最後の人質


ジョン・J・ナンスは現役パイロットという経験をいかして、飛行機を舞台にしたサスペンスを何作か発表している。「着陸拒否」では、謎の病原菌に感染した患者を運ぶ旅客機が着陸拒否にあい、迷走する姿を描いた。「メデューサの嵐」では核爆発と共に発生する電磁波パルスですべての電子回路を破壊するという兵器を積み込んでしまったボーイング727の物語だった。もし爆発が起こればアメリカの東海岸は壊滅的な影響をうけるという設定だ。刻一刻とせまるタイムリミット。巨大なハリケーンに翻弄されながら米国を救うために機長をはじめとして乗組員は危険な解決策に挑む、といった展開だ。
飛行機を物語の中心に据えて、緊迫感のある展開はお手の物といった作家だ。

この最新作の「最後の人質」も飛行機が舞台であることにかわりはないが、趣はかなり異なっている。従来の作品がパニック小説の範疇に入るのにたいし、かなりミステリ色が強くなっている。とにかく設定がユニークで、面白い。
ボーイング737がロッキー山脈上空でハイジャックされる。しかし、その状況はかなり不可解なものだった。おまけにハイジャッカーの要求は二年前に起きた少女殺害事件の容疑者を逮捕し、起訴しろというものだった。そして、人質の中にはその事件を担当した連邦地区検事もおり、犯人不起訴の責任があるという。FBIの若い女性捜査官キャット・ブロンスキーが交渉にあたるのだが、自らも人質になってします。しかも、二年前の殺害事件には隠された真実があることが判って、事態は一層混迷への向かうのだが・・・。

前半はハイジャッカーの正体は何者かといった関心で、後半は二年前の事件の真犯人は誰かといった関心で、上下二巻をあっという間に読んでしまった。どのように設定がユニークかここで書くわけにはいかないが、是非一読あれ。

さて、物語の途中で、飛行機の操縦を任せようと言う機長に向かって、FBI女性捜査官キャット・ブロンスキーはいう。

「ケン、やめて! 気取ったブロンド娘が旅客機を着陸させる、あほくさい映画のシナリオとは違うのよ! あなたが地上に降ろさなきゃだめなの!」

ここらあたりは、飛行機をを舞台としたミステリを書きながら、B級パニック映画とは違うぞという、パイロットでもあるナンス自身の気持ちが表れているセリフだろう。

ただ、本の内容と直接関係はないが、この小説では機内放送や、登場人物が頭の中で考えたことなどを表示するのに、やおら文字のフォントが変わるのである。前作でもそうなっていたのだが、なんとも読んでいて具合が悪い。これって、斬新な試みのつもりなんだろうか、新潮社さん? 


書名 最後の人質
作者 ジョン・J・ナンス
翻訳 飯島宏
出版社 新潮社
ISBNコード 4-10-204714-X
4-10-204715-8