略奪


アーロン・エルキンズというと人類学者ギデオン・オリヴァーが活躍するスケルトン探偵シリーズが有名だが、この「略奪」では新たにベン・リヴィアという美術鑑定家が主人公を勤める。

ベン・リヴィアは友人の質屋シメオンから絵の鑑定を頼まれる。なんとその絵は第二次大戦中にナチスによって略奪され、行方不明になっていたベラスケスの名画だった。ところが質屋に強盗が入り、絵は無事だったものの、シメオンが殺される。そしてその絵の本当の持ち主であると、ヨーロッパで三人の男が名乗り出てきた。シメオンの死に一端の責任を感じるベンはベラスケスの絵の来歴を求めてヨーロッパに飛ぶ。しかし、彼が会う人物が次から次へと殺されることになろうとは。一体、ベラスケスの名画をめぐって何が起こっているのか?

筋書きはこんな調子であるが、先の読めない展開が興味をかき立てる。ベン・リヴィアの個性がもっと描かれていれば良かったとは思うが。ミステリとしては平均点であろうか。

むしろこの作品では、美術品の略奪の歴史について教えられることが多い。いままで著名な美術館が所蔵している作品の来歴についてあまり気にしたことがなかったが、その裏には略奪とその正当化の歴史があることが判る。正当化の理屈として紹介されているのがエルギンの論理である。もしこの絵を盗まなかったら(あるいは持ち去らなかったら、没収しなかったら、押収しなかったら)、戦争によって荒廃(あるいは破壊、破損)の憂き目を見たでろうというもので、エルギン伯爵がトルコの破壊行為から守るのだという理屈をつけて、パルテノン神殿から彫刻をイギリスに持ち帰って以来、さまざまな形で利用されているらしい。かなりいかがわしい理屈だが、一面の真実を言っている側面もあるだろう。従って、ベンは次のように言う。

「善玉と悪玉を見分けるのは、必ずしも容易じゃないってことさ。とりわけ、その場にいなくて、事情をよく知らない場合はね。アルト・アウスゼーで起きたことにはいろんな面があったんだ」

アルト・アウスゼーとはドイツ軍が略奪した多くの美術品を貯蔵していた岩塩坑のあった地名である。このような中途半端な発言をしたばかりに、シメオンの姪アレックスとの仲が一時険悪になるが、そこは小説だ。最後はおさまるところにおさまるようになっている。

ところで、エルキンズのかのスケルトン探偵シリーズでは主人公ギデオン・オリヴァーは結構形態人類学者らしい口説き方をみせている。確か「氷の眠り」では次のような会話があった。

「君の鎖骨下窩はぞくぞくするほど魅力的だ」
「淫らなことを言うあなたって好きだわ」

この作品のベン・リヴィアも美術鑑定家らしくせまってくれると面白かったとおもうが、この点は残念。


書名 略奪
作者 アーロン・エルキンズ
翻訳 笹野洋子
出版社 講談社
ISBNコード 4-06-273066-9