「これが噂のバルダッチ」とは、本の腰巻きのキャッチ・コピーだ。そんなに噂になっているとは知らなかったが、確かに過去の二作「目撃」、「全面支配」ともにわたしの評価は高い。宝島社の「このミステリがすごい」でベストテンに入ってないのが信じられないぐらいだ。スケールの大きな犯罪とテンポの良さが売り物だ。ちなみに処女作「目撃」はクリント・イーストウッド主演で映画化されたが、映画のほうは駄作で、これをもってデイヴィッド・バルダッチを判断してはいけない。最新作「運命の輪」はこんなお話だ。
生まれたばかりの娘をかかえて、トレーラー・ハウスでぐうたら男と同棲しているルアン・タイラー。そんな彼女に、ある日ジャクソンとなのる謎の男が近づいてくる。宝くじを一枚買って、番号を教えてくれたら宝くじに当たることを保証するというのだ。あまりに胡散臭い話しに迷うルアンだったが、同棲している男の殺人容疑が我が身に降りかかってきたことによって、決断を余儀なくされる。そして、ついに1億ドルという大金を手に入れ、ジャクソンと二度とアメリカに戻らないという約束のもと、まったく新しい身分を手にいれ世界を転々とすることになる。
そして十年がたち、ルアンは成長した娘と共に密かにアメリカに戻ってくるのだが、宝くじの不正を追う一人のジャーナリストがいたことから彼女の計画はくるっていく。ルアンの帰国を知り、事件を闇に葬ろうと画策するジャクソン、過去の殺人事件を追うFBI、そして正体不明の建設業者などがいりみだれた展開は、最後ルアンとジャクソンの対決へむけてますますスピードを上げていく・・・。宝くじの不正を追う「ワシントン・トリビューン」の記者ドノヴァンは、過去の宝くじ当選者の75%はのちに破産宣言をしているにもかかわらず、ある年の当選者、ルアン・タイラーをはじめとする十二人は一人として破産していないことに気づくのだが、これはなかなか面白い着想だ。そしてルアンに向かって言う。
「全国宝くじに関する記事を書こうと思いたった。個人的には、すべて茶番だと思っているよ。わが国の政府は、もっとも貧しい連中を相手にそれをやっているんだ。ひっかかりやすい広告をならべて、あんなふうに眼のまえにニンジンをぶらさげ、社会保障の小切手を現金に換えさせるように誘い、百万分の一の確率しかないものをやらせる。(中略)とにかく、わたしの独創的なアングルは、貧乏人が大金をあてたあとで、金持ちが彼らからまた吸い上げる、というものだった」
アメリカの宝くじの当選金額は日本と比較にならないぐらい高額だから、同じように論じることはできないかもしれないが、基本的な構図は一緒かもしれませんね。日本のジャーナリズムも一度実態をとりあげて欲しいものだ。
と、話が横道にそれてしまったが、謎の男ジャクソンは千変万化の変装の名人で、宝くじの当選番号に簡単に細工ができたり、おまけにFBIの証人保護プログラムのデータベースにアクセスできるほどの権力をもっている。一方でルアン・タイラーは美貌のみならず、男顔負けの力の持ち主だったり、いささか現実味が薄いところがあって、そこらが人によっては評価が分かれるところだろう。しかしページ・ターナーであることに間違いはない。主人公のほど良く抑制のとれたロマンスもあいまって、上質のエンターテイメントに仕上がっている。
書名 運命の輪 作者 デイヴィッド・バルダッチ 翻訳 北澤和彦 出版社 講談社 ISBNコード 4-06-264972-1
4-10-264973-X