メアリ・H・クラークの「月夜に墓地でベルが鳴る」は全体として好感のもてる作品に仕上がっている。猟奇殺人が起こったり、検屍官が主人公だったりと、濃厚な味付けのミステリが全盛の時代に、あっさりとした後味が好ましい。
かの「ヴォーグ」の仕事も引き受けるほど写真家として成功しているマギー・ハロウェイは、とあるパーティーでかつての継母ヌアラ・ムーアと出会う。マギーに対して優しい、いい継母だった。それから一週間後、ヌアラの自宅を尋ねたマギーが発見したのはヌアラの無惨な死体だった。単なる物とりの犯行にも見えたが、ヌアラが入居しようとしていた高齢者用マンションで不可解な急死が相次いで起こっていることが判る。そして、その人達の墓にベルが埋められていることをマギーは発見する。一体誰が何の目的でベルを埋めているのか? その真相を探ろうとしたマギーを生き埋めの恐怖が襲う。
早い場面展開と多彩な登場人物、そして意外な真犯人と、用意周到なストーリーがそつなく描かれている。高齢者用マンション(高級老人ホーム?)を舞台にした殺人事件となると、陰鬱な物語を連想するが、そうでもない。高齢にもかかわらず、なかなか元気で個性的な老人が登場するせいだろう。犯罪をテーマにした物語に対して妙な評価だが、なんだが明るく健康的なミステリといった印象がある。
まったく、本筋のミステリーとは関係ないがマギーの恋人となるニール・スティーヴンスの両親も思いやりのある人物として描かれているが、ニールの母親ドロレスはこう語る。
ドロレス・スティーヴンスは腕組みをして微笑した。「わたしのおばあさまお気に入りのせりふがあるのよ。”夫が家族の頭なら、妻は首というところだね”」ドロレスは一呼吸置いた。「”でも、頭を動かすのは首なんだよ”」
そうか、右を向いたり左を向いたり、首に動かされているわけですね。まあ、もっとも我が家では手足のごとく使われているような気もするけれど・・・。
| 書名 | 月夜に墓地でベルが鳴る |
| 作者 | メアリ・H・クラーク |
| 翻訳 | 宇佐川晶子 |
| 出版社 | 新潮社 |
| ISBNコード | 4-10-216615-7 |