スペンサー・シリーズで有名なロバート・B・パーカーが女性探偵を主人公に新しいシリーズを書きあげた。ヒロインの名前はサニー・ランドル、身長168センチ、体重52キロ、愛用のスミス&ウェッソン38スペシャルを片手にボストンを舞台に活躍をみせる。
サニーは著名な銀行家ブロック・パットンから家出をした娘ミリセントを探し出すように依頼をうける。町中で売春婦をしていたミリセントを見つけたものの、ミリセントは家に帰ることをかたくなに拒む。そうこうするうちに、サニーとミリセントは何者かに命を狙われる。ミリセントの家出には次期知事選にからんだ秘密があったのだ。
あらすじはこんな感じなのだが、随所でスペンサー・シリーズを彷彿とさせるシーンが出てくる。サニーが自立できていないミリセントにあれこれ教えるシーンはスペンサー・シリーズ「初秋」のスペンサーとポール・ジャコミンの関係を思い出させる。腕立て伏せをミリセントに教えるシーンでは次の会話がかわされる。
「でも、六回できたのよ。毎日続ければ、そのうちちゃんとできるようになるわ」
「それがなんなの? わたしは腕立て伏せなんか嫌いなのよ」
「できるんなら、やるかやらないか自分で決められるわ。でも、できないからやらないっていうんじゃ、自分で決めたことにならないでしょ?」
ミリセントは顔をしかめた。筋は通っているような気がするものの、むじかしすぎてよくわからないとでもいいたげに。
「腕立て伏せなんて、できてもできなくてもいいじゃない?」
「わたしは一般的な話をしてるのよ。いろんなことができれば選択の幅が広がるわ。選択の幅が広がれば、人生がより楽しくなるはずよ」
また、依頼人であるブロック・パットンは初対面でサニーの銃の腕を試そうとし、邸内の射撃場で放り投げた円盤を撃ち落としてみせるように要求する。それに対してサニーのみせる行動もまたスペンサーを連想させる。
円盤はまっすぐ三十フィートほど上がったのち、小屋の八フィートほど先の濡れた芝生の上に静かに落ちて、ぱたんと倒れた。わたしは芝生を横切ってそばへ行き、十八インチほどの距離から円盤の真ん中を打ち抜いて粉々に砕いた。パットンはわたしをにらみつけた。
「三十フィート上空から落ちてくるものを撃つ必要性に迫られることはないので」とわたしはいった。「この銃は至近距離用で、それ以外の用途の銃は必要ないんです」
いささかスペンサー・シリーズに食傷気味で、最近は新しい作品にも目を通していないのだが、ちょっと新鮮な素材を使うことによって目先が変わっておもしろくなっている。スペンサー・シリーズの焼き直しにすぎないといった批判もあるだろうが、わたしは嫌いではない、このタッチが。
| 書名 | 家族の名誉 |
| 作者 | ロバート・B・パーカー |
| 翻訳 | 奥村章子 |
| 出版社 | 早川書房 |
| ISBNコード | 4-15-075674-0 |