敬愛する巨匠ディック・フランシスの新作「勝利」だが、正直言えば感想を書くのが多少つらい。無論、いつものフランシス節は健在で、主人公の性格づけや職業に対するプロ意識など、おなじみのパターンで安心して読めるのだが、さすがに39作目ともなると巨匠といえどもお疲れのようだ。
ガラス工芸家のジェラード・ローガンの目の前で友人の騎手マーティンはレース中の事故で帰らぬ人となった。だが、マーティンはレース前に一本のビデオテープをローガンにことづけていた。しかし、ローガンがテープの中身を確認するまえに何者かによってテープは盗まれてしまう。やがて、正体不明の連中に襲われたローガンは、彼らの目的がビデオテープであることを知り、テープの行方と秘密を求めて調査に乗り出すことになる。
冒頭述べたように主人公の落ち着いた語り口にしろ、クライマックスでのガラス工芸家らしい反撃のアイデアなどフランシスらしい味をだしてはいる。でもいかんせん昔のようにどきどきしないのだ。これは巨匠の衰えなのか、はたまた読者たる小生の感性が鈍ったのか? それを知るために、フランシスの競馬シリーズでも白眉の「利腕」でも読み返してみるか?
フランシスのシリーズの主人公たちは職業にかかわらず本当の意味でも知性を感じさせてくれるが、これは今回とで例外はない。
「いかなる場合でも真実を語って害になることはない」プライアムが反論したが、もちろん、彼はまちがっていて、真実は信じられないことがあるし、害を及ぼすことがある。
| 書名 | 勝利 |
| 作者 | ディック・フランシス |
| 翻訳 | 菊池光 |
| 出版社 | 早川書房 |
| ISBNコード | 4-15-208347 |