海外ミステリ・ベスト100

-ハヤカワ文庫名作ガイド-


今回は少し毛色の変わった本について書こう。ハヤカワ文庫の中から選ばれた海外ミステリのベスト100について紹介したその名もズバリ「海外ミステリ・ベスト100」である。ハヤカワ文庫の創刊30周年を記念して行われた企画物である。少し前に出版されたものだが、本の腰巻きに「どのミステリを読んだらいいか、迷っているあなたに贈る入門書」とあって、手を出さずにいたのだが、ミステリ初心者でなくても結構おもしろいのだ、これが。

選ばれたベスト100を眺めながら、ふむふむなるほどと頷いたり、自分だったらこちらを選ぶんだが、などと考えているとあっという間に時間がたっている。ちなみにベスト10を紹介しておくとこんなラインアップにあっている。

でも、これを見てしまうとミステリ・ファンなら一言も二言も言いたいことがあるはずで、議論はつきないところでしょうね。ベスト100の作品については簡単な紹介も書かれており、昔読んだ作品について新しい発見もあって楽しい。また、作品だけでなく、登場キャラクターのベスト30なんてのもあって、これも面白い。ディック・フランシスの競馬シリーズで三度登場したシッド・ハレーがエルキュール・ポアロやモース主任警部をおさえて堂々4位に入っているのを見て、嬉しくなってしまった。皆さんお目が高い。

巻頭でミステリ名場面として紹介してあるのは、今更ながらではあるけれど、「長いお別れ」の名セリフです。

彼は手を顔にあげて、色眼鏡をはずした。
人間の眼の色はだれにも変えることはできない。
「ギムレットにはまだ早すぎるね」と、彼はいった。

やはりこのセリフははずせないでしょう。このホームページのタイトルにしたかったぐらいだから。ただ、同じチャンドラーの作品から選ぶなら「タフでなければ生きていけない。優しくなれなかったら生きていく資格がない」というセリフのほうを選ぶ手はあったと思うけれど。ホントにこんな事を考えながら読んでいくと時間がたつのを忘れてします。

ただ、このリストを見て同時に気づくことがある。海外ミステリを日本に紹介するという役割のなかで早川書房の相対的な地盤沈下をも感じてしまうのだ。つまり古典的なミステリに関してはこのベスト100でまずカバーされているのだが、最近の作品となるとパトリシア・コーンウェル(これは講談社)や、ジェフリー・ディーヴァー(「ボーン・コレクター」以降は文藝春秋社)は対象外となっている。早川書房以外の出版社もミステリに力を入れている関係もあって、ファンには一面で喜ばしいことなとだが、10代の頃からお世話になっているハヤカワ文庫の衰え(?)はすこし寂しい気もする。あらためて声援をおくりたい気分だ。いずれにせよ、この本は初心者ではなく、すれっからしのミステリ・ファンにこそ楽しい本である。


書名 海外ミステリ・ベスト100
作者 早川書房編集部編
翻訳  
出版社 早川書房
ISBNコード 4-15-078502-3