、ひょっとしてこいつが真犯人ではと思わせる伏線、最後のどんでん返しと、申し分ない。なにしろ全部で300ページあまりの本なのだが、68章からなっている。つまり1章あたり4.4ページという短さ。このめまぐるしい場面展開、テンポの良さがマーゴリンの真骨頂でしょう。
文句なく一押しの「野性の正義」なのだが、話をおもしろくするために、いささか強引で事件関係者の行動に説得力がない点や、真犯人がやはり!、といった感があるなど欠点もある。が、それとて読み終わってみての気づきであって、とにかく読者を楽しませるエンターテイメント性の高さは一級品です。
ところでリーガル・サスペンスに登場する弁護士と刑事や検察官は、敵味方に分かれて激しく対立するのが普通だが、この小説ではあまりに異常な事件に翻弄されながら、事件の解決に協力することになる。そこで弁護士であるアマンダと検察官や刑事との会話もユーモアのあるものとなっている。
グリーンは煮詰まった黒い液体をカップに注いだ。アマンダはひと口飲んでしかめっ面をした。
「何これ、もしわたしの依頼人にこんなものを飲ませているところを見つけたら、即刻あなたたちを訴えるわよ」
デヴォアは微笑み、グリーンは大声で笑った。
「弁護士用のコーヒーを特別に沸かしているんだ」
実社会の方では弁護士用のコーヒーだけでなく、気に入らぬ上司用のコーヒーなんてのもあったりするかもしれません、ネ。
| 書名 | 野性の正義 |
| 作者 | フィリップ・マーゴリン |
| 翻訳 | 加賀山卓朗 |
| 出版社 | 早川書房 |
| ISBNコード | 4-15-208351-4 |