「このミステリがすごい!2001年版」でベストテン入りした「闇よ、我が手を取りたまえ」の続編、デニス・レヘインの「穢れしものに祝福を」である。すでに三作目となり、おなじみとなったパトリックとアンジーの二人の私立探偵が活躍する物語は好調だ。
前作で幼なじみのフィルを失った虚脱感から探偵稼業を休業中の二人だったが、大富豪トレヴァー・ストーンからの依頼を受けることになる。ストーンは強盗事件で妻を殺され、自らも癌におかされ余命幾ばくもない状態で、そのうえ一人娘のデジレーが失踪したというのだ。ストーンは語る。
「絶望は人を蝕む。起きていようと寝ていようと、戦おうと放棄しようと、同じように人を食らう。癌のようなものだ。そして、ある朝目を覚ますと、それ以外のあらゆる感情―歓喜、妬み、強欲、さらには愛さえも―が食らいつくされているのだ。残るのは、むき出しの自分と、絶望だけだ。そして、それに支配されてしまう」
フィルの死から立ち直れないでいる二人はこの言葉に共感を覚え、事件を引き受ける。ストーンは他の私立探偵に娘の捜索を依頼していたのだが、その私立探偵も行方不明になったというのだ。その私立探偵がパトリックに探偵術を教えた師とも呼ぶべきジェイ・ベッカーとあれば、なおさらのことだった。デジレーの足取りを追ううちに、《絶望の癒し》というカルト集団の存在が浮かび上がってくる。しかしこのカルト集団の存在は事件の表面的なものにすぎなかった。事件の真相はまったく違った様相を示していくが、その事実を知ったときに、パトリックとアンジーの二人が選んだ解決策は・・・。
このシリーズはパトリックの一人称で語られるのだが、その語り口の斬新さ、相棒のアンジーとの掛け合いの面白さに特徴がある。その意味では伝統的なアメリカの私立探偵物の系譜に属すると言って良い。すでに四作目も発表されており、クリントン大統領が夏の別荘に持っていく一冊に選ばれたという、いわくつきの作品だそうだ。
ところでこのシリーズでは本筋の事件以外にも、パトリックとアンジーの二人の関係の進展も注目したいところだ。お互いに初体験の相手であり、好意以上の感情を抱きながらアンジーは二人の幼なじみであるフィルと結婚、その結婚は悲惨な状態でありながら、仕事上のパートナーという立場にとどまろうとしている二人。そこがもどかしいながらも、なかなか良い設定であった。ところが、前作でフィルが死んでしまったもので、二人の関係もあっさり進展している。いささか、あっさりしすぎて拍子抜けしたが、この状況ならクリントン大統領も”不適切な関係”とは言わないだろう、きっと。
| 書名 | 穢れしものに祝福を |
| 作者 | デニス・レヘイン |
| 翻訳 | 鎌田三平 |
| 出版社 | 角川書店 |
| ISBNコード | 4-04-279103-4 |