ジェフリー・ディーヴァーの作品は「ボーン・コレクター」が当たっていらい、過去のハードカバーが矢継ぎ早に文庫化されている。たいへん結構なことだ。この「監禁」は日本では1998年の出版されたものだが、のちの「静寂の叫び」や「ボーン・コレクター」の原型がすでにここにある。
元検事のテイト・コリアは別れた妻と娘の三人で昼食をとる約束をしていた。ところが、その約束に娘のミーガン・マコール(マコールは妻の姓)が姿を見せない。父母への激しい憎悪をつづった書き置きが発見されたことから、警察は単なる家出だと判断する。しかし状況に不審な点を感じたテイトは元妻と一緒に捜索を開始する。警察の公式の協力が得られぬまま、ミーガンが付き合っていた画家志望の青年や、中年教師、テイトの旧友の刑事コニーの助けを受けて、彼女の足取りを追う。
その頃、ミーガンはアーロン・マシューズという男によって古びた教会に監禁されていた。彼女の足取りを追うちに、その教会の存在が浮かび上がってくるが、探索に協力する人たちもマシューズの悪辣な企みの前に一人一人、犠牲となっていく。しかしマシューズの目的はいったい何か? やがて、テイトが二年前に検事の職を辞するきっかけとなったある事件がマシューズの動機と深くかかわっていることが判るが、ミーガン救出のタイムリミットは迫っていた・・・。ディーヴァーの小説では奸知にたけた犯人が多く登場するのだが、中でもこのアーロン・マシューズはその邪悪さにかけて図抜けている。セラピストという仮面をかぶって、言葉によって他人の心を操るのだ。彼は被害者の耳許でささやく。
「アリストテレスの言葉を知っているか? 腕力で身を守れても、言葉で守れないのは悲しいことだと言っている。言葉を操り、説得する能力こそが、人間の生まれ持った、より崇高な本質なのだ」
その言やよし。しかし、その能力を卑劣な企みにつかうアーロン・マシューズ。かたや、学生時代から数々の弁論大会で優勝し、検事となってからも多くの有罪を勝ち取ったテイト・コリア。となれば、最後は彼らの言葉の対決とならなければならないが、そこはジェフリー・ディーヴァーのこと、抜かりはない。もっとも、テイトの側に思わぬ隠し玉があって、ずるいという見方もできよう。
巧みな展開で読者を楽しませるミステリ部分だけでなく、テイト・コリアと多感な年頃の娘や、別れた妻との関係などもしっかり描かれており、全体のバランスは「ボーン・コレクター」よりも上と見た。
書名 監禁 作者 ジェフリー・ディーヴァー 翻訳 大倉貴子 出版社 早川書房 ISBNコード 4-15-079557-6