ブライアン・フリーマントルの「屍体配達人」である。はじめの三分の一を読むのはかなり忍耐が必要だ。物語はセーヌ川の遊覧船の舳先にかけられた若い女性の生首が発見されるシーンで始まる。続いて、ヨーロッパの各地でバラバラ死体が発見される。そこで、ユーロポールに所属する心理分析官である主人公クローディーン・カーターの登場となる。ところがだ、一向に事件の捜査は進まない。そもそも、ユーロポールは欧州共同体で新たに設立した警察機構でインターポールの欧州版と思えばいいのだが、創設間も無いこともあって、各国の警察と良い関係が成立していない。それにユーロポールに各国から参加している理事たちそれぞれに政治的な思惑がからむ。また、クローディーンも自殺した夫にからむ詐欺事件で英国警察から聴取をうける。こんな話しが続くのでイライラしながら読んでいくのだが、そのうち「ひょっとして、組織の中で生き残るというためにはこれが当たり前で、われわれ日本人が淡泊すぎるのかもしれない」といった気持ちになってくる。女性ながらそんな世界で生き抜くクローディーンの精神的なタフネスに妙に感心したくなるのだ。
そんな事件もクローディーンとチームをくむ病理学者で検屍を担当するロサッティとコンピューターの専門家で情報収集を担当するフォルカーの活躍によって、ある組織が黒幕として浮かび上がり、解決への向かっていく。このロサッティとフォルカーはなかなか個性的なのだが、ともにプロらしい気概を持っている。クローディーンはロサッティとの初対面で、不備な検屍報告を元に鑑定意見を出すように求めることをわびる。
「わたしだってたとえ不備はなくても他人の集めた資料でプロファイルを作成しようとするなんて不本意なんですけど」
「やってみましょう。それでもし結論を出せなければ、そう言います。わかった振りをして、あなたをミスリードするようなことはしませんよ」ロセッティは約束した。
どうです、不可能を可能にするのもプロだけど、出来ないことを出来ないと言い切れるのも、またプロの証拠ですね。いずれにせよ、クローディーンは心理分析官であるが、プロファイラーというより、優秀な刑事といった印象だし、いわゆるサイコ・ミステリを想像してはいけない。まあ、サイコと言えば、保身のために政治的に立ち回るユーロポールや各国の警察の幹部のほうがよほどサイコかもしれない。
| 書名 | 屍体配達人 |
| 作者 | ブライアン・フリーマントル |
| 翻訳 | 真野明裕 |
| 出版社 | 新潮社 |
| ISBNコード | 4-10-216535-5 4-10-216536-3 |