スパイが集う夜


第二次世界大戦を舞台にしたスパイ物としてはケン・フォレットの「針の目」とういう秀作があります。ノルマンジー上陸作戦の上陸地点を察知したドイツの凄腕スパイ”針の目”が、その情報をもってドイツ本国へ戻るのを阻止しようとする英国情報部との追いつ追われつのスリリングな展開がひかっていました。ジョン・オールトマンの「スパイが集う夜」もその「針の目」を彷彿とさせるものがある。

米国へ潜入していたドイツの女スパイ、カタリーナ・ハインリッヒは原爆開発計画を知り、その実験データをたずさえ、英国を経由してドイツへ戻ろうとする。カタリーナを阻止しようとする英国情報部の追跡をたぐいまれな美貌と筋金入りの戦闘能力で振りきろうとするカタリーナ。一方、英国情報部は二重スパイとして古典文学の教授であるウィンターボザムをドイツに送り込もうとしていた。しかしウィンターボザム自身にはドイツの捕虜になっている妻を救いたいという目的もあって話は錯綜していく。

単なる追いつ追われつの物語りだけでなく、二重スパイとして潜入する話と妻を救出するという目的をからめて、はたしてどのように結末をつけるのか興味津々で、一気に読ませるものの、読み終わってみると、必ずしも成功はしていない。追いつ追われつの物語のほうも消化不良の結末で、次回作を匂わせる。

ヒットラー、チャーチル、ヒムラーといった歴史上の人物も登場してくるし、ドイツ国内の反ヒットラー勢力の存在(これも史実)が物語の解決に一役買っている。この反ヒットラー勢力についてヒムラーのセリフ。

ヒムラーは肩をすくめた。「くたくただ」と、彼は洩らした。「敵がみなドイツの外側にいてくれたら、これほど疲れんのだがな。それなら、敵と戦うのは楽しくもある。だが、敵が身内にいるとなると・・・」

この言葉を、小泉首相に進呈しておこう。改革の抵抗勢力を身内にかかえる総理の心境にぴったりかもしれない。


書名 スパイが集う夜
作者 ジョン・オールトマン
翻訳 広瀬順弘
出版社 早川書房
ISBNコード 4-15-040985-4