ローレンス・ブロックの泥棒バーニイ・シリーズはポケット・ミステリ版の時代から楽しみにしていたシリーズである。だが、ローレンス・ブロックのもう一つのシリーズ、マット・スカダー物がどうしたことか、評論家のみなさんの評価が高く、スカダー物の新作は出ても、バーニイ・シリーズの新作は一向に出る気配がなかったのだ。ところが、やっとこのたび、新しく六作目「泥棒は野球カードを集める」が出版された。後書きによれば11年間待たされたことになる。
バーネガット書店という古本屋を営みながら、泥棒稼業にもいそしむバーニイ・ローデンバーは目を付けた高級アパートに忍び込んだはいいが、なんと浴室に死体がころがっていた。そのうえ身に覚えのない野球カードの盗難の嫌疑もかけられてしまう。ところが、その野球カードに関係する人物たちは、どういうことかバーニイの本業を知っており、その腕を見込んで一儲けしようと話を持ち込んでくる。嫌疑をはらしながら、殺人事件の真相をつきとめ、かつ古本屋を続けるための資金を稼ぐために、バーニイの頭脳はフル回転をするのだが・・・。
バーニイの友人、レズビアンで犬の美容師をしているキャロリンも健在。いまでこそ、こうした設定の登場人物は珍しくはないが、当時は随分新しいキャラクターの設定であったとおもう。
古本屋という商売をしていることもあって、その関係の話題も盛り込まれている。スー・グラフトンのキンジー・ミルホーン・シリーズについて、誰もが思う疑問について、バーニイとキャロリンはこんな会話をしている。
「それそれ、ねえ、バーン、わたしの願いがわかる? どうか彼女が二十六作だけでやめないでほしいと思ってるのよ。でも、アルファベットを全部使ってしまったら、キンジーはどうなるの?」
「真面目に訊いてるのかい? 冗談じゃない。そのあとは二文字シリーズにはいるのさ。まず『アル中のAA(アルコール依存症自主治療協会)』、次は『空気銃のBB』、さらに『ライダーのCC』。(後略)」こんなところもミステリー・ファンには嬉しいところ。さすがに前作から年月が経ち、以前にバーニイが巻き込まれた事件などあまり記憶にないのだが、まあそんなことは知らなくても気楽に楽しめばよい。暑い夏、コテコテのミステリーはちょっと、という向きにはお薦めの一作だろう。
書名 泥棒は野球カードを集める 作者 ローレンス・ブロック 翻訳 田口俊樹 出版社 早川書房 ISBNコード 4-15-077461-7