ヴァル・マクダーミドという人は小生の評価が高いミステリ作家の一人だ。心理分析官を主人公にした、いわゆるサイコ物として「殺しの儀式」、「殺しの四重奏」を発表しており、いずれも出色のできだった。「殺しの四重奏」はそれなりに完結してはいるのだが、いかにも続きがありそうな終わり方だった。だから次回作を楽しみのしていたのだが、この「処刑の方程式」はまったく趣が異なる、別の作品になっている。本も分厚いが、中身も重厚だ。
時は1963年、イギリスの寒村スカーデールで13歳の少女アリスン・カーターが行方不明となる。この村は人里離れた場所にあり、住民のほとんどがカーターかローマスという姓を名乗る閉ざされた世界をかたちづくっていた。担当のジョージ・ベネット警部は、外部の人間を信用しない村民達に手を焼きながらも捜査を続ける。そして死体が見つからないまま、いくつかの証拠をもとに殺人事件として犯人を逮捕し、事件は解決したかに見える。しかし、それから35年後、一人の女性ジャーナリストがこの事件を本にしようと思いたった。単なる回顧録になる予定だったが、やがて思わぬ真実が明らかにされる。
「強い人だよ、ルース・ホーキンは。スカーデールみたいに自然の厳しいところで育つと、折れるより、たわむことを学ぶんだろうね」
行方不明になったアリスン・カーターの母親ルース・ホーキンについて(姓が違うのは再婚したため)、ジョージ・ベネット警部が語るセリフだ。しかし、そのたわむことを学んだ人たちがこの事件の裏で深くかかわっていたことが判るのだが・・・。
事件全体はありきたりで、大きな展開があるわけではないが、捜査の過程、そして裁判の様子が実に丹念に描かれている。そして何年もたってから、その真実が明らかにされるというストーリーも決して目新しいものではない。真実に行きあたるきっかけもやや安直かもしれない。にもかかわらず、十二分に堪能できる面白さだ。わたしの中ではますますマクダーミドの評価が上がった。
未読のマクダーミドの作品も読んでみたくなる一作だ。
| 書名 | 処刑の方程式 |
| 作者 | ヴァル・マクダーミド |
| 翻訳 | 森沢麻里 |
| 出版社 | 集英社 |
| ISBNコード | 4-08-760387-3 |